商店街の中程に郵便局がある。
この郵便局も今はずいぶんときれいで明るくなったが
パーマ屋の娘が小さい時にはコンクリート色の薄暗い建物だった。
真ん中に回転扉があって両脇にドアがついていた。
パーマ屋の娘は郵便局の回転扉が好きだった。
回転扉を回していると どこかに違う世界にいけるような気がした。
ちょっと 大人になった気分にもなった。
回転扉までは4段か5段のちょっとした階段があった。
学校から帰って行く途中の子供たちが回転扉の前から 
何階か 階段を飛び降りてから帰っていった。
小さい子は3段目から 大きい子は 一番上から飛び降りた。
だけどパーマ屋の娘は気になっていた。
階段の角に付いている鉄の縁。
もし 飛び降りるのに失敗してこの角に足ぶつけたら
血がでて痛いだろうな~~っと 思った。
それくらい 角がとがって見えた。
実際何人かは 足をぶつけて痛い思いをした。
 ある日 パーマ屋の娘がいそいそと回転扉に向かうと
回転扉にロープがかけられて回転扉から郵便局に入れなくなっていた。
どうもだれかが回転扉に手を挟んで大けがをしたらしい。
それで 安易な方法として 使用禁止にしたらしい。
パーマ屋の娘は ショックだった。
だって お姫様になれなくなってしまったのだから。
回転扉から外にでると お姫様になった気分で スカートが
ひらっとはねあがったようなきがして いい気持ちだったのに。
回転扉から局に入ると 映画でみた大きな銀行に入って行く大富豪の令嬢になれたのに。
回転扉から入ってそのまま 表にでてくると
巣鴨の地蔵通りから パリの町並みに瞬間移動できた気分になれたのに。
思わず ため息をついてしまった思い出がある。


灰色のイメージの建物が窓の沢山ある明るい建物に建て替えられ
局のまえにはいくつかのベンチがしつらえられた。
そのベンチにはいつも人が座ってるようになった。
縁日の日にはお好み焼きを持った人が何人も
並んでお好み焼きを食べていたり、氷を食べ
ていたりする。木のベンチはなんだか温もり
があって好きだ。日曜日にはお弁当を広げている人たちもいる。
おにぎりやお新香を密閉
容器に入れてお友達同士がとりかえっこして食べている。
まるでピクニックの様だ。
きっとほかの郵便局の前ではだれもお弁当なんて広げないと思う。
 夜は夜でアベックが座って仲良く話し込んだり、
酔っぱらちゃったお父さんが寝ころんで休憩していたりする。
ときどき 終電を逃しちゃった人が寝ていたりもする。
駅前でもないのになかなか利用度が高いベンチなのだ。
そんな 局前ベンチである。
 ここには近隣の迷惑ものがいる。
この迷惑もの、かつてはお地蔵の本殿に住んでいたのだが建物が汚れる、
参拝の人に糞がかかるなどの理由で敷地から追い出された。
迷惑物は鳩。
追い出された鳩は商店街の入り口にある「六地蔵」に避難した。
その残りの何十羽が郵便局に集まるようになった。
近くに豆や雑穀など商う店があてその店先のおこぼれが目当てらしい。
鳩たちはここで食事をする人の残り物をあさったり、
わざわざ餌をまきに来る人もいて、鳩の数はどんどん増えている。
鳩がおとなしくしている時はいい。
でも一旦何かに驚いて一斉に飛び立つ時の羽音とホコリ。
お弁当を広げている人には迷惑な話だ。
近所の食べ物屋さんは
「少なくとも餌だけはやらないでほしい」と言っている。
この食べ物屋さんは決して鳩を追い払う様な事はしないが・・・。
通りすがりの犬も迷惑を被る。
犬に驚いて鳩がいきなり飛び立つ物だから餌をやっていた子供が泣いたり、
お弁当を広げながらお弁当のおこぼれを鳩にやっている人が
「なんて犬だ!」といって怒ったりする。犬と犬の飼い主にすれば
「なんで?。通っただけでしょう?」てな具合だ。
鳩も犬も悪気は無い。
人間が勝手に餌をやっているだけだ。
餌をやる人も良い人で、餌をやらない人も良い人。
良い人ばかりだと世の中うまく行かない。
お地蔵通り商店もだいぶ様変わりしてきた。
コンビニが3軒もできたのも最近の事だ。
