映画『ボーダーライン』 | 普通人の映画体験―虚心な出会い

普通人の映画体験―虚心な出会い

私という普通の生活人は、ある一本の映画 とたまたま巡り合い、一回性の出会いを生きる。暗がりの中、ひととき何事かをその一本の映画作品と共有する。何事かを胸の内に響かせ、ひとときを終えて、明るい街に出、現実の暮らしに帰っていく…。

2016年8月25日(木)下高井戸シネマ(東京都世田谷区松原3-27-26、京王線・東急世田谷線下高井戸駅から徒歩2、3分)で、18:10~鑑賞。

作品データ
原題 SICARIO
 Sicario シカリオとは、主に中南米で使用されるスペイン語で、「(誰かに金で雇われた)ヒットマン、殺し屋、暗殺者」の意】            
製作年 2015年
製作国 アメリカ
配給 KADOKAWA
上映時間 121分
米国公開 2015年9月18日 
日本公開 2016年4月9日


メキシコの麻薬カルテルを撲滅すべく、アメリカとメキシコ国境の町に送り込まれたFBI女性捜査官が、麻薬戦争の最前線で目の当たりにする衝撃の実態をリアルかつ極限の緊張感で描き出した社会派サスペンス・アクション
ヒロインを『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『イントゥ・ザ・ウッズ』のエミリー・ブラントが演じ、ベニチオ・デル・トロジョシュ・ブローリンといった実力派が脇を固める。
監督は『灼熱の魂』『プリズナーズ』『複製された男』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。オリジナル脚本は数多くのTVシリーズで活躍してきた俳優テイラー・シェリダンが、麻薬戦争の被害者であるメキシコからの移民などへの取材を基に執筆。撮影は『ショーシャンクの空に』『007 スカイフォール』の名匠ロジャー・ディーキンスが務め、音楽は『プリズナーズ』でヴィルヌーヴ監督とタッグを組んだ作曲家ヨハン・ヨハンソンが手掛けている。

「ボーダーライン」(1)「ボーダーライン」(2)
「ボーダーライン」(3)

ストーリー
【主要キャラクター】
ケイト・メイサー(エミリー・ブラント
 FBIで誘拐事件を担当する女性捜査官。アメリカ・アリゾナ州の州都フェニックス在住。離婚を経験し、子どもはおらず、長らく仕事一筋。独立心旺盛で、物事の正否や法の秩序に頑なにこだわる。対メキシコ・カルテルの≪特捜チーム≫(特殊部隊)の一員となったストレスから禁煙していたタバコを再開。

マット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン
 自称、国防総省の特別捜査官。実は“CIA”所属。≪特捜チーム≫の作戦リーダーで、ケイト・メイサーをチームにスカウトし、麻薬戦争に引き込む。ざっくばらんな性格だが、簡単に真実を打ち明けない男。良心をあえて排除することを選択し、実利的に問題解決を図ろうとする。どこかかなり上の高官たちから超法規的な大きな権限を与えられている

アレハンドロ・ギリック(ベニチオ・デル・トロ
 謎めいた寡黙な男。元はメキシコ・フアレス市で働く検察官だったが、メキシコの麻薬組織=ソノラ・カルテルのファウスト・アラルコンに妻子を殺され復讐の鬼と化す。現在はコロンビアの麻薬組織=メデジン・カルテルに雇われる殺し屋(Sicario)であるとともに、アラルコン殺害を目標とするCIAに協力し、「国防総省のコンサルタント」という肩書で≪特捜チーム≫に加わっている。

マニュエル・ディアス(ベルナルド・サラシーノ
 ソノラ・カルテルのアメリカ国内組織におけるトップ。表向きは合法的な実業家で、ソノラ・カルテルとの繋がりの証拠は掴ませていない。FBIの一般職員が見ることのできるファイルには、彼の兄(ギレルモ)やいとこ(アラルコン)の存在は記載されていない。

ギレルモ(エドガー・アレオラ
 マニュエル・ディアスの兄。ソノラ・カルテルのメキシコ・フアレス市におけるトップ。メキシコの現地警察に逮捕・収監され、アメリカに引き渡される。

ファウスト・アラルコン(フリオ・セサール・セディージョ
 マニュエル・ディアスのいとこ。ソノラ・カルテルの麻薬王(実は“ナンバー3”)で、多くの処刑を命じた男。マニュエル・ディアスのボスにあたるが、所在などの詳細は不明の人物。≪特捜チーム≫今次の作戦の最終ターゲット。

