渡部昇一・馬淵睦夫著「日本の敵 グローバリズムの正体」(飛鳥新社)を読む | 世日クラブじょーほー局

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日本の敵 グローバリズムの正体/飛鳥新社

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 「グローバリズム」。わが国はバブル崩壊からこの方、この言葉に振り回されてきたのではなかったか。「グローバリズム」とは、世界からの抗しがたい普遍的な潮流だというロジックであり、またわが国の閉鎖性や特殊性に対置させる強力なレトリックでもあった。「これが目に入らぬか」とスゴまれれば、忽ちシュンと萎縮したものだった。しかし本書で示されるのは、これまでの認識とちょっと色合いが違う。マユツバか深遠無比なインテリジェンスか。いずれにしても、「日本の保守論壇がユダヤ問題をもっと深く理解し、全体的に知的なレベルアップを図らなければいけない」(馬淵氏)のは確かだろう。

 渡部氏が、「共産主義者もグローバリズム推進者も『国境』という存在が嫌い」だと指摘するように、両者は同根である。そして、グローバリズムの発信源はウォール街に代表される国際金融資本であり、その中心はユダヤ金融資本家だと本書ではズバリ言及するのだ。こうなると、かつて人口に膾炙した「ユダヤ陰謀論」めくが、日本にはかつても今も反ユダヤ主義は存在しないし、渡部氏、馬淵氏のいずれもそれに与みするものではない。むしろ渡部氏はユダヤ人への好感を表明し、また彼らと日本との深い関わり合いのエピソードを紹介してくれている。加えてエネルギー問題に対する渡部氏の識見と情熱は注目に値するし、頭が下がる。

  ともかく本書がターゲットとするのは、「ユダヤ人が生き残るためにはディアスポラ(離散)で世界に広がっている状態こそ安全保障だという選択をし」、「世界をグローバル化することで、ユダヤ人の生き残りを達成する」(馬淵氏)ことを旨とするもので、シオニズム運動のドグマとは一線を画し、ひたすら生へのリアリズムを追及するユダヤ解放思想なのだ。この思想によれば、ナショナリズムの興隆は、反ユダヤ主義がはびこる土壌となるのでこれを極端に嫌うように振れ、かつあらゆるマイノリティ擁護論のシンボルたらんとする。安倍首相がナショナリストのレッテルを張られ、警戒される状況もこの流れから理解することもできる。

 馬淵氏は第六章「アメリカの『国体』が変わった」で、「第一次世界大戦から第二次世界大戦終結までの間に、アメリカ帝国の実質的な権力の担い手はWASP(ホワイトアングロサクソンプロテスタント)から、(中略)ユダヤ金融資本に取って代わられた」と推定する。

 FRB(アメリカ連邦準備制度)の設立がこのことを端的に示す。これは「自国の通貨を印刷するたびに、アメリカ政府は連邦準備銀行の株主である民間銀行に借金をし、利子を払うおかしな仕組み」(馬淵氏)だとして、たとえばニューヨーク連銀の株主であるロスチャイルド銀行(ロンドン、ベルリン)、ラザール・フレール(パリ)、イスラエル・モーゼス・シフ銀行(イタリア)、ウォーバーグ銀行(アムステルダム)などの外国銀行を挙げている。

 そしてポピュリスト(国際主義者に反対の立場の孤立主義者の意)のアメリカ人にとって連邦政府の債務問題は国家の弱体化ととらえられ、ドルを刷るたびに、株主である世界の金融資本家に利子を払わされることに反発するのだという見方を馬淵氏は伝えている。

 また馬淵氏は、ナショナリズムの弱体化をその国の伝統・文化破壊に求める運動として、ナチスからの亡命ユダヤ人哲学者、アドルノ、マルクーゼ、フロムらによるフランクフルト学派がアメリカで広まるとともに、日本の左翼運動にも大きな影響を及ぼした例を挙げている。

 本書は歴史問題にかなりの紙数が割かれ、「東西冷戦構造自体が仕組まれたものである」「アメリカが大東亜戦争を戦った理由の一つに、中国を共産化する目的があった」など馬淵氏の刺激的な議論が展開されていくが、アメリカが共産主義の本質を見誤った背景を理解することで、歴史の風景が一変する事態もありうるのだろう。

 さて、馬淵睦夫氏は本書で初めて知りましたが、当初ゴリゴリの民族派なのかと思いきや、以下のあとがきの言葉に感嘆させられた。

 「国境を越え、国籍を超えて私たちすべてはつながっている存在であるということに気づくことができれば、この世界の対立はなくなるはずなのです

 これこそ「八紘一宇」の精神であり、侃侃諤諤の議論の末、かかる結論を導いておられるのだ。長年、国益をその双肩に背負い、外交という最前線の舞台で戦ってこられた人物のこの言葉は重いと感じました。