読売シリーズ「いま虐待の現場で」が示すわが国の真実 | 世日クラブじょーほー局

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「お風呂場で、父に何をされているのか、わからなかった」で始まるこの記事を読み、むろん情報としてこういうことはわかっていても、当事者の生の声は胸にきりきりと突き刺さり、途方もない絶望感を禁じえなかった。

 18日付読売くらし欄で始まったシリーズ「いま虐待の現場で」の記事に取り上げられた東小雪氏は、今年「なかったことにしたくない~実父から性虐待を受けた私の告白」を上梓した。2006年まで宝塚に在籍していたという彼女の写真は記事内容とは対照的に、その美貌に眩い笑みをたたえている。

 東氏は宝塚退団後、正体不明の不安感を伴う、うつ症状に苦しめられ、催眠療法によって性虐待の記憶がよみがえったのだそうだ。

 東氏の記憶では、「小学校2年の頃から挿入を伴う行為が始まり、学校に行けなくなった。正常だった視力が極端に落ちて視野が狭くなり、けいれんの発作も出るようになった。拒食の症状も表われたが、父親による性虐待は中学2年で初潮が訪れるまで続いた」のだそうだ。

 幼稚園の頃、母親にこのことを訴えたのだという。しかし母親は背中を見せたまま、振り向きもしなかった。それから東氏は子どもごころに「取り返しのつかないことを口にした、と感じ、お風呂場で起こったことを『なかったこと』にしてしまいました。それが嫌われずにすむ最善の方法だ、と思った」という。

 その父親が亡くなってから母親は虐待があったことを認めたそうだが、その後また否定し、今日にいたる。

 今現在東氏は、虐待の被害者として講演活動を行っているようだ。自分の話を公にすることが、他の被害を受けた人が立ち上がる勇気になれば…という。

 実は東氏は昨年3月、パートナーの女性と東京ディズニーリゾートで初の同性カップルによる結婚式を挙げた。忘れもしないその様子のカラー写真が当時読売に掲載されていた。ショッキングなダブルウェディングドレスだった。その時はまさか幼少期に虐待被害を受けた人とは想像もしなかったが。

 本シリーズ2回目の記事によれば、「2011年に全国の児童相談所に寄せられた性虐待の相談は全体の2%にあたる1460件。米国では6.2%の5万4906件。日本では埋もれたままの被害が相当あるとみられる。」と分析している。米国に比べればまだいいほう…なんて言えるかい!

 しかし通常、大の大人が女児などに欲情しない。いわんや己の血を引く実の子においておや。これは異常者以外の何者でもないが、この異常者とてそうなるに至った悲惨な経緯があるのかもしれない。腑に落ちないのは母親の対応だ。この母親がもし夫の性癖というか犯罪だが、遅ればせながらも薄々感じたのなら、最愛の子のためにまた夫のためにも身を挺して闘って欲しかった。しかしこの母親には端から子に対する愛情が感じられない。

 先般発生した神戸市の女児の行方不明事件は今もなお未解決のままで、一刻も早く無事見つかってほしいと望む。誤解を恐れずに言えば、この事件に限らず、見知らぬ異常者による犯行ならば、被害者は「お父さん、お母さん助けて!」と叫べるではないか。それが許されないと悟る子どもの心痛はいかばかりか。おかしくならない方が嘘だ。

 他人の結婚にとやかく言う筋合いはないことも、綺麗事だけで済まされる問題ではないことも百も承知だが、それでも敢えて東氏に言いたい。幼少期に父親からの性虐待に曝され、あまりのむごさゆえにその記憶さえ無意識に消し去ってしまっていたほどのあなたであればこそ、その向かうべき道は今の姿ではなかったと。虐待した父親は哭きながら冥界へ下ったことだろう。

 とくと見よ、これらの悲劇は我々が本分を忘れ、コップの中の嵐に憂き身をやつし、地からの悲痛な叫びに耳を傾けることを怠った結果と心に刻むべきである。今こそ「真の家庭運動」を強力に推進すべき時ではないのか。また読売はじめ大手メディアでは悲惨な実情を伝えはしても、その根本問題たる家庭再建まではタブーなのか触れようとしない。対処療法では国が亡ぶと知れ。

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