シルヴィオ(マキシミリアーノ・ヘルナンデス
 メキシコの国境の町ノガレスに在住する警察官。息子には銃に触れることを禁じ、サッカーにも付き合う、一見平和な家族を支える良き父親であるが、(パトカー常用の)麻薬の運び屋として、ソノラ・カルテルの麻薬密輸を幇助している。

【事の進行順】
(1) アリゾナ州フェニックス近郊のチャンドラーでの人質奪還作戦
FBIの誘拐即応班を指揮するケイト・メイサーは、アリゾナ州の荒野にたたずむ一軒家で信じがたい光景を目の当たりにした。誘拐事件の人質を救出するために強行突入したその家は、“ソノラ・カルテル”のマニュエル・ディアスの所有物で、壁の中に数十体もの腐乱死体が隠されていたのだ(顔を潰されてビニールに包まれて吊るされる!)。しかも離れの物置を捜索中に凄まじい爆発が起こって警官2名が殉職し、ケイトも頭部にケガを負ってしまう。

(2) FBIフェニックス支部のオフィスで
FBIの会議室に呼び出されたケイトは、上司のデイヴ・ジェニングス(ヴィクター・ガーバー)から思いがけないことを告げられる。アメリカ社会を蝕むソノラ・カルテルの撲滅とディアスの追跡を専任とする≪特捜チーム≫が編成され、現場経験の豊富なケイトがその一員にスカウトされたという。その場でチームのリーダーを務めるマット・グレイヴァーと対面したケイトは、突然の出向要請に困惑しながらも、巨悪を討つ使命感に駆られて「志願します」と返答する。

(3) ルーク空軍基地(アリゾナ州フェニックス)→フォートブリス陸軍基地(テキサス州エル・パソ)
ルーク空軍基地に赴いたケイトは、マットに迎えられて小型ジェット機に乗り込む。機内にはアレハンドロという見知らぬ寡黙な男が同乗していた。彼は麻薬カルテルの内実に精通したコロンビア人の元検察官で、「国防総省のコンサルタント」とのこと。
同機はフォートブリス陸軍基地に到着。早速基地内で、次の行動~エル・パソから国境を越え、メキシコのシウダー・フアレスへの移動~のブリーフィングを受ける。集められていたのは、デルタフォース(Delta Force、陸軍特殊部隊)、連邦保安官、DEA(麻薬取締局)といった歴戦のつわものども。

(4) Welcome to Ciudad Juárez(メキシコ・フアレス市)
ケイトを含む≪特捜チーム≫は5台の車に分乗し、物々しく武装したメキシコ警察に先導されながらフアレス市内へと向かう。そこでケイトの目に飛び込んできたのは、麻薬カルテルが見せしめのため高架下に吊した幾つもの惨たらしい死体。それは、まさにカルテルの暴力に支配された街のおぞましい実態だった。やがてチームが裁判所でディアスの兄ギエルモの身柄を引き取ったのち、ケイトはさらなる衝撃に見舞われる。アメリカとの国境の手前~メキシコ側検問を抜けた直後、アメリカ側検問に繋がる橋の上~で渋滞に巻き込まれた際、カルテルの襲撃を事前に察知したチームが猛烈な銃撃を浴びせ、敵を皆殺しにしたのだ。周りに民間人が大勢いるも、事は躊躇なく決行された。どん引きしたケイトも、銃撃を受けて、車内から拳銃で応戦する。その後、一行は無事にアメリカ国境を渡る。

