今日の画像は、スイスアルプストレッキンのスナップ『ラウターブルネン谷の断崖』、北大路欣也主演の『藤沢周平原作・三屋清左衛門残日録』、奥穂のジャンダルムより厳しく、難しい北穂高の『迫力抜群のゴジラの背を進む麻莉亜』。そして、広島南アルプス『春日台団地~権現峠~火山~武田山~大町トレッキングⅠ』です。春日台までは広交のバスで。大町からはアストラムラインと公共交通が使えて便利です。

 
































 









■■清左衛門はあたりを見回した。遠くの田に稗を抜く農夫が2人ほど、ゆっくりと動いているだけのほかに人の姿は見えなかった。不可解な気分が残った。

『さっき、橋の上に人がいたのを見なかったか』
洗い物を抱えてもどって来た女に行ってみたが、女は怪訝そうな顔で首を振っただけだった。見ていないのだ。後を振りむくゆとりはなかっただろうから、当然だと清左衛門は思ったが、自分だけが幻を見たような薄気味わるさもないわけではなかった。

女の顔にだいぶ血のいろがもどってきた。よく見ると色白で器量もよく、賢そうな顔をした女だった。

残暑が遠のくと、季節は露骨なほどに秋らしい顔を見せはじめた。雲の形は軽やかになり、その下で稲の花はとっくに散ってしまい、穂は稔りはじめていた。そして夜は虫の声がにぎやかさを増した。

そんなある日の深夜に、三屋家に客があった。おとうさまにお話があると申されています、と取りついだ里江が言った。
『どなただと?』
『近習組の黒田欣之助さまです』
『よろしい。通してくれ』
と清左衛門は言って、書見台の書物を片づけた。

読んでいたのはいま保科塾で習っている老子だが、書見にもそろそろ倦きてきて寝ようかと思っていたろころである。夜更けに外からの突然の客は、迷惑ではないこともないが退屈しのぎにはなると思った。

――それにしても・・・。
高林寺の鐘が四ツ(午後10時)を撞いてからかなり経ったはずである。近習組の黒田といえば代官町の黒田だろうが、この時刻に何の用があるのかと、清左衛門は不審でならなかった。家の見当はついても、黒田欣之助本人は一面識もない男である。


■■<亜豪に出て行く日本人⑤ 『将来のためフィリピンに親子留学』>語学留学関連サイトのスクールウィズによると『22年のの夏以降、留学やワーホリの申し込みが増えた』。今や豪都市部では仕事を得るのに苦労する人が出るほどの人気ぶりだ。

好待遇の理由の一つは最低賃金の高さにある。東京の最低賃金が1,113円なのに対して、豪州は23豪ドル(2,250円)。円換算すると以前から豪州の方が高かった。為替レートが今では1豪ドル=98円と、4年間で3割近く円安に振れたことで、その差は2倍にも広がった。

海外に出て行く日本人は、身軽に動ける独身の若者だけにとどまらない。少子高齢化や政治・経済の閉塞感などで日本の将来に対する不安が拭えない中、将来海外で暮らし、働くことも選択肢にできるよう家族で異国の経験を積もうと働く人々も現れている。

23年9月、枚方市で夫婦で絵画教室を営む沖明日香(40代)は、夫の和也、息子の山帆(10)と娘のひらら(8)の4人でフィリピンへ向かった。目的は2カ月間の『親子留学』だった。



子供達は現地の小学校で毎日ニワトリの世話に追われ、英語は二の次という印象だったという。明日香は『英語を勉強しているのか、ニワトリを世話しているのか分からなかった』と笑う。だが帰国後、アルファベットすら読めなかった2人が英語の絵本を音読しているのを見て仰天した。『子供の吸収力はすごい――』。幼いうちに留学する重要性を実感した。

◆親子留学とは、海外で親と子がそれぞれのレベルにあった語学を学びながら現地の生活を体験するもので、近年注目を集めつつある。語学留学を支援する渋谷の『フィリピン留学APA』では、幼稚園から18歳までの子供を持つ1,000人を対象に実施した調査によると、親子留学という言葉を知っている人は3割にとどまるが、知らなかった人を含めて行ってみたいと考える親は半数を超えた。

一般に親子留学の一番の狙いは子供の視野を広げることだ。学校の休みに合わせた1カ月程度の留学主流のため、現地語の習得までは求めないことが多い。

沖一家が滞在したフィリピン中部のネグロス島はまだインフラが十分整っておらず、まるで昔の日本にタイムスリップしたような生活が待っていた。『電気が通っていない』『トイレが流れない』など異質な暮らしを体感することで、将来生れてしまうかも知れない差別意識をなくしてほしかったと明日香は話す。

社会情勢の変化などで日本で生活することに不安を感じた時、語学の壁を感じることなく海外に出て欲しい。様々な国で人脈を拡げ、いざという時に頼れる人を増やして欲しい――。留学を楽しんで欲しい一方で、明日香は2人の子供にこのような思いを抱いていた。『日本は治安もいいし住みやすいと思うが、将来的に不安な面もある。日本に居続ける選択肢しかないことは避けたかった』。

