長期化するコロナ禍のなかで、生活困窮に関する相談を多くの市民から頂いています。そのなかで、生活保護を案内することになるケースもあるのですが、生活保護を申請するにあたっての大きなハードルの1つに「扶養照会」があります。

 

扶養照会とは、福祉事務所が、生活保護を申請した人の親族に対して、申請者への援助が可能かどうかを問い合わせるものです。

 

この扶養照会は、下記3点の問題点があると、指摘されています。

①家族仲が扶養照会によって破壊される場合がある

②「家族に知られたくない」という理由で扶養照会が障壁になり、生活保護申請をためらわせる

③扶養照会は、福祉事務所の業務負担が大きい割には、扶養に結びつくケースが稀である

 

これらの改善にむけた当事者や支援団体をはじめとした関係者のご尽力によって、今年4月1日に厚生労働省が「照会を拒む申請者の意向を尊重するよう求める通知」を自治体に出しました。具体的には「生活保護問答集」において、

 

・扶養調査は「扶養義務の履行が期待できる」と判断される者に対して行うこと

・要保護者が扶養照会を拒む場合には、「扶養義務履行が期待できない場合」に当たる事情がないかを特に丁寧に聞き取る運用を行うこと

 

が明記されました。

 

一方で、松戸市福祉事務所が策定し、現在、申請希望者に配布している「生活保護のしおり」の「保護が決まるまで」というページに、「扶養調査を行い、生活保護を受けるための要件が満たされているかを調査します。」という記載があり(添付)、「例外なく扶養調査が行われるという誤解を申請希望者に与えかねない表現」となっています。

 

そこで、厚労省の問答集等の記載を追記するべきではないか、と9月議会で質問しました。

 

下記が質問の議事録(未定稿)です。

なお、質問にあたり、生活保護の改善に力を尽くされている東京都足立区議会議員のおぐら修平さんに、勉強会や質問作成にあたっての助言を頂きました。おぐら区議に感謝申し上げます。

 

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◇質問:関根ジロー

 

生活保護の扶養照会に関する厚生労働省の事務連絡について、質問します。

 

これまでの議会でも他会派から扶養照会に関する質問がありましたが、長期化するコロナ禍のなかで、生活困窮に関する相談を多くの市民から頂戴していることから、私からも質問させていただきます。

 

福祉事務所が、生活保護を申請した人の親族対して、申請者への援助が可能かどうかを問い合わせる業務が「扶養照会」です。

 

扶養照会は、3つの観点から問題があると指摘する声が挙がっています。

 

ます1点目の問題点として、この扶養照会を行った結果、申請者と親族との関係を悪化させるケースがあることです。

 

今年4月25日の東洋経済の記事を紹介します。

【ある男性は過去に生活困窮して生活保護を申請した。その際、親族へ「援助ができないか?」と扶養の可否を問う通知が送られて、親族に男性の生活困窮が知れた。援助できる親族がいなかったために、男性は無事に生活保護を利用できるようになった。が、しかし、葬儀に参列するために田舎に帰ったときのことである。酒も入った兄弟の1人が子どもに向かって「勉強しないと叔父さんのようになるぞ」と言った。「それきり実家には戻ってないです。生活保護ももう受けたくはない」。そういうと、男性はうつむいた。】

以上が記事の紹介です。

 

このように家族仲が扶養照会によって破壊されたケースが多数あるといわれており、家族の助け合いを求める扶養照会が家族をバラバラにしている実態があると、指摘されています。

 

2点目の問題点は、生活保護の申請にあたり、扶養照会が大きな障壁になり、申請をためらわせる、ということです。

 

今年1月25日の共同通信の記事によると、

【生活相談会や食料配布に訪れた困窮者に支援団体が調査したところ、生活保護を利用していない人の3人に1人が、「家族に知られたくない」との理由で申請していないことが分かった】

とのことです。このことから「扶養照会」が生活保護利用を阻む障壁となっていることがうかがえます。

 

3点目の問題点は、扶養照会は、福祉事務所の負担が大きい割には、扶養に結びつくケースが稀であることです。

全国公的扶助研究会が現役福祉事務所職員を対象に今年2月に行った調査によると、現役福祉事務所職員のうち約70%が「扶養照会をするために様々な業務が生じたり、親族との関係も悪化しかねないこと等から負担」だと感じている、ことがわかりました。この点、福祉事務所の生活保護に関する担当職員、ケースワーカーの1人当たりの担当世帯というのは、国基準で1人当たり80世帯と定められていますが、現在の松戸市のケースワーカーの平均担当世帯は約90世帯ですので、ただでさえ負担が大きいなかで、扶養照会によってより負担感があるのではないかと思います。

 

このように福祉事務所が大きな負担を強いられる負担照会ですが、扶養に結びつくケースは稀であることも明らかになっています。厚生労働省の2017年の調査では、扶養照会をした約3.8万件のうち、親族からの扶養に結びついたのは約600件と2%にも満たないという実態でした。

 

以上、3つの問題点を申し上げました。

 

これらの改善にむけた当事者や支援団体をはじめとした関係者のご尽力によって、今年4月1日に厚生労働省が「照会を拒む申請者の意向を尊重するよう求める通知」を自治体に出しました。具体的には、「要保護者の意向を尊重する方向性」を明らかにし、「生活保護問答集」において、

 

・扶養調査は「扶養義務の履行が期待できる」と判断される者に対して行うこと

・要保護者が扶養照会を拒む場合には、「扶養義務履行が期待できない場合」に当たる事情がないかを特に丁寧に聞き取る運用を行うこと

 

が明記されました。この通知により「扶養照会の範囲が限定的になり、扶養照会をかける件数自体は減っていくのではないか」と評価する声が各方面から挙がっています。

 

この厚労省の通知に関して、2点の質問をします。

 

1点目として、昨年度、松戸市の新規の生活保護申請世帯は何件で、そのうち扶養照会によって実際に何かしらの援助がなされた例は何件でしょうか。また、具体的な援助の事例があったとするならば、どのような援助がなされたのか(精神的援助、金銭的援助)お示しください。

 

2点目として、松戸市福祉事務所が策定し、申請希望者に配布している「生活保護のしおり」の「保護が決まるまで」というページに、「扶養調査を行い、生活保護を受けるための要件が満たされているかを調査します。」という記載があり、「例外なく扶養調査が行われるという誤解を申請希望者に与えかねない表現」となっています。そこで、問答集にも記載されている、

・扶養調査は「扶養義務の履行が期待できる」と判断できた場合に行うこと

・要保護者が扶養照会を拒む場合には、「扶養義務履行が期待できない場合」に当たる事情がないかを特に丁寧に聞き取とること

を追記する考えはないか、見解をお答えください。

 

加えて、東京都足立区が作成している生活保護のしおりには、扶養照会に関して、

・扶養照会しない事例として、親からの虐待であったり、また、親族との不和など、様々な事情がある場合には扶養照会されないこと

・扶養義務者が扶養しないことを理由に生活保護をうけられないということではないこと

という記載があります。松戸市の生活保護のしおりにもこのような内容