シウダー・フアレス(Ciudad Juárez、フアレス市)は、メキシコ・チワワ州最大の都市(旧名はエル・パソ・デル・ノルテ〈El Paso del Norte〉)。人口は2010年の統計によれば1,332,131人、メキシコで8番目に大きい都市に指定されている。市の北側にメキシコとアメリカの国境(アメリカ=メキシコ国境)でもあるリオ・グランデ川が流れている。川を渡ればアメリカに入国することになり、テキサス州最西部の町エル・パソにたどり着く。シウダー・フアレスにはエル・パソと結ぶ四つの橋があり、2008年に22,958,472人の移民がこれらの橋を利用して二つの都市を行き来したといわれている。シウダー・フアレスとエル・パソを合わせば、アメリカとメキシコの国境地帯の都市で2番目の大きさを誇り、その人口もおよそ210万人に跳ね上がる。近年、工業化が著しく、世界中で最も発展が早い国の一つとして知られているが、同時に急速に治安が悪化して「戦争地帯を除くと世界で最も危険な都市」とも恐れられていた(2009年には年間に2575人が殺されるという、世界で一番殺人が多い町だった)。しかし、2012年にホンジュラスの都市サン・ペドロ・スーラに抜かれ、「世界で2番目に危険な場所」となった。2012年以降は殺人件数が減少しているものの、今もなおジャーナリストなど町の実態を調べようとする者にとって世界で最も危険な都市の一つであり、新しいカルテルも台頭しつつある。

ダウン SICARIO scene ― Border Battle


(5) フォートブリス陸軍基地でギレルモを尋問 
エル・パソのフォートブリス陸軍基地に帰還して、ケイトは民間人を巻き添えにしかねない今回の作戦の違法性についてマットに激しく抗議する。しかし、「これが現実だ。見るものすべてから学べ。君は学ぶためにここにいる」と軽く一蹴されてしまう。
基地内で、ギレルモへの尋問(拷問)が開始された。アレハンドロはウォーターボーディング(水責め)で彼を締め上げ、ソノラ・カルテルがアメリカとメキシコの往来に使用している秘密のトンネルの存在を聞き出す。ちなみに、ケイトはその拷問には一切関知しなかった。

(6) アリゾナ州ツーソンで不法入国者をスカウト 
マット、アレハンドロ、そしてケイトは、フォートブリス陸軍基地からアリゾナ州フェニックスへ戻る。そこでレジー・ウェイン(ダニエル・カルーヤ)が合流し、≪特捜チーム≫に加入。ケイトが、FBIにおける相棒のレジーも仲間に加えるよう、マットに強く迫ってのことだった。
一行はレジーの車でツーソンへ(フェニックスから約2時間)。ツーソンの入国管理所(Immigration Office)では、逮捕されたメキシコからの不法入国者が大勢集められていた。マットがFBIのケイトの名を騙り、その権限で地元警察に連れてこさせた。
アレハンドロはメキシコ人の中からノガレス(町の中央に国境が通っていて、アメリカ側〈アリゾナ州〉とメキシコ側〈ソノラ州〉に分かれている)で捕まった者だけを残し、あとは帰す。
更にその中から以前にもアメリカ・アリゾナ州に来た者を探し、既婚かどうかや刺青の有無(カルテル関係者かどうか)をチェックする。
一方、何が行なわれているのか分からないケイトは、作戦の全容について教えなければ≪特捜チーム≫から抜ける、とマットに詰め寄る。
彼は応じる。「ノガレスの東にトンネルがあるとギレルモが吐いた。その場所を特定したい。当面の狙いは、ソノラ・カルテルに混乱を引き起こすこと。そうすれば、ソノラ・カルテルのアメリカの最高幹部マニュエル・ディアスは、メキシコ国内の彼のボスに呼び戻されるだろう。そのボスとは、ディアスのいとこ、ファウスト・アラルコンだ。ディアスを追跡すれば、謎に包まれていたアラルコンの所在も分かるだろう。」ケイトは、ギレルモがそんな重要情報を素直に自白したことが信じられないが、とりあえず納得…。
不法入国メキシコ人数人から得た情報をもとに、地図で麻薬密輸のための地下トンネルの場所が特定された。

(7) 資金洗浄屋の逮捕→行きずりの情事(アリゾナ州フェニックス)
マットはソノラ・カルテルの資金洗浄(マネー・ロンダリング)~アメリカ国内の麻薬取引で得られた金を、当居の監視をすり抜ける手法でメキシコへ送金~を行なう女を銀行で逮捕し、虹色のゴムバンドに束ねられた大量の紙幣を押収し、ディアスの口座を凍結する。
ケイトは口座の金の流れを追えば正当にディアスを逮捕できると意気込むが、マットはそれを否定する。当面の狙いは、ディアスではなく、彼を従えるアラルコンであると彼女に告げる。

