2010年に米国議会に提出されたブルッキングス研究所の文書からの読み取れる日本政府への示唆。
1.現在不定期になっている日中の軍事交流が重要である。日本の自衛隊はカウンターパートであり過剰なほどの独立権を保有する人民解放軍からすると、自衛隊が日本政府から与えられている限定的な権力のため国家官僚機構毎の階層的対応が不相応である。
2.また、日本政府のシビリアン・コントロールは政治家が軍事力を統制するという意味には使われておらず、防衛省の文官が制服組を統制するため、衝突発生においてどう行動するか?という意見が政治、防衛省文官、現場の自衛官で異なる可能性があり、意見の対立が状況を悪化させる可能性がる。
3.日本の海上保安庁の交戦(体当たりを含め)規定が曖昧なため軍事衝突発展の火蓋はここから始まる可能性が高い。軍事交流を通じて、どのような挑発的な行動が相手の敵対的な行動に移させるのかを事前に相手に通知させておく必要がる。
4.中国軍の戦略的思想である先制攻撃による主導権維持の行動規範により両国の沿岸警備隊同士の睨み合いを取り囲む人民解放軍海軍が海上自衛隊に先制攻撃を食らわす可能性は高く、また先制攻撃を受けた海上自衛隊が現場の指揮官裁量で反撃を加える可能性も高い。そうなった場合は軍事技術が高い海上自衛隊が防御も脆弱な人民解放軍海軍に与える人的な損害は大きく、その結果以後の両国の紛争鎮静のハードルは高くなる。
5.2001年に起こった海南島沖合における中国軍機による米海軍機電子傍受哨戒機への体当たりの事案では、人民解放軍の現場の司令官が正しい情報を北京に報告した形跡はなかった。また東シナ海においてもし軍事的な衝突が起こり自衛隊の現場指揮官も自分たちの行為を少しでも正当化させるため、もしくは物理的に明確に何が起こったか把握できない状況で、対外交渉を担う東京にいる政治家、幹部官僚たちが正確な情報を把握できずに右往左往している間に状況が悪化する可能性もある。キューバ危機の事例を取り上げるまでもなく、軍隊の現場指揮官の攻撃的な裁量で一触即発の事態に発展する可能性は高く、この意味においても両国の危機発展防止メカニズム・意志疎通は必要不可欠であり、また場合によっては現場に派遣する艦艇に文官を同乗させ状況把握・意思決定の正当性を向上させ、偵察機による記録、リアルタイム中継を検討すべきである。
このような軍事的衝突が起こった時のアメリカはジレンマに直面する…という素直に認めている件が面白い。
If such a clash occurred, it would pose a serious dilemma for the United States.
尖閣諸島領有問題が日中どちらの核心的利益にもならない状況でアメリカは日中双方に解決の糸口を求めるだろう。アメリカからすれば尖閣問題程度で日米関係が試練に立たされることのほどではないが、適切に対処しなければ日米同盟の信頼性に留まらず、アメリカの他の同盟国へ政治的な影響は否めなくなる。
In any clash over the islands or some other part of the East China Sea that could not be immediately contained, Tokyo would thus look to Washington for help in standing up to China’s probable reliance on coercive diplomacy. Washington seeks good relations with both China and Japan. It does not want to get drawn into a conflict between the two, especially one that it believed was not necessary to protect the vital interests of either. A Senkaku scenario is not, from the U.S. perspective, the issue where the American commitment to Japan is put to the test. But Washington would understand that not responding would impose serious political costs on its relations with Tokyo and would raise questions about U.S. credibility more broadly among other states that depend on the United States for their security. Congressional and public opinion would probably favor Japan or, at least, oppose China.
ブルッキングス研究所:China-Japan Security Relations(日中間安全保障関係)
http://www.brookings.edu/research/papers/2010/10/china-japan-bush
Unfortunately, civil-military relations in these two countries are somewhat skewed, with China’s military having too much autonomy and Japan’s having too little. And neither country is well equipped to do crisis management. Avoiding a naval conflict is in the interests of both China and Japan, and the two governments should take steps to reach agreement on the now-unregulated interaction of coast guard, naval, and air forces in the East China Sea.
残念ながら、両国における軍民関係は少なからずこじれている。中国では軍が過大な自治権を有し、一方日本の自衛隊においてはその裁量権がほぼない。そして両国ともに危機管理メカニズムを十分に有してない。(シンセキ統合参謀議長の提案を無視したラムズフェルドの暴走でイラク戦争後の占領統治を少数兵力で望んだアメリカに言われるのはどうかと思うけど…謙虚に受け止めたい事実でもあるね)
海上兵力の衝突を避けることは日中両国の利益であるそのために双方が現在は不定期になっているが、が東シナ海域で行動する沿岸警備当局、海軍、空軍同士の軍事交流に向けて合意のステップを踏むべきである。
http://en.wikipedia.org/wiki/Hainan_Island_incident
Following the collision, China's monitoring of reconnaissance flights became less aggressive. As of 2011, flights of US spy planes near the Chinese coastline continue as before the incident.
ちなみに海南島事案のその後であるが、米海軍機はその後も定期的に衝突発生した時と海南島から同じ距離を飛行し、人民解放軍機による警戒、偵察は以前よりも挑発的ではなくなった…。なぜそうなったのかのラーニングは上記に記した通りだろう。双方の危機管理時の意思疎通経路を確認し合い、相手ときちんと話をして何をしたらこっちが怒り、毅然とした態度を取るかを確認させる、その説得力を担保するものは何であるか?外交交渉力、それを担保する軍事力、政治家の判断力と叡智ではないでしょうか?