作品データ :
原題 WILD
製作年 2014年
製作国 アメリカ
配給 20世紀フォックス映画
上映時間 116分
何のトレーニングもせずに、1995年に3か月をかけて1600キロもの「自然歩道」踏破に挑んだ女性シェリル・ストレイド(Cheryl Strayed、1968~)の自叙伝“Wild:From Lost to Found on the Pacific Crest Trail”(2012)(雨海弘美・矢羽野薫訳『わたしに会うまでの1600キロ』静山社、2015年)を、リース・ウィザースプーン主演で映画化した人間ドラマ。極寒の雪山や酷暑の砂漠が待つ厳しい道のりを、必死に乗り越えようとするヒロインの姿が胸を打つ。監督を務めたのは、『カフェ・ド・フロール』(本ブログ〈April 18, 2015〉記事)、『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・ヴァレ。
ストーリー :
シェリル(リース・ウィザースプーン)は、スタートしてすぐに“バカなことをした”と後悔していた。今日から1人で、砂漠と山道が続く1600キロの“パシフィック・クレスト・トレイル”を歩くのだが、詰め込み過ぎた巨大なバックパックにふらつき、テントを張るのに何度も失敗。その上、コンロの燃料を間違えたせいで、冷たい粥しか食べられない。この旅を思い立った時、彼女は最低な日々を送っていた。どんなに辛い境遇でも、いつも人生を楽しんでいた母(ローラ・ダーン)の死に耐えられず、優しい夫を裏切っては薬と男に溺れる毎日。遂に結婚生活も破綻した。このままでは残りの人生も台無しだ。母が誇りに思ってくれた自分を取り戻すために、一から出直すと決めたのだ。だが、この道は人生よりも厳しかった。極寒の雪山や酷暑の砂漠に行く手を阻まれ、食べ物も底を尽くなど、命の危険にさらされながら、自分と向き合うシェリル。果たして彼女が、1600キロの道のりで見たものとは…?
▼予告編
▼特別映像(Making Of Featurette)
■パシフィック・クレスト・トレイル(正式名称は「The Pacific Crest National Scenic Trail」、略称PCT):
アパラチアン・トレイル(Appalachian Trail)、コンチネンタル・ディヴァイド・トレイル(Continental Divide Trail)と並ぶ、アメリカにおける三大長距離自然歩道のひとつ。
アメリカ=メキシコ国境(カンポ)からアメリカ=カナダ国境(カナダ領内のマニング・パーク)まで、アメリカ西海岸を南北に縦走する。
カリフォルニア州内の山地――ラグナ山脈、サンジャシント山脈、サンバーナディーノ山脈、サン・ガブリエル山脈、リーブル山地、テハチャピ山地、シエラ・ネバダ山脈を、オレゴン州・ワシントン州ではカスケード山脈を越え、その総延長は2650マイル(約4260キロ)に達する。
おおむね天気は穏やかだが、荒涼とした美しい砂漠地帯の南部は夏には40℃近い日が続く。一転、4000メートル級の山々が連なるシエラ・ネバダ山脈は雪が深く6月まで残雪が多い。地域ごとに変化に富むのが特徴的。

■シェリルが歩いた、PCTの1000マイル(約1600キロ)のセクション :
本作の主人公、シェリルが辿るのは、カリフォルニア州のモハーベ砂漠→《途中、雪を迂回してリノまでバスを使う》→カスケード山脈→オレゴン州のクレーターレイク→オレゴンとワシントンの州境を流れるコロンビア川に架かる鉄橋、“Bridge of the Gods”に至る、およそ1000マイルの遠大な道程(※日本国なら、だいたい「札幌市・鹿児島市」間の直線距離)。
■私感:
率直に言って、 主演のリース・ウィザースプーン(Reese Witherspoon、1976~ )は、あまり私の好きなタイプの女優ではない。
私はこれまでに、彼女の出演作を、(はっきりと記憶にとどめる作品に限れば)本作以外に5本観た。
『メラニーは行く!』(原題:Sweet Home Alabama、アンディ・テナント監督、2002年)、『悪女』(原題:Vanity Fair、ミーラー・ナーイル監督、2004年)、『Black&White/ブラック&ホワイト』(原題:This Means War、マックG監督、2012年)、『MUD ‐マッド‐』(原題:Mud、ジェフ・ニコルズ監督、2012年)、『デビルズ・ノット』(原題:Devil's Knot、アトム・エゴヤン監督、2014年)。
この5作を鑑賞する都度、私は理屈抜きに、彼女の見目形全体が醸し出す雰囲気が私の性分に合わないことをつくづく実感したものだ。
(なお、私は残念ながら、彼女がアカデミー賞主演女優賞を受賞した『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』〈ジェームズ・マンゴールド監督、2005年〉を、まだ観てはいない。)
とはいえ、私は本作のテーマ、“冒険+自己探求”そのものには魅せられた。
過酷な自然の中を旅することで自分と向き合い、自分を見つめ直そうとした女性の冒険譚!