ケイトはFBIの上司・ジェニングスにマットの≪特捜チーム≫が展開中の超法規的捜査について報告し、助言を求める。しかし彼から、「この捜査に対する協力要請は政府の上層から下されたものだから、法や手続きのことは気にしないでやれ」と説得されてしまう。
苛立ちを募らせたケイトは、気を紛らすために、レジー・ウェインに案内させてバーへ酒を飲みに出かける。(FBIフェニックス支部から出ていくレジーの車の後を、アレハンドロが尾行していく…。)そこでケイトはレジーの友人で地元(フェニックス)警察官のテッド(ジョン・バーンサル)と会い、一緒に飲んでいるうちに気安い雰囲気になり、彼を自宅のアパートに招き入れる。しかし、行きずりの情事はたちまち悪夢に変貌した。彼の持ち物から銀行で押収した札を束ねる虹色のゴムバンドと同じ物を発見したケイトは、彼がソノラ・カルテルに買収された汚職警官であることに気づく。テッドは捜査情報を探るために、ケイトに接近したカルテルの内通者だったのだ。彼女は拳銃を取ろうとするが、テッドが応戦し窮地に立たされる。そこにアレハンドロが現われ、テッドを拘束する。カルテルの動きを先読みしていたアレハンドロに危ういところを救われた彼女は、もはや何も信じることができない無力感に打ちのめされる。
アレハンドロ、マットはテッドを尋問し、カルテルに買収されている他の汚職警官の情報を聞き出す。

(8) 秘密トンネルでの銃撃戦(アリゾナ州ノガレス→メキシコ・ノガレス)
マニュエル・ディアスの屋敷は、軍用の偵察ドローン(高度3000メートル上空を飛行)による監視下に置かれていた。そのディアスに動きがあった。屋敷を出て、黒のベンツ(ナンバーはRIN-31-B7)に乗り込み、メキシコに向かう様子だ。マットの思惑が当たって、カルテルがディアスをメキシコに呼び戻すことになった…。
いよいよ正念場に立った≪特捜チーム≫は、ノガレスの秘密トンネルを急襲する作戦を進める。
出発直前、マットはケイトとレジーにこの作戦に同行するよう命ずる。そして、その理由をためらわずに口にした。「CIAは単独での国内活動を禁止されているからだ」。
マットはCIA局員だった!ケイトはこの驚愕の事実を知らされ、自分が都合よく利用されていたことにショックを受ける。

※米国では、警察(Police)が同一の州で起こった犯罪を管轄し、FBI(Federal Bureau of Investigation、連邦捜査局)が複数の州にまたがった犯罪を管轄する。FBIは司法省配下の法執行機関で、逮捕権のみで起訴権をもたず主にアメリカ国内で捜査を行なう。一方、CIA(Central Intelligence Agency、中央情報局)は大統領の直属機関で、国家の安全保障政策の決定に必要な諜報活動(ヒューミント)を行なうことを主任務とし、米国への他国からの犯罪などの防止や対策、捜査を担当している。

そもそも、FBI捜査官のケイトを≪特捜チーム≫に加えたのは、FBIという公的組織を「隠密作戦」の隠れ蓑に使えるためだった。そして、チーム内で振り当てられたケイトの役割とは、「生きる通行手形」として、ただ国内の各州に渡るチームの行動を当たらず障らず傍観すことであり、チーム自体の捜査力・戦力として期待されていたわけではなかった。
この酷遇に憤慨するケイトだったが、何はともあれ捜査の行方を最後まで見届けたい一心で作戦に参加する。

チーム~マット、アレハンドロ、ケイト、レジー、そして屈強な軍人たち(デルタフォース)~は、ノガレスに向かう。途中、「標的(ディアス)は、まもなく国境を通る」と軍のオペレーターから一報が入り、急ぐ一行。

ダウン SICARIO scene ― at dusk before entering the tunnel 
【光を有効に利用したカメラ演出が見事で、暗闇の中、自然と地平線の光の影に消える突入場面は何とも魅惑的!また、背後に流れる効果的な音響演出も緊迫感を高め、作品全体のドラマ性に深みを与えている。】



