
作品データ:
原題 Rudderless
製作年 2014年
製作国 アメリカ
配給 ファントム・フィルム
上映時間 105分
銃乱射事件で亡くなった息子が遺した楽曲を歌い継ごうとする父親と、その歌に魅了されたミュージシャン志望の青年との出会いを描く人間ドラマ。『ビッグ・フィッシュ』のビリー・クラダップが父親役を演じ、青年役のアントン・イェルチンとともに吹替えなしで歌とギターの腕前を披露する。30年以上もの長きにわたって、数々の作品で個性的な役柄を演じてきたベテラン俳優、ウィリアム・H・メイシー(William H. Macy、1950~)の初監督作。
ストーリー:
大きな契約話がまとまったことを祝おうと大学生の息子ジョシュを呼びだしたサム(ビリー・クラダップ)の目に、ジョシュの通う大学で銃乱射事件が起きたことを報じるテレビニュースが飛び込んでくる。ジョシュは事件に巻き込まれ、突然この世を去ってしまった。それから2年、サムは仕事を辞め、すっかり荒んだ生活をしていた。そんな彼のもとに別れた妻が訪ねてきて、音楽好きはサム譲りだと生前ジョシュが作っていた歌の歌詞とデモCDを渡す。ジョシュの曲を聴きながら、彼が何を考えていたのか知らなかったことに思いいたるサム。ジョシュの姿を追うように彼の遺したギターで曲を弾くようになり、場末のライブバーで開かれた飛び入りステージで彼の曲を歌う。このステージを見ていたクエンティン(アントン・イェルチン)という若者は、事情を知らないままもっと多くの人に聴かせるべきだとサムに力説、一緒にやろうと訴えかける。初めのうちは乗り気ではなかったものの彼の熱意に押し切られ、サムはクエンティンと「ラダーレス」というバンドを組んだ。メンバーたちと演奏するうちに、サムはジョシュの死と向き合うようになっていく。徐々に支持が広がっていきロックフェスへのオファーが舞い込んでくるが、サムはある理由のためこの話を断ろうとする……。
▼予告編
■私感:
映画の前半、私は銃乱射事件の実体がつかめないままに、「息子」を喪った「父親」サムの〈一人称‐二人称〉的な苦悩→再生に素朴な共感を覚えつづける。
しかし後半以降、次第に当の「息子」が事件の「被害者」ならね「加害者」である事実を知らされるとともに、私の胸に針で突かれたような痛みが走りつづける。
サムは「父親」ならぬ、一個の「個」として、より普遍的な〈一人称‐三人称〉的な、想像を絶する苦悩を背負いながら、纏綿する感情を制御して必死に生き抜こうとしていたのだった!
本作は、アメリカでは2014年1月24日にサンダンス映画祭でプレミア上映され、同年10月17日に劇場公開。公開と同時にネット配信もされた。そして、日本では2015年2月21日に劇場公開。公開に先駆けて観客が鑑賞後に料金を決める「投げ銭」先行上映が数回行なわれた。2月13日、一観客として本作を積極的に享受できた私は、気前よく(!?)2000円を支払った―。それは、映画の中盤に衝撃の“どんでん返し”が用意された、私の魂にビビッドに響く、見応えのある作品だった。