PCTの、雄大にして神秘的な風景の中で繰り広げられる命がけの一人旅【シェリルの冒険を時系列で再現】と、記憶を巡る叙情的なドラマ【シェリルの過去と克服すべき問題がフラッシュバック】のコントラストが清冽な詩情を生み出す。
撮影監督イヴ・ベランジェが撮ったアメリカ西部山岳地帯の美しい大自然の映像は、黙々と力の限り歩き続ける(⇒凍えるような寒さの中、世界一重たいバックパックを背負って、切り傷や打ち身で体の痛みに耐えている)シェリルの寂寞の孤独を鮮やかに際立たせる。
この彼女の旅路に常に遠くに低く流れている楽曲が、米国のフォークロックデュオ、サイモン&ガーファンクルの「コンドルは飛んで行く」⇒哀愁を帯びた妙(たえ)なるメロディーだ。
そしてエンドロールで、旅の終わりに近づいた時、彼女の生き抜く感情が高潮するかのように、ポール・サイモンとアート・ガーファンクル本人の歌がさわやかに流れる。二人の奏でる美しいハーモニーが、私の胸に切々と迫る!
▼サイモン&ガーファンクル(Simon&Garfunkel)「コンドルは飛んで行く(El Cóndor Pasa)」:
「コンドルは飛んで行く」は、ペルーの作曲家ダニエル・アロミア・ロブレス(Daniel Alomía Robles、1871~1942)が1913年に作曲した歌曲。インカ帝国の王女を主人公にしたサルスエラ(オペレッタの一種)のために作曲された序曲で、そのメロディーはロブレス自らが採譜したアンデスのフォルクローレ(民族音楽)~かつて栄えたインカ帝国の子孫で、今は広くペルー・ボリビア・チリにまたがるアンデス高原に住むインディオたちにより伝統的に歌われたもの~がベースになっている。
原曲に歌詞はなく、ロブレスによる発表以後、様々な人々により多くの歌詞が付けられてきた。なかでも、サイモン&ガーファンクルによってカバーされ~ポール・サイモンが英語の歌詞を書き下ろし~、1970年にアルバム『Bridge Over Troubled Water』(邦題:『明日に架ける橋』)に収録、世界的大ヒットとなった。
♦「コンドルは飛んで行く」英語歌詞:
I'd rather be a sparrow than a snail
Yes I would, if I could, I surely would
I'd rather be a hammer than a nail
Yes I would, if I only could, I surely would
Away, I'd rather sail away
Like a swan that's here and gone
A man gets tied up to the ground
He gives the world its saddest sound
Its saddest sound
I'd rather be a forest than a street
Yes I would, if I could, I surely would
I'd rather feel the earth beneath my feet
Yes I would, if I only could, I surely would
♦「コンドルは飛んで行く」和訳:
カタツムリになるならスズメになったほうがいい
確かにそうさ
もしできるなら
本当にそうなりたい
クギになるならハンマーになったほうがいい
確かにそうさ
もしできるなら
本当にそうなりたい
遠くへ、どこか遠くへ行きたい
去り行く白鳥のように
人は地面に縛られて
この世界で一番悲しい音をたてる
一番悲しい音をたてる
道になるなら森になったほうがいい
確かにそうさ
もしできるなら
本当にそうなりたい
足もとに大地を感じていたい
確かにそうさ
もしできるなら
本当にそうありたい