映画『サンドラの週末』 | 普通人の映画体験―虚心な出会い

普通人の映画体験―虚心な出会い

私という普通の生活人は、ある一本の映画 とたまたま巡り合い、一回性の出会いを生きる。暗がりの中、ひととき何事かをその一本の映画作品と共有する。何事かを胸の内に響かせ、ひとときを終えて、明るい街に出、現実の暮らしに帰っていく…。

2015年6月9日(火)ヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区有楽町2-7-1 有楽町イトシア・イトシアプラザ4F、アクセス:JR山手線・有楽町駅中央口から徒歩1分)で、18:40~ 鑑賞。

作品データ
原題 DEUX JOURS, UNE NUIT
製作年 2014年
製作国 ベルギー・フランス・イタリア
配給 ビターズ・エンド
上映時間 95分


『ロゼッタ』『ある子供』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したジャン=ピエール・ダルデンヌとリュック・ダルデンヌの兄弟が、解雇を回避するために同僚たちに賞与を諦めるよう説得して回る女性の姿を描いたドラマ。主演は『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』で第80回アカデミー賞主演女優賞を受賞したマリオン・コティヤール。窮地に立たされた主人公のひたむきさや脆さを演じ、第87回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。主人公を支える夫を『ロルナの祈り』『少年と自転車』のファブリツィオ・ロンジォーネが演じるほか、オリヴィエ・グルメやモルガン・マリンヌといったダルデンヌ兄弟作品の常連が集結。

ストーリー
体調不良のため休職していたサンドラ(マリオン・コティヤール)が職場に復帰しようとした矢先の金曜日、会社側から社員へボーナス支給するために解雇せざるをえないと告げられる。ようやくマイホームを手に入れ、家族を養うためにも仕事は必要だった。同僚のとりなしで、週明けの月曜日に16人の同僚たちによる投票を行ない、彼らの過半数がボーナス(1000ユーロ)を諦めてサンドラを選べば、サンドラの復職が果たされることになる。共に働く仲間をとるか、ボーナスをとるかのシビアな選択。その週末(二日と一夜)、サンドラは家族に支えられながら、同僚たちを訪ね説得して回る…。

▼予告編



私感
マリオン・コティヤール(Marion Cotillard、1975~ )の出演作を、私はこれまでに、何本観ただろうか。
記憶に誤りがなければ、
『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』(原題:La Môme、2007年)
『パブリック・エネミーズ』(原題:Public Enemies、2009年)
『インセプション』(原題:Inception、2010年)
『ミッドナイト・イン・パリ』 (原題:Midnight in Paris、2011年)
『ダークナイト ライジング』(原題:The Dark Knight Rises、2012年)
『エヴァの告白』(原題:The Immigrant、2013年)
の6本である。

これらはそれぞれに味わいがある、無理なく楽しめる作品だった。
特にコティヤール主演の『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』(オリヴィエ・ダアン監督)、『エヴァの告白』(ジェームズ・グレイ監督)の2作は、見応えのある佳作だ。

前者:「愛の讃歌」「バラ色の人生(ラ・ヴィ・アン・ローズ)」など、数々の名曲を残した伝説の歌姫エディット・ピアフの波瀾万丈の生涯(1915~63)が描かれる。
後者:1921年、戦火のポーランドを逃れ、新天地アメリカへ渡るも、バーレスクダンサーになった女性・エヴァの過酷な運命と愛憎が描かれる。

私はピアフおよびエヴァを演じるコティヤールの言い知れぬ魅力に惹かれた!

『サンドラの週末』は私の観たコティヤール出演作の7本目に当たる
本作は等身大の一人の女性の物語。
主人公サンドラは、自分の存在価値を何度も疑いながらも自身を見つけ出していく…。

サンドラの弱さと強さ、脆さや不安、繊細さ、心の機微…。
暮らしの最低線を維持するための、サンドラの「闘い」!

コティヤールはこの「サンドラ」役を生々しく演じている。華やかさ・優美さを封印し、具体的にして身体的な演技力を存分に発揮している。

コティヤールはノーメーク、無造作な束ね髪とジーンズで“普通”を体現する。ディオールのコマーシャルなどでお馴染みのエレガントでスリムな彼女が、そこでは痩せこけて、一見貧相に見えるほど。

しかし、彼女は演技の身体性の磁力を全開する。
全篇を通して、「力なき小さな人」の肉体の実感に貫かれた名演技を見せている。
ピアフおよびエヴァ以上に複雑なキャラクターの持ち主・サンドラを痛ましいほどに演じきった!

サンドラ(コティヤール)の言葉の一つひとつが私の心の深みに響いたものだった…。