一家は親子留学後もフィリピンに1カ月ほどとどまり、旅をして過ごした。子供達はすっかりフィリピンになじんだ様子。『第2の居場所として受け入れたのではないか』。明日香は手応えを感じている。


■■<『短歌のススメ』>私が初めて短歌で衝撃を受けたのは、金融機関に勤めていた30数年前の取引先での立ち読みだった。与謝野晶子の『常夏』の中の一首。『ふるさとを恋ふるそれよりやや熱き涙流れきその初めの日』。若き晶子のあふれる感動に立ちすくみ、その本をすぐ買い求めた。それ以来著名の歌人を読み漁った。母の死に際しては斎藤茂吉の『のど赤き玄鳥(ツバメの別名)ふたつ屋梁にいて乳根の母にたまふなり』に共感した。わが妻の心情に置き換えたのは、若山牧水の『汝が夫は家にはおくな旅にあらば命光つと人の言えども』。

ようやくたどり着いたのが俵万智の『サラダ記念日』だった。『「この味がいいね」と君が言ったから7月6日はサラダ記念日』。日常的な語彙に魅せられて、私にも詠めると思い始めた。25年前から年賀状に一首、家族会議を経て載せることにした。



『夢をみて夢をみさせてありがとう慶び祝う娘はひとり立つ』。長女の結婚を祝う家族の喜びが、今でも思い出される。

15年前中国新聞歌壇に投稿を始めた。2カ月後に入選したのが『はこべらの小さき背丈我に似て群青清く風雨に強し』(道浦母都子選)。保育園児の孫が春の七草をそらんじるのを聞き、詠んだ一首。初めて活字になった短歌と名前を射抜くように見つめていた。

今の東直子選になって、初入選したのは2020年8月。『子育てに開放された長女から元気な便りが新聞歌壇に』。関東に住む長女も負けてはいないとばかりに地元紙に投稿、掲載された。『短歌詠む父との貴重な話題なり今年の抱負「父には負けぬ」』。年賀状の家族会議が功を奏したようだ。

12年前、広島馬木公民館で短歌の会を立ち上げた。現在の会員は12人。大半が中国歌壇に入選したことがある。会の成長ぶりは嬉しい限りだ。私もこれまでに入選して世に出た短歌ガ230余首。この勢いを今後も持続したいと思っている。『終活の準備をせよと妻の命傘寿過ぎてもまだ青春』(米田彰男筆)

◆文才のある人がうらやましい限りだねえ。入選230首とはまたすごいことだ。


■■<北の空を守る28歳女性パイロット、F15戦闘機は『大空が自分のものに』> 航空自衛隊千歳基地(北海道千歳市)にF15戦闘機のパイロットを務める女性隊員がいる。第201飛行隊の1等空尉・藤井百香だ。24日で2年となったウクライナ侵略を続けるロシアとの緊張関係が高まる中、北の空を守る28歳は、領空侵犯のスクランブルに備え、きょうも大空へ飛び立つ。

新千歳空港に隣接する千歳基地。濃緑のパイロットスーツに身を包んだ藤井が念入りに機体を点検していた。整備員に任せるだけでなく自身も搭乗前の最終チェックは欠かさない。

戦闘機パイロットの朝は早い。午前8時過ぎの訓練飛行に備え、薄暗い同6時台には集合する。吹雪で視界が遮られるホワイトアウトや滑走路が凍る時以外は、厳寒の日も毎日飛ぶ。雪かきが必要な際は、さらに起床が早くなる。

航空幕僚監部によると、空自の戦闘機パイロットのうち、女性は現在5人。千歳基地に配属されたのは藤井が初めてだ。仙台市生まれの藤井は慶応大法学部卒業後、パイロットを志望し、試験を経て2017年、一般幹部候補生として入隊した。

千歳基地に着任したのは21年。氷点下20度にもなる寒さは予想以上だった。千歳基地は対ロシア機へのスクランブル対応が多く、『一歩間違えば国際問題になるが、上空では上司に相談するいとまもなく、緊張する』と話す。それでも、『自分の仕事が国の安全保障につながる』とやりがいを感じている。



F15戦闘機は、コックピットの視界が360度開けており『大空が自分のもの』に感じるという。パイロットは体重の9倍の重力(G)が体にかかり、一時的に視野を喪失するブラックアウトの危険性もある。ただ、自身は経験がなく『女性はGに強いとも言われるので、この仕事は意外と向いています』とほほえんだ。

操縦かんを握るときのタックネーム(愛称)は『ジャスミン』。空飛ぶじゅうたんに乗るディズニー作品『アラジン』のヒロインにあやかった。時間があるときは、シェークスピアや太宰治など文学作品を読んで過ごす。入隊前は腕立て伏せもできなかったが、今は屈強な男性隊員らとチームを組む。「性別は関係ない。空の仕事がしたい後進の人に続いてほしい」と力を込めた。

◆自衛隊員に女性が登場してからもう相当の時間が経った。なるほど、今や戦闘機の分野にも女性の力がねえ。慶応大学卒の女性パイロットというのも面白い。