ソルジェニーツィンの言葉は今の日本にこそよく響く | 世日クラブじょーほー局

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~NHK Eテレ ETV特集「ソルジェニーツィンと大統領たち」を観る~

 アレクサンドル・ソルジェニーツィンは、著書「収容所群島」において、スターリン政権下で投獄された自らの体験と囚人らの証言記録などを通して、共産党によるソ連人民蹂躙の実態を告発。ブレジネフ政権下で、国外追放を余儀なくされ、爾来、20年間祖国の地を踏むことがなかった。

 1990年著書「ロシアをどう構築するか」において、民主化後のソ連を念頭に、「国威発揚より、国民の幸福が重要」と訴える。

 目先の経済に目がくらみ、国の資源を外国資本に売り渡せば植民地になってしまうなどとして、消費大国アメリカでなく、70年代の日本に範を求めたらしい。また現代人に「自制の力」を説いた。

 彼は共産主義と闘った闘士であるが民主主義、自由主義をも懐疑的に見ていた。いわく、

民主主義は高潔な美徳でなく、圧政を避けるためのもの。一人の暴君が、多数の暴君になることがある。選挙では内容なき量が、内容ある質に勝利する時があり、多数が間違うことがあり、道徳的なものは敗北し易い。政党間の争いは理念なき権力の獲得となり、国民の利害は、政党の影に隠れてしまう」と。

そして、
ロシアの民主主義には独自の道があるはずだ」として、

中央集権と下からじっくり作りあげる地方自治や昔の農村共同体などその双方が必要」だと主張した。

 ソルジェニーツィンのかかる思想は、改革にブレーキをかけるのではと共産主義者とリベラル派双方から批判される。

 1998年ロシア金融危機後、「廃墟の中のロシア」上梓。その中で、

『自由』という幻想の中で犯罪集団が隆盛を極めつつある。輸入食品で儲けるため農業はつぶされ、シベリアなど辺境の地は見捨てられ、(英雄である)チェルノブイリの消防士は、死のふちで喘いでいる。このようになったのは性急に西側のマネをしたからだ。民営化で金儲けが善だというモラルを植え付けられ、乗り遅れた者は取り残された

と草刈り場のごとき祖国の惨状を嘆いた。

 その後、プーチン政権下で、原油価格の高騰により経済が急成長を遂げるも貧富の差は拡大。かかる状況に、

貧困より恐ろしいもの―それは精神の堕落」と喝破。

 加えて「未来を左右するのは経済ではなく、精神だ。魂が救われれば全てが救われる」と。

 そしてロシアの魂である「民族の歴史」の研究に情熱を傾けた。2008年、ソルジェニーツィン死去。

 番組は、ソ連崩壊後、生まれた若い世代は意識が変化しつつあるが、近年、国民の多くが「民主化がこんなはずではなかった」として、スターリンや共産党時代へ回帰する模様も伝えていた。

 自由が抑圧された共産主義国家の実態を知れば知るほど、「自由」の尊さを知り、またそれを享受する立場の有難さを噛み締めなければならない。が逆に、際限なき自由のなれのはてというか、究極の姿が、今アメリカで進行中の同性婚合法化の拡大に代表されるものだ。モラルや自然法則に反する自由などあろうはずもない。その結果は破滅だ。ソルジェニーツィンが範をとろうとしたわが国日本は大震災後、世界が驚嘆する同胞意識や、利他精神、冷静沈着なビヘイビアなどを体現してみせた。しかし5ヶ月が過ぎた今はどうだろう。日本人は忘却力でも世界一といえる。ソルジェニーツィンの言葉は今の日本にこそよく響く。 

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