「よし、ブラショフからトゥルチャまでの電車の旅、いよいよスタートだ!」と、私は興奮を抑えきれずに叫んだ。旅行バッグを肩にかけて、ルーマニアの鉄道駅で出発を待つ。今回の目的地はトゥルチャ、そこからさらに30分車で走ったところにある高地の集落、タミーの家だ。Lauraの親戚の家に約2週間ホームステイすることになっている。何もかもが新鮮で、非日常を体験できるこの旅に胸が高鳴っていた。
Lauraと私は、ブラショフからトゥルチャまでの8時間の電車の旅を楽しんだ。途中、コンスタンツァでの観光も満喫した。コンスタンツァは美しい黒海に面した港町で、古い歴史的建物と現代的なリゾート施設が融合している。海風に吹かれながら街を散策し、美味しいシーフード料理を堪能した。
トゥルチャに着くと、まず町を散策することにした。トゥルチャはドナウ川沿いに位置し、ルーマニアの東部に広がる風光明媚な町だ。町の中心には歴史ある教会や旧市街の石畳の道があり、古い建物が並んでいる。地元の市場では、新鮮な野菜や果物、手作りのチーズなどが並び、活気に満ちていた。市場の隣にはドナウ川が広がり、川岸にはたくさんの船が停泊していた。漁師たちは捕れたての魚を売り、地元の人々がそれを買い求めていた。
町を歩いていると、Lauraが「トゥルチャは本当に素敵な場所ね。ここにいると、時間がゆっくり流れている感じがする」と感想を漏らした。私も同意し、「この町には、独特の魅力があるね。特にドナウ川沿いの景色は圧巻だ」と答えた。
トゥルチャの町並みを楽しんだ後、私たちはタミーの家に向かうことにした。さらに30分車を走らせて高地の集落に到着すると、そこにはタミーの家があった。タミーの家は、鳥が放し飼いになっていて、各家庭で牛を飼っているという、まさにド田舎の風景が広がっていた。
「ようこそ!ここが私の家だよ」とタミーが笑顔で迎えてくれた。タミーはLauraの親戚で、この集落で牛を飼って生活している。彼女の家に泊まることで、異文化に触れる絶好の機会を得られると期待していた。
初日の朝、私は牛当番という仕事を任された。集落では、各家庭で牛を飼っており、朝になると牛が家の門の前に集まる。そして、当番の人が牛をサッカー場の広場まで連れて行き、草を食べさせる。その後、昼前には各家庭に牛を届けるのだ。ちょうどタミーの家が当番の日だったので、私がその仕事を手伝うことになった。驚いたことに、牛たちはとても賢く、自分の家の前に来ると門をくぐって小屋に戻っていくのだった。
その日の午後、タミーと一緒に集落を散策した。古い木造の家々や石畳の道、広々とした草原が広がる風景は、まさに自然の中での生活を実感させてくれた。地元の人々はみな親切で、私たちに笑顔で挨拶してくれた。
タミーの家では、鶏やターキーも飼っていた。ターキーは一回り大きく、屋根から突然飛びかかってくることがあり、かなりの驚異だった。しかも、トイレに行くにはそのターキーのテリトリーを通らなければならなかった。トイレに向かうたびに、私は心の準備をして勇気を振り絞った。
ある日、ターキーに襲われた話をタミーにしていた。笑いながら話をして出かけたのだが、その晩の食事で驚くことが起こった。チョルバにターキーが料理されて入っていたのだ。いつもトイレに行くときのライバルがいなくなり、少し寂しくなった。
数日後、私はLauraと一緒に小型船に乗ってドナウデルタに向かうことになった。ドナウデルタは、ヨーロッパで最も保存状態の良い湿地帯の一つで、無数の鳥や魚が生息している。非日常的な景色と自然の豊かさに圧倒されながら、私たちは船でデルタを探索した。