デルタフォースを先頭とする一団は、麻薬密輸団のメンバーたちと交戦しながらトンネルの奥へと進行する。
アレハンドロは単身でチームから離別し~トンネルの横道に向かって銃撃するデルタフォースの面々を尻目に~、トンネルを直進しメキシコ側の出口へ向かう。ケイトがその後を追う。
トンネルを抜けたメキシコ側(倉庫)では、ノガレス在住のメキシコ警官シルヴィオ(マキシミリアーノ・ヘルナンデス)がカルテルメンバーの一人と一緒に、パトカーから麻薬を積み降ろしているところだった。彼はソノラ・カルテルに買収された、麻薬の運び屋だった。
そこへアレハンドロが現われ、カルテル・メンバーを射殺。そしてシルヴィオを拘束した時、彼の後を追って来たケイトが銃を向けて静止を命じる。と、アレハンドロは彼女の防弾ベストを撃ち、「2度と俺に銃を向けるな。アメリカに戻れ」と警告する。

負傷してフラフラの彼女は、トンネルを引き返しアメリカ側に戻り、マットと対峙する。トンネル急襲の事態は、アレハンドロをメキシコ側に送り込むための陽動作戦だったのだ。激怒する彼女に、マットはアレハンドロの正体を明かす。
「アレハンドロは“メデジン・カルテル”の殺し屋(Sicario)だ。かつて検察官だったが、ソノラ・カルテルに妻の首を切断され、娘は酸に沈められて殺された。彼はその復讐を遂げるためなら、麻薬カルテルだろうがアメリカだろうが誰とでも手を組むし、邪魔は許さない。」

マットによれば、CIAが主導する≪特捜チーム≫の作戦の目標は、アレハンドロを利用し、コロンビアのパブロ・エスコバル(1949~93)時代の再来を図ることに尽きた。その言わんとするところは―
 麻薬王・エスコバルが創設した「メデジン・カルテル」は1970~80年代、アメリカに流入する全てのドラッグを扱っていた。当時のアメリカ(CIA)は、メデジンから“みかじめ料”を取ったり麻薬の出荷量を決めるなどして、麻薬市場を一応コントロールできていた。だが、90年代に入ってメデジンが弱体化→壊滅の危機に瀕(ひん)するにつれ、メキシコ・カルテルが台頭→アメリカ(麻薬密輸)シェアNo.1になってからは暴虐を極め、今やCIAの手に追えない事態を引き起こし続けている。そこで何とかメデジンと組んでメキシコ・カルテルを潰し、再びコントロールがきく状態に戻したい!CIAの喫緊の要務は、コロンビア・カルテルの復権を果たすことだ。―

ケイトはこのマットの計画の全貌を世に暴露してやると息巻くが、マットは彼女に「それは大きな過ちだ」と警告する。

(9) ディアスを捕捉→アラルコン一家を射殺(メキシコ・ノガレス郊外)
アレハンドロはシルヴィオにパトカーを運転させ、ディアスの車の後を追う。ヘッドセットマイクで軍のオペレーターと通信し、標的(ディアス)の現在位置とルートを確認しながら。
パトカーはディアス自らが運転する車(ベンツ)に追いつく。→アレハンドロの銃撃で、シルヴィオが死亡し、ディアスは足を負傷する。拘束する。→アレハンドロは拘束したディアスと共にベンツに乗り込み、ディアスにファウスト・アラルコンの自宅まで運転を命じる。
アラルコン邸にたどり着いたアレハンドロは、ディアスの首を切り、武装した門衛4名を射殺する。→彼は家に侵入し、護衛1名を射殺する。→彼は妻および二人の息子と食事中のアラルコンと対面する。
アレハンドロの妻と娘の殺害を命じたのは、アラルコン本人であることが明かされる!
アレハンドロはその場で、まずアラルコンの妻子3人を一瞬で射殺する。→アラルコンは言葉を失い、切羽詰まった絶望感を味わわされる。→アレハンドロはやおらアラルコンに銃弾を撃ち込む。それは、一途な復讐の念に燃えた、容赦のない殺「人」だった!