一番最初に出来たコンビニはその前、時計屋さんだった。
この辺では近所のお店を屋号で呼ばずその家の氏で呼ぶのが普通だ。
だからコンビニになった時も
「田端さんに買い物に行ってくるね」という調子だった。
最近出来たコンビニは酒屋さんがコンビニになった店で
若いアルバイト店員に混じって酒屋のご主人がレジにいるのを見ると
他のコンビニと違って冷やかしで帰れない気がし、なにか買うのものを探してしまう。
「変な本も買いにくいから他で買ったりして・・・」と言う具合だ。
でも夜小腹が減り何か欲しい時や夏冷蔵庫の氷が間に合わない時などはすぐ近くにあるし、24時間営業だしとても助かる。


マルジ


 地蔵通りの中程にいつも自転車がたくさん止まり、
交通渋滞を引き起こすというすさまじいお店がある。
衣料品を扱っているお店なのだがその量が半端じゃない。
家族全員、赤ちゃんからおじいちゃん、おばあちゃんまでの下着からよそいきまで、
なんでも揃う。
中には膝や肘、間接のあちこちの保温や保護に使うサポーターや
水虫防止用の靴下なんてのもある。
もちろん喪服やドレスもある。
男物の礼服も作業着もある。
そうそうもちろんモンスラもある。
「ここに来ればわたしらのズロースもあるのよ。7分パンツも7分袖のシャツも。
おしゃれ着もあるしね」
ズロースって何かご存じ?。
股上の深いパンツで足の入る部分に細いゴムが入っている。
ブルマを薄いソフトジャージで作った様な下着だ。
しかし、この店のメリットは品揃えの多さだけでは無い。
安い。とにかく安いのだ。
スリッパ235円。子供用スエットスーツ485円。
半端な靴下100円。結構よさげなジャンパー1980円。
タイムサービスとか特価品なんてもっと安い。
「さあ、ただいまだけのサービスです。一流メーカブラウス。
7800円以上が780円。780円です」
女の店員さんがマイクを持ってお客をあおると買い物を済ませて通りすぎようとす
る人まで品物の入った段ボールをのぞき込む。
遠くから買い物にやってきたお友達同士がお互いのお気に入りを当てながら
「あんたこれいいわ。780円には見えないわ」
「これ買おうかな。でもさ近所の人に780円て言わないでよ」
「大丈夫、あたしも買うから。こっちの茶色」と楽しそう。
でもこのお店ちょっと欠点もある。
品物が多すぎて探すのが大変。目的の物がなかなか見つからない。
子供連れのおかあさんは子供が通りに出ないように、
悪戯をしないように見張りながら買い物をするのだけれど、
品物陰に隠れたら子供なんてすぐ見失う。
でも、ちょっと覚悟を決めて両手を自由に出来る服装で出かけると、
すごいお気に入りなどが見つかってしかも安いときているから結構おすすめ。
お店は地蔵通りを挟んで向かい合って2軒ある。
その片方で自分のパンツを買い会計で男の人に会った。
眼鏡をかけた丸顔の男性。
そして、向かいの店で主人のシャツを買おうと前を見ると、
さっきレジにいたはずの人がマイク片手にお客を呼び込んでいる。
(?)見間違い?スーパーマンじゃあるまいし早業すぎる。
滅多にお目にかかれないがここの経営者の兄弟だ。
双子でも無いのに良く似た兄弟だ。
パーマ屋の娘は見比べてはいつもニコニコしてしまう。
つい最近、なんと3件目の店がオープンした。
紳士物を専門に扱う店を開いたのだ。
襟元にボアが付いた暖かそうなハーフコートが1980円。
紳士用パジャマが1000円。
ブリーフ380円、ランニングシャツ380円などやっぱり安い。
近頃はお客さんに外国の人も増えた。
おばあさんたちはそんな外国人の面倒もみてしまう。
「あんた、それは物がわるいわよ。こっち、こっち、こっちにしなさい」
すると話しかけられた外国人は
「こっち?」と言葉が解ったのか素直にアドバイスに従って品物をとりかえた。
その後もそんな会話(?)のやりとりがあって、
外国人は品物を買って店を出ていった。
通りにでた外国人に
「うるさいおばさんに捕まったわね」とパーマ屋の娘が話かけると
「ΨαμψΣηω」えっ?
