5月26日にテレビ東京でオンエアされた「未来世紀ジパング」で、ベトナムの“赤ひげ”こと、眼科医の服部匡志医師が紹介されていました。世界日報でも何回か取り上げて紹介しましたね。当方は映像で観るのはじめてでしたが、涙なしには観ることができませんでした。
まず番組は服部氏を「神の手を持つ眼科医」と紹介し、内視鏡による手術の現場を取材。通常2時間はかかるという繊細かつ高度な技術を要する手術を服部氏は40分ほどで終わらせてみせる。服部氏を招聘した病院側の医師は、そのテクニックに舌を巻く。実は服部氏は、病院の勤務医でなく、フリーランスの医師。
服部氏は、月の半分を国内の病院を駆け巡って手術を行う。番組では、全国10か所を飛び回り、新幹線のホームで駅弁をほおばるほどの過密スケジュールに追われる服部氏の様子を伝えるが、これだけなら腕の良さゆえに、忙しい先生なんだなくらいに思うかもしれない。しかし服部氏の真骨頂はここからで、残りの月半分をベトナムに赴き、同じく眼病患者の手術を行うのだが、それがすべて無償だというのだ。すなわち服部氏は、1か月のうち2週間日本で働いて得た報酬で、ベトナムの貧しい地域へ眼科医療を届けているわけだ。しかもたった一人で。
番組では、ベトナム最南端のカマラという町で、その地域で唯一の眼科病院があり、そこに125人もの眼病患者が列をなして服部氏の到着を待っていた。全員白内障患者だという。
日本では白内障の手術は当たり前に行われているが、ベトナムでは手術代が出せず、そのまま放置し、失明してしまう人が多いのそう。服部氏は2日間で、125人すべてを治療。患者は口々にあふれんばかりの喜びと服部氏への感謝の思いを述べていた。それを見た服部氏も満面の笑みだ。
また別の病院では、網膜剥離により片目が失明し、もう片方も同じ症状だが、手術しても回復する見込みは1パーセントだという11歳の少年の手術を行い、見事成功させる。その母親は、自分が手で指し示した指の数を息子が正確に答えるのを確認し、あふれる涙を抑えることができなかった。それを聞いた服部氏は「うれしいね」と心からの喜びと安堵感を表現していた。これこそが、何ものにも代えがたい服部氏にとっての真の報酬なのだろう。
しかし、もし失敗すれば服部氏とて、大変なことだ。常にそういうプレッシャーと使命感、責任感とのぎりぎりのせめぎあいで闘っているはずだ。見るからに頑健そうではあるが、ハードスケジュールでの不規則さによる服部氏の体調が心配になるところだ。
そもそも服部氏はなぜこのような活動をするに至ったのか。大学を卒業し、眼科勤務医として働いていた服部氏だったが、2001年の学会で、あるベトナム医師から「たくさんの人が失明している。助けてほしい」と言われたのだそうだ。これを受け、服部氏は勤めていた病院に、「1週間ベトナムに行きたい」とかけあったのだが、「病院を辞めてから行け」との返事。当時、高額な給料をもらっていたが、その安定した地位を捨ててフリーになったのだという。
ベトナムでは失明者が今現在、200万人いるという。「患者を救うためには、日本に連れてくれば一人100万円かかる。しかし誰も払えない。自分(服部氏)が行けば、自分の飛行機代だけで済むじゃないですか!」と訴えかけるように語る服部氏。月の半分を日本で働き、残りをベトナムでの無償の治療を行う活動を服部はこれまで12年間続けており、のべ1万3千人以上を失明の危機から救ったのだという。誇るべき日本人がここにもいたのだ。
ところで話しは飛ぶかもしれないが、先月、人気デュオのボーカルが逮捕された事件があった。彼も百歩譲って、相当なストレスやプレッシャーを抱えていたことは事実だろう。
しかしそれは服部氏を上回るものだったろうか。少なくともベトナムにおいて、今にも光を失わんとしている人々に、なんとかしてあげられないかと思いを馳せることができたのなら、こういう結果は招かなかっただろう。まったく悔やまれる。
人は自分を犠牲にしても他のために生きようとする本性をもっている。これこそ人間が人間たる証しだ。そしてそのことによって得られる喜びは、他人を押しのけて自分がより多くを得た満足感に比べられようか。
以前にも記事に書いたが、人はその生涯を通じて、自分がこの世に人間として生まれてきた意味を証明する責任があるのだと思う。そこでまかり間違っても、「生まれて来ないほうが良かったね」と言われぬようにしなければならない。
人は誰しも必要として生まれてきた。またその人をとりまく環境も自然も宇宙も何ひとつ欠くべからざる存在であり、さらに過去も現在も未来もすべてひとつにつながっている。そういう中で自分は存在し、より大きな目的のためにもてる能力を最大限に発揮することで、その人生を輝いて生きていくのだ。服部氏からあらためて教わった気がした。
(6月16日、ベトナム・ハノイで開かれた「日本国際眼科病院」のライセンス授与式で記念撮影する服部匡志氏(中央)ら/17日世界日報1面より)