ダウン SICARIO scene ― Time to Meet God


(10) ケイトとアレハンドロの対峙(アリゾナ州フェニックス)
ケイトのアパートにアレハンドロが現われ、彼女を拳銃で脅し、今回の捜査を全て「合法的」とする書類にサインをするよう命じる。拒否したケイトに更なる脅しをかけ~「サインしないなら、君は自殺することになるだろう」~、強引にサイン済み書類を手に入れたアレハンドロは、その場で彼女の拳銃を分解し、「ここは狼の町だ。君は狼ではない。まだ法が存在するどこか小さな町~理非曲直に従って生きられる世界~へでも引っ越せ」と言い放ち、アパートを去る。ケイトは即座に銃を組み立て直し、ベランダからアレハンドロの後ろ姿に銃口を向けるが、結局撃てずに銃を下ろし涙する…。

(11-ラスト) シルヴィオの息子(メキシコ・ノガレス)
シルヴィオの息子が母(シルヴィオの妻)を連れて、サッカーに行く。二人はシルヴィオが昨夜死亡してしまった事実をまだ知らない様子…。
子どもたちがサッカーの試合に興じ、親たちが観戦している。試合は遠くから響くマシンガンの発砲音で一時中断となるが、すぐに何もなかったかのようにゲームが再開される―。

▼予告編



▼メイキング映像



▼特別映像(「劇伴」解説)



Academy Conversations : SICARIO
Sicario discussion with director Denis Villeneuve, cinematographer Roger Deakins, and actors Benicio Del Toro, Emily Blunt and Josh Brolin on September 16, 2015 at the NYIT Auditorium in New York. (Academyとは、The Academy of Motion Picture Arts and Sciences〈略称:AMPAS、映画芸術科学アカデミー〉のこと。)



私感
国境麻薬戦争の「今」を極限の臨場感で捉えたクライム・サスペンス・アクションの傑作!
しかし、この映画は単なるクライム・アクションではない。現実世界の相当に根深い問題をテーマ化することで、登場人物の内面にスポットを当てた人間ドラマでもある。そこでは、麻薬捜査の一断面を切り取ることによって、社会や人間の深層にある「怒り」や「苦悩」や「理不尽さ」を鮮烈に浮き彫りにしている。

この上なく重厚にして刺激的な映画体験~極限のダイナミズム、圧倒的なスリルとサスペンス、胸に押し寄せるエモーション~をもたらす快作!
本作は俳優・脚本・演出・画面構成・音楽・背景が見事に一体化した超一級品の社会派ドラマ⇒ヒューマン・ドラマである。

私は約2時間、文字どおり最初から最後まで、不安な緊張感を持続しながら~死と背中合わせの危うい“ボーダーライン”に誘(いざな)われながら~、画面を食い入るような目で観つづけた。

俳優陣の中では、エミリー・ブラント(Emily Blunt、1983~)とベニチオ・デル・トロ(Benicio del Toro、 1967~)の演技がくっきりと際立って目立つ!

イギリスの女優・ブラントは、FBI捜査官としての倫理と現実の過酷さに精神をすり減らすケイト・メイサーを好演している。
正義感にあふれ、仕事に熱心で秩序を重んじ、ルール通りに作戦を運ぶことにプライドをかけるケイト。そんな彼女が麻薬戦争の得体の知れない闇【理非曲直を目安に自身の行動の基準体系を決められない⇒善悪の境界線(ボーダーライン)があいまいな、白黒つけられない領域】に引きずり込まれて、心が折れるような試練に直面し、信念やモラルが崩れ、最終的には忍びがたい屈辱も味わう…。
この主人公ケイトの内面的な揺らめき・葛藤・挫折を、ブラントはきめ細かくリアルに体現している。

私はブラントの出演作を、これまでに9作鑑賞した。
『プラダを着た悪魔』(2006年)→『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(2009年)→『ウルフマン』(2010年)→『ガリバー旅行記』(2010年)→ 『アジャストメント』(2011年)→ 『砂漠でサーモン・フィッシング』(2011年)→『LOOPER/ルーパー』(2012年)→『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年)→『イントゥ・ザ・ウッズ』(2014年)。
彼女は女王役からダンサー役まで、またコメディ出演、アクション挑戦…と、役柄を幅広く、数(かず)こなす。知性あふれる、スタイル抜群(身長171cm、体重52kg)のカッコイイ女優だ。

