K-106 ガッタメラータ胸像
K-106 ガッタメラータ胸像 H.86×W.71×D.33cm (ドナテルロ作 イタリア・パドヴァ)
引き続きドナテルロの作品をご紹介。。。
前々回記事のラスト写真・・・
この方は、15世紀イタリア各地で活躍したガッタメラータ将軍。
ちゃんとした写真はこちら、
ドナテルロ作 イタリア・パドヴァのイル・サント広場 1447~53年頃制作
15世紀の半ばに、ヴェネツィア軍の総司令官として没したガッタメラータを記念するために、当時フィレンツェで大彫刻家としての地位を既に確立していたドナテルロがヴェネツィアへ招かれ制作されました
(ちなみに、パドヴァは、ヴェネツィアのあるベネト州の都市。ヴェネツィアから内陸に数十キロ入った街です)
石膏像は、この巨大な騎馬像のほんの一部分にしかすぎません。
全体を完全にコピーした石膏像は、日本では東京芸術大学の大石膏室に収蔵されています。鐙(あぶみ)の複雑な文様まで忠実に再現された、とても素晴らしい石膏像です。
こんなサイズになると、石膏像の複製品といっても、もはやそのサイズだけで十分説得力があります。
馬の背丈だけでも2メートルくらいあるでしょうか。おまけにこの馬・・・左前足を持ち上げてるんですよね~(足の下に玉が入っている)。
この巨大な胴体と人物の重みを3本足で支えるのは、相当チャレンジング・・・。厳しいですね。。。
さて、ガッタメラータ将軍(1370~1443年)はパドヴァで生まれ、傭兵としてイタリア各地で活躍しました。
”ガッタメラータ”というのは、イタリア語で”おあいそ猫(英語で、The Honey Cat)”という意味のあだ名です。
本名は、エラスモ・ダ・ナルニ。
当時のイタリアは、まだまとまった一つの国家の形態になっておらず、各都市が勢力を競い合いその覇権を争っていた時代でした。またそれらの都市が組織する軍隊は、傭兵達によって構成されるのが一般的でした。
ガッタメラータは、軍人学校を卒業した後、フィレンツェと教皇庁の軍に傭兵として仕え、その後ヴェネツィア軍に入り、最後は将軍の地位にまで上りつめました。
ヴェネツィアは国葬として彼を葬り、当時のフィレンツェで最高の彫刻家であったドナテルロを招聘し記念像を制作しました。
この騎馬像も、聖ジョルジョ像、ダビデ像と同様に、当時の彫刻スタイルとしては画期的なものでした。
ドナテルロは、ヴェネツィア滞在の十数年前に滞在したローマで、下の写真の”マルクス・アウレリウス騎馬像”と出会い、研究を重ねたと考えられています。
ローマ・カピトリーノの丘の”マルクス・アウレリウス騎馬像(現在はコピー)”
カピトリーノ美術館内のオリジナルブロンズ像
マルクス・アウレリウスは2世紀の人なのですが、ルネッサンス初期(15世紀)のドナテルロにとっては、こういったローマ彫刻との出会いは相当な衝撃だったはずです。
馬の筋肉の躍動感、写実的な人物像。。中世の彫刻とは全く違います。。
特にブロンズの巨大な彫像を鋳造する技術は、中世の1000年の間にかなり大きく衰退してしまっていたため、ルネッサンスの彫刻家達は、遺跡に残されたローマ彫刻を研究して、その制作方法を学び取ってゆきました。
このような巨大な騎馬像を、金属であるブロンズで制作し、しかもか細い足(それも3本で!)で支えるためには、金属の肉厚を相当薄く作らなければなりません。
内部に仕込む”支柱”の類もかなり計算されたものでなければなりません。
さらに、これだけ複雑な造形物をブロンズで鋳造する場合は、通常ですとある程度の部品ごとに鋳造し、後でそれを溶接していきます。でもルネッサンス期の彫刻家達は、古代ギリシャ・ローマで一般的に行われていた溶接の技術をほとんど受け継いでいなかったため、相当な困難があったようです。
そのようなローマでの研究を下敷きにして制作されたのが、今回取り上げているガッタメラータ騎馬像なのです。
いち早くルネッサンスが開花したフィレンツェに比べて発展が遅れていたヴェネツィアは、このドナテルロの来訪によって大いに刺激を受け、たくさんの芸術家が新しい表現に取り組むようになります。
ガッタメラータ像がブロンズで制作されたことで、ヴェネツィアではブロンズ彫刻が著しく発展しましたし、その立体感、躍動感は、絵画の分野にも大きく影響を与えたと考えられています。
マンテーニャ、ベッリーニといった画家は、ドナテルロの作品から、その写実性、遠近法など多くを学びとってゆきました。
マンテーニャ作 マントヴァのパラッツォ・デゥカーレの天井画。
これはローマのパンテオンのイメージですね。。天井がこんなに明るくなっちゃうのは、やっぱりルネッサンスですね~。
次回は、ガッタメラータの半面なのですが、ドナテルロの他の作品についても書いてみようと思ってます。。。
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