列島強靱化論―日本復活5カ年計画 (文春新書)/藤井 聡
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前著作「公共事業が日本を救う」(文春新書)において、藤井氏は民主党の政策スローガン「コンクリートから人へ」を非難し、60年代の高度経済成長期において建設された橋や港湾、道路など、社会インフラが現在、悉く耐用年限を迎え、大規模な補修や建替えなどが必要になっていることに加え、「首都直下型」「東海・南海・東南海」「三陸沖北部」「宮城県沖」などの地震発生検証データにより建物の耐震化など急を要する政策課題は目白押しだと訴えた。
しかし民主党政権はパフォーマンスショー「事業仕分け」における、「2位じゃダメなんですか」の言葉に象徴されるように全く顧みられることはなく、3・11を迎えることとなった。
本書は3・11後の書き下ろしであり、再度政府に、列島強靭化論(就中、そのための八策)を迫る。
冒頭の第一章「『巨大地震』は、すぐまた起こる」で、「東海・南海・東南海地震」が30年以内に50~87%の確率で発生、「首都直下型地震」が同じく30年以内に70%の確率で発生、さらに「富士山噴火」の可能性など各々データを示し、そしていずれもが今回の大震災の影響により、危機が一気に高まったとする専門家の指摘を紹介。さらに過去のデータからこれらが連動して発生する可能性をも言及している。富士山噴火は唐突な感があるが、
「そもそも富士山は日本の周りにある4つのプレートが複雑に入り乱れる、まさにその地点の『真上』に位置している。こんな地点は地球上どこを探しても見当たらない恐ろしい場所だ」と藤井氏。
また、富士山は2003年から「活火山」に分類されているという。
われわれは、わずか数ヶ月前に阿鼻叫喚の東北の姿を目の当たりにし、被災当事者でなくても大変なショックを受けた。復旧復興は進んでいるものの政治の体たらくにより遅遅としており、未だその傷は癒えきれない中で、さらにもっと甚大な被害を想定するなどご免蒙りたいのが人情ではある。
しかしこれは敗戦後、左翼勢力の煽動も相俟って、日本国民が戦争に倦み、厭戦気分から国防意識を削がれて経済一辺倒に流れ、55年体制下では憲法改正はおろか有事法制議論さえ難しかった。
ために、自衛隊の法的地位もあいまいなまま、ソ連、中国、北朝鮮に翻弄されてきたのではなかったか。米軍の「トモダチ作戦」の成功は感謝の気持ちの反面、未だわが国が半人前国家でしかないことを思い知らされた。今回の震災は日本人のこのようなメンタリティからの脱却をも要求せずにはおかないはずだ。
第三章「日本経済の復活」で、日本経済の病状を分析。長期デフレ不況下にある日本。需要と供給の差すなわち、デフレギャップが22年度3月内閣府データで、30兆円という。需要不足を補うための財政出動を民需がもどるまでじっくりかけてやっていく必要がある。公共投資が大幅に削減され、徹底的な「構造改革」がなされた小泉政権下で、日本のGDP順位は決定的に低下。なんとなれば、構造改革は供給を増やす取り組みであり、かえってデフレギャップを拡大し、デフレを深刻化させることとなったと論旨明快に指摘。
終章「未来を変える」で、日本経済は迅速な生産・エネルギー施設の復旧事業とともに、急激に縮退した需要による「震災デフレ」の進行を食い止めるための徹底的な財政出動を行えば確実に復活する。首都機能分散を含めた列島強靭化策の数々を推進すれば、首都直下型地震が来ようが、東海・南海・東南海地震が来ようが、果ては富士山が爆発しようが、わが国は「致命傷」を負うことを避けたうえで、蒙った被害を迅速に回復できると力説している。
あとがきで、藤井氏は、世界日報VIEW POINT執筆者である菊池英博氏(日本金融財政研究所所長)と交流があることを記しておられる。ナットク。