本作の最も不可解なキャラクター、アレハンドロ・ギリックを演じた、プエルトリコ【正式国名:アメリカ合衆国プエルト・リコ自治連邦区(Commonwealth of Puerto Rico)】出身の男優デル・トロも、ひときわ光彩を放つ。
アレハンドロは映画の前半では全く正体不明、クライマックスに彼の不幸な過去が判明する人物。彼はかつては勇敢な検察官だったが、麻薬戦争に巻き込まれて家族を皆殺しにされたことで、今は身を転じて、自分の人生を破滅させたカルテルを掃討するには、どんな線を超えることも厭わない“Sicario”(殺し屋)となった。
この麻薬王たちを狙うSicarioを、デル・トロは冷徹に演じている。その彼の迫真力に満ちた演技には、確固たる存在感がにじみ出るとともに、男の気をそそる色気も漂う。
ターゲットを確実に仕留める酷薄非情な狙撃手(暗殺者)アレハンドロ=デル・トロは、時にケイト=ブラントにさりげない優しさ~互いの心の底に儚く通い合う一瞬の何か不思議なつながり~を見せる男でもあった。

私がこれまでに鑑賞したデル・トロの出演作は、次の通りである。
『007 消されたライセンス』(1989年)→『トラフィック』(2000年)→『21グラム』(2003年)→『シン・シティ』(2005年)→『Che(チェ)』〈『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳 別れの手紙』〉(2008年)→『ウルフマン』(2010年)→『野蛮なやつら/SAVAGES』(2012年)→『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013年)→『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)。

ベニチオ・デル・トロは幾つかのTVに出演後、『007 消されたライセンス』などに小さな役で映画出演するが、下積み生活は続いた。そして2000年、スティーブン・ソダーバーグ監督の『トラフィック』(Traffic)で、麻薬王と対決させられるメキシコ州警察の捜査官役で圧倒的な存在感を示し、オスカー(第73回アカデミー賞助演男優賞)を受賞、ついにトップスターの仲間入りを果たした。プエルトリカンとしてはリタ・モレノ、ホセ・フェレールに続く史上3人目のオスカー受賞者であり、南米系俳優の希望の星となった。
彼は188㎝の長身で、カリスマ性に富む、クールで危険な香りが漂う実力派俳優である。「目で妊娠させる男」ともいわれ、その無機的な感じのする鋭い眼光は妙に粘っこく光るとともに、信じられないほどの優しさと温かさを漂わせている。

私がデル・トロを明瞭に対象化できたのは、彼の主演作『Che(チェ) 』(スティーブン・ソダーバーグ監督)において。
同作は革命家チェ・ゲバラ(1928~67)の半生を描いた、アメリカ・フランス・スペインの合作伝記映画。フルヘンシオ・バティスタによる独裁政権をフィデル・カストロと共に倒すキューバ革命までを描く前編『チェ 28歳の革命』(The Argentine)と、ボリビアでの敗北と処刑までを描く後編『チェ 39歳 別れの手紙』(Guerrila)の2部作で成る、全編の上映時間が約4時間半に及ぶ超大作映画。

キューバ革命の英雄⇒世界中の人々に愛された伝説の英雄、チェ・ゲバラ。彼こそは、私に言わせると、体制・権力の総体を不断に相対化しつづける人生を全うした(39歳の短い生涯!)、その意味での世界一の風雲児=快男児にほかならない(かのビートルズのジョン・レノンは、ゲバラを「世界一格好いい男」と絶賛している!)。

※「チェ・ゲバラ」は通称。「チェ」は主にアルゼンチンやウルグアイ、パラグアイで使われているスペイン語で「やぁ」、「おい」、「お前(親しみを込めた)」、「ダチ」といった砕けた呼びかけである。ゲバラが初対面の相手にしばしば「チェ。エルネスト・ゲバラだ」と挨拶していた事から、キューバ人たちが「チェ」の発音を面白がり付けたあだ名である。彼の本名は、エルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ(Ernesto Rafael Guevara de la Serna)。

プエルトリコ出身のデル・トロは、アルゼンチン出身のチェ・ゲバラを、体重25kgも減量した、ゲバラそっくりの姿形で、それこそゲバラに成りきって、入魂の演技で熱演している。
もっとも私によれば、俳優魂に徹したデル・トロがゲバラにおける永続革命の“崇高な精神”を果たして、どこまで全的に表現しえたかどうかは疑問が残る。
それはともかく、私にとって彼ベニチオ・デル・トロは、「世界一かっこいい男」ゲバラに扮したという、その一事をもって、私の映画体験史上にありありと刻印された、同時代を代表する名優の一人となった。

波『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳 別れの手紙』
「チェ」ドンッチェ・ゲバラとベニチオ・デル・トロ
(いずれ劣らぬ強者〈つわもの〉なれど、どちらが、よりハンサムなりや!?)

ゲバラとデル・トロ