映画「スポットライト」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 初代バットマン(マイケル・キートン)と超人ハルク(マーク・ラファロ)が組んで、またぞろ、新しいヒーローリーグの結成かと思いきや、二人そろってボストン・グローブの記者なんだって。ま、それはともかく…本作は、アカデミー賞作品賞、脚本賞をW受賞。はてさて、その実力は…ムムッやはりダテじゃない。

 タイトルの「スポットライト」は、本作のメインキャストらが働く地方紙ボストングローブの調査報道欄の名称で、一つのテーマを深堀りし、1年にわたって連載する。その担当リーダーが、ウォルター‟ロビー”ロビンソン(マイケル・キートン)。その下に、行動派の熱血記者マイク・レゼンデス(マーク・ラファロ)や地道で粘り強い取材が光る紅一点のサーシャ・ファイファー(レイチェル・マクアダムス)とデータ分析担当一人の計4人の小所帯。

 ボストン・グローブ紙の会議室で、新任編集長バロンが下した方針は、「“ゲーガン事件”を詳しく探れ」というもの。これはゲーガンという神父が、児童への性的虐待を30年にわたって繰り返したとされる事件だったが、教会サイドは全面否定、新聞もベタ記事扱いで続報もなく、ニュースバリューに乏しい案件だった。

 案の定、真っ向から反対する編集幹部。それもそのはずで、当地において教会は地域に根差し、住民にとって敬愛と羨望の的であり、組織トップの枢機卿は名だたる有力者。しかもグローブ読者の5割がカトリック信者ときては、記者の誰もが敢えて触れたがらない。俄かに、当地に疎く、堅物のユダヤ人である新編集長に疑問の声が上がるが、バロンは一歩も引かない。そこには、一種、動物的ともいうべき鋭く研ぎ澄まされた嗅覚とともに、ネット時代における紙メディアという立場の危機意識を蔵し、その答えとして、読み応えのある記事を掲載するしか道はないという揺るぎない信念のなせる業だったろう。

 心ゆさぶられたシーンはこうだ。熱血記者であるレゼンデスの働きにより、鉄壁のガードだった神父の犯罪の証拠文書をつかむ。これを掲載すればスクープは間違いない。いわずもがなだが、どこの新聞社も喉から手が出るほどスクープがほしい。しかし、チームリーダーのロビーは首を縦に振らない。いわく、これを記事にしても、枢機卿による形ばかりの謝罪と通り相場の示談金でトカゲの尻尾切りされるのが関の山。ほとぼり冷めて、犯罪はまた繰り返されるだろう。もうこれ以上の犠牲者を出さないためには、教会の組織ぐるみの隠ぺい体質を暴くしかないのだと。

 地団太踏むレゼンデスだったが、泣く泣く承諾する。がその矢先、9・11米同時多発テロが発生し、取材活動は中断を余儀なくされる。それでも手を休めることのなかったスポットライトチームは、翌年早々、その総力を挙げて積み重ねた取材成果をついに紙面化した。さてその結末はいかに…。

 第四権力と評されるメディア。とりわけ新聞は社会の木鐸と言われ、玉石混淆のネット情報に比して、今日でもかなりの程度、信頼度を誇る。かつまた権力のチェックはもとより、一隅を照らすなどその社会的使命は大きい。しかしややもすれば、自己陶酔的で、独善的で、暴走しがちでという青臭さを放ち、さらにはイデオロギーむき出しの国益そっちのけで現政権批判を絶叫し、恬として恥じぬ、懲りない新聞社がわが国内にいまだに健在だ。

 それはそうと、本作が描くスポットライトチームも危うい立場にいたことは間違いない。タブーに果敢に斬り込むこと自体はむしろ新聞記者冥利に尽きよう。がしかし、非常に特殊な環境だったにせよ、本来警察がやるべき仕事にまで手を染めていると思わざるを得ないからだ。それだけに、チームリーダーのロビーは、常に薄氷を踏む思いだったろう。

 本作は、こと世界12億のカトリック信者に大きなショックを与えるだろう。(たとえ既知の情報だったとしても)しかし、だから宗教は…と短絡はしまい。カトリック聖職者の独身制の問題は劇中でも指摘され、その意義や価値について再考を要しよう。もっともこの問題に対して、さしもの改革派法王フランシスコにしても、その廃止は言下に否定しているが…。

 とまれ、「絶対権力は絶対腐敗する」(アクトン卿)のであって、これは歴史の鉄則であり、国家も宗教も政治もメディアも一般企業も一たび「組織」をなさば、すべからく心すべき教訓だ。そして民主主義がそうだったように、「絶対権力」を生み出さない知恵も組織にはあるはずだ。

(出演)
マイケル・キートン、マーク・ラファロ、レイチェル・マクアダムス、リーヴ・シュレイバー、ジェイミー・シェリダン、ジョン・スラッテリー、ブライアン・ダーシー・ジェームズ、ビリー・クラダップ、スタンリー・トゥッチ、ほか
(監督)トム・マッカーシー