つたない英語であのおばさんの言葉は解ったのか聞いたら、彼らの答えは
「NO」だった。言葉が解らないのによくおばさんの言うとおりにしたわねと言うと
「年寄りの忠告は聞くものだ」と言われた。
フィリピンの人はいい人だと思った。
その後4件に増えたマルジは
今日も多国籍の老若男女でにぎわっている。
近頃、巣鴨駅近くと地蔵通りには薬屋さんがたくさん出来た。
チェーン店展開をしているお店が4軒。
昔からの薬屋さんが大きくなったり、
昔のままで6軒と歩けば便利に買い物が出来、
いつもどの店もお客さんがたくさん入っている。
そのほかに、漢方薬局も3軒ある。
みんな、どこか病んでいるのかと思うとそうでもない。
おしゃれのための化粧品や髪染めなどを買い求める人がたくさんいるのだ。
たくさん並んでいる薬屋さんを
「ドラッグストアー」と呼んで高校生の女の子達がたくさん買い物をしている。
ちゃんとどの店が何が安いかを知っているのが主婦よりすごい。
友達とちゃんと品定めをしてかわいいマニキュアとかリップクリームとか
きっと校則違反だとは思うのだけどヘアーブリーチなども抱えて買っていく。
「これは髪がパサパサになるからダメよ。
これは良いけど高いよね。アムロのCMのもあるけどどうする?」
茶髪の女の子は真剣だ。
「ちゃんとスキンケアしないと25すぎたらオバサンだってママが言ってた」
う~ん私より自分を磨いてる。ご年輩の御婦人だってまけてはいない
「あんたは白髪がすくないからおしゃれ染めってので充分よ。
あたしはもう真っ白だから白髪染め。
あんた、そのファンデーションは若い子向きよ。
色が黒く見えて損よ。大人は色白でなくっちゃ!」
ちょと遠くなった目で小さな説明書きを読み読み
化粧品や健康食品を篭に放り込む。
お店だってお客さんを逃がさないように店員さんはたくさんいるし、
レジもたくさんあけてお客を待たせない。
ご年輩には胃腸薬や入れ歯磨きの試供品を、
若い女の子にはビタミンCやカルシュウムの試供品をおまけに付ける。
順番に入って品揃えと値段を見て歩くだけでも立派に
リクリエーションになりそうな位たくさんある。
どの、薬屋さんでもお年寄りと店員さんの珍問答が繰り広げられる。
「えっと、便秘の薬で行楽てのをちょうだい」
「行楽ですか?」と店員さん
「そっ、行楽。娘がそういってたのよ」
店員さんは棚を見ながら
「行楽、行楽???」と探すが見つからない。
「ないの?じゃいいわ」
「あいすいません」と店員さん。お年寄りが別の店に向かったころ
「あっ、コーラックだ!」と大きな声を発した。
店の半分くらいの店員さんとお客さんが大声の主の店員さんの方を一斉に振り向いた。
「そうだ、そうだコーラックだ!」
声の主の店員さんはなおもつぶやき続ける。
事の成り行きを知らない人はさぞや変なやつと思ったに違いない。
中には用意のいい家族を持ったお年寄りもいる。
常備薬の箱をおばあさんに持たせて買い物に出していた。
なんとこのおばあさん秋田の観光ツアーのバッチをつけていたのにはビックリ。
日本中から薬を買いにきているのか?