作品データ :
原題 MISS SLOANE
製作年 2016年
製作国 アメリカ フランス
配給 キノフィルムズ
上映時間 132分

『恋におちたシェイクスピア』『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』のジョン・マッデン監督が『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェシカ・チャステインを主演に迎え、天才的な戦略を駆使して政治を影で動かすロビイストの知られざる実態に迫った社会派サスペンス。全米500万人の銃愛好家や莫大な財力をもつ敵陣営(銃擁護派)に果敢に戦いを挑む、女性ロビイストの奮闘をスリリングに描き出す。脚本は元弁護士のジョナサン・ペレラによる初の書き下ろし。共演にマーク・ストロング、ジョン・リスゴー、マイケル・スタールバーグ、サム・ウォーターストン。
ストーリー :
ワシントンD.C.で、スパーリング上院議員(ジョン・リスゴー)による聴聞会が開かれていた。召喚されているのは、敏腕ロビイストとして名高いエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)。大手ロビー会社「コール=クラヴィッツ&ウォーターマン」在職中に手がけた仕事で不正を行なっていたとされ、その真偽が問われている…。
聴聞会から遡ること、3か月と1週間前。エリザベスは、「コール=クラヴィッツ&W」の花形ロビイストだった。勝つためには手段を選ばず、一切の妥協を許さない仕事ぶりはクライアントから高く評価され、政府やメディアからも一目置かれる存在だった。
エリザベスは銃擁護派団体からの仕事を依頼されていた。新たな銃規制法案に対し、女性の銃保持を認めるロビー活動で、廃案に持ち込んでくれというのだ。団体の代表者は議員たちにも強い影響力をもつ人物だが、エリザベスは彼の目の前でその仕事をきっぱりと断わる。その結果、上司のデュポン(サム・ウォーターストン)から、「依頼を断るなら、君にいてもらう必要はない」と言い渡される。
その夜、パーティに出席したエリザベスは、銃規制法案の成立に尽力する小さなロビー会社のCEO、シュミット(マーク・ストロング)から、自分と一緒に闘わないかと誘いを受ける。次の日、エリザベスは部下を引き連れ、シュミットの会社へ移籍。卓越したアイデアと大胆な決断力で難局を乗り越え、形勢を有利に変えていく。
だが、巨大な権力をもつ銃擁護派団体や元同僚も負けてはいない。エリザベスの赤裸々なプライベートが暴露され、スタッフに命の危険が迫るなど、事態は予測できない方向へ進んでいく…。
▼予告編
▼本編映像 《移籍》
▼本編映像 《密談》
▼本編映像 《討論》
▼特別映像~「ロビイスト( lobbyist)」とは
▼ジェシカ・チャステイン(Jessica Chastain、1977~) インタビュー :
▼マーク・ストロング(Mark Strong、1963~) インタビュー :
■私感 :
見応えのある映画だった。この、日本人には馴染みのない、アメリカ政治を裏から仕切るロビイストの物語は、衝撃的な展開の連続で、私の興味と関心を強く引きつけてやまない。
何しろ、エレガントな魅力が満載の実力派女優ジェシカ・チャステイン~政治ロビイストの世界で辣腕を振るう「エリザベス・スローン役」~が、文句なくかっこいい!男性優位の社会にあって媚びず甘えず、ひたすら強靭な信念で職務~権謀術数に満ちた怜悧な知的ゲーム~に寝食も忘れて没頭する。そして、思いっきり高級なドレスを軍服のようにきっちり身に纏(まと)い、足元はハイヒール、深紅の口紅に黒のネイルという、いざ鎌倉の出で立ちは艶やかにして凛々しい!
チャスティンは様々なタイプの「個性的な女性」を器用に演じ分ける実力派女優として知られている。
私はこれまでに、彼女の出演作については、『ツリー・オブ・ライフ』(2011年、テレンス・マリック監督)→『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』(2011年、テイト・テイラー監督)→『キリング・フィールズ 失踪地帯』(2011年、アミ・カナーン・マン監督)→『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年、キャスリン・ビグロー監督)→『インターステラー』(2014年、クリストファー・ノーラン監督)→『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』(2014年、J・C・チャンダー監督)→『オデッセイ』(2015年、リドリー・スコット監督)の7作を鑑賞。
この7作どの作品にも彼女の高い演技力が感じられるが、私にとって特別に印象深い作品は、『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』と『ゼロ・ダーク・サーティ』の2作だ。
前者(原題:The Help)は、キャスリン・ストケット(Kathryn Stockett、1969~)の全米ベストセラー小説“The Help”(2009)を映画化した感動のヒューマン・ドラマ。人種差別意識が根強く残る1960年代初頭のアメリカ南部ミシシッピ州ジャクソンを舞台に、白人家庭でメイドとして働く黒人女性たちと作家志望の若い白人女性の勇気と友情によって、旧弊な町に変革をもたらしていく様子を描く。
この映画は上流階級の娘ながら黒人メイドに理解と共感を示す白人女性スキーター(Skeeter)をストーリー展開の軸にしているが、色とりどりの人間模様を刻む女性たちが登場する「群像劇」の面も持つ。
同作の鑑賞中、登場キャラクターで私の目をぐいぐいと引きつけたのは、物語の中心人物である3人の女性【エマ・ストーン演じるスキーター+ヴィオラ・デイヴィス演じる黒人メイドのエイビリーン(Aibileen)+オクタヴィア・スペンサー演じる黒人メイドのミニー(Minny)】ではなく、ジェシカ・チャステイン演じる、白人セレブ階級の女性らから爪弾きされる白人女性シーリア・フット(Celia Foote)である。
シーリア=チャステインは、純真無垢で能天気でマイペースで、黒人対して一切の差別的な感情を持たない“お馬鹿さん”。人を束縛するもの~男とか女とか、出身とか年齢とか、身分とか学歴とか、人種とか民族とか国籍とか、人が差別というほとんどの差異~から自由な、その性根が限りなく美しい彼女の存在こそ、同作に得も言われぬ躍動感を、また安堵の空気感をもたらしている。
後者(原題:Zero Dark Thirty)は、9・11全米同時多発テロの首謀者にして国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサーマ・ビン・ラーディン[ウサーマ・ビン・ムハンマド・ビン・アワド・ビン・ラーディン(Usāma bin Muhammad bin Awad bin Lādin、1957/03/10~2011/05/02)]の捕縛・暗殺作戦が題材のアクション・サスペンス映画。テロリストの追跡を専門とするCIAの若き女性分析官マヤ(Maya)の姿を通し、全世界を驚愕させた同作戦の“内幕”~作戦に携わった人々の苦悩や使命感、執念~を描き出す。
ジェシカ・チャステインは、死と隣り合わせの状況でも決して断念せず、ビン・ラーディンを10年間追い続けた、ヒロインの「強い女性」マヤを、迫真の演技で演じ切った。それこそクールで賢くて、男に靡(なび)かず、上司をはじめとする“権威”にも何ら臆さない、問答無用にかっこいいマヤ=チャステインではあった!