デルタに入ると、自然の壮大さに言葉を失った。川は無数の細い枝分かれをしており、それぞれが独自のルートを持っていた。私たちの小型船は、その川を巧みに進んでいった。周囲には濃い緑の草や木々が広がり、カワウソやビーバーが泳ぐ姿が見られた。空には色とりどりの鳥たちが舞い、彼らの鳴き声が心地よいBGMとなっていた。
ドナウデルタはヨーロッパ最大のデルタ地帯であり、世界遺産にも登録されている。ドナウ川が黒海に注ぐ地点に広がるこの地域は、豊かな生態系と独特の地形が特徴で、様々な動植物が生息している。デルタの中には無数の小川や沼地が広がり、そこには多くの野鳥や魚が生息している。私たちが進むにつれて、その美しさと神秘さにますます引き込まれていった。
ある細い川を進むと、バッファローの群れが現れた。巨大なバッファローが草を食み、水辺で涼をとっている姿は圧巻だった。彼らの存在が、この大自然の中での生態系のバランスを感じさせた。
さらに進むと、デルタはますますその神秘的な顔を見せ始めた。水面には睡蓮の葉が浮かび、その間を小さな魚たちが泳ぎ回っていた。私たちの船が進むたびに、水面が揺れて美しい波紋が広がった。Lauraは「ドナウデルタは本当に特別な場所だよ。ここでは自然がそのままの形で残っているんだ」と言った。
途中、パンを運ぶための小さくて底の浅い船に乗せてもらう機会があった。黒海近くのルーマニア最後の町までのルートは細い川が複雑に絡み合っており、その道のりはまるで迷路のようだった。しかし、その迷路を抜けると、再び広大な水域に出た。そこには青空と水面が一体となった美しい風景が広がっていた。
夕方になると、デルタの中ほどにある豪華なバンガローに到着した。このバンガローはドナウ川に浮かんでおり、水面に映る夕日の美しさが圧巻だった。タミーの知り合いが所有するこのバンガローで、一晩泊まることになっていた。バンガローは木造の美しい建物で、窓からはドナウ川の絶景が広がっていた。
「ここで一晩過ごすのは特別な体験になるよ」とLauraは微笑んだ。夜になると、川の静けさと星空が私たちを包み込み、心が洗われるような感動を覚えた。
その晩、Lauraと私はバンガローのテラスに腰を下ろし、ワインを片手に語り合った。ドナウデルタの自然の美しさや、異文化に触れることで感じた驚き、そしてこれまでの旅の思い出。夜空に輝く無数の星を見上げながら、心が豊かになる瞬間を共有した。月明かりが川面に反射し、静寂の中で聞こえるのは風の音と水のさざ波だけだった。
翌朝、目が覚めると、朝日の光が川面に反射して輝いていた。Lauraと私はドナウ川で水泳を楽しんだ。冷たい水に体を浸しながら、周囲の自然と一体になる感覚は格別だった。泳ぎ疲れた後、バンガローのデッキに戻り、朝の新鮮な空気を吸い込んだ。
その後、釣りにも挑戦した。釣り糸を垂れるとすぐに魚がかかり、自然と触れ合う喜びを感じた。新鮮な魚を釣り上げる度に、私たちは歓声を上げ、その魚をその日の食事に使うことを楽しみにした。
バンガローでの一日は、時間がゆっくりと流れているように感じられた。昼間は鳥たちのさえずりが響き、夕方には再び夕日が川面に美しい色を映し出した。夕焼けの中で静かに座っていると、自然の壮大さと、その中での人間の小ささを実感せずにはいられなかった。
「この旅で得たものは、言葉では言い尽くせない」と私はLauraに言った。彼女も同意して微笑み、「本当に、ここに来てよかったね。自然と共に過ごすことで、心がリフレッシュされた感じがする」と答えた。
トゥルチャでのホームステイとドナウデルタでの非日常的な体験は、私の人生において大きな意味を持つものとなった。人間関係の微妙な変化を通じて、異文化の中での絆が深まり、私自身も成長することができた。感動と笑いに満ちたこの旅は、私の心にいつまでも残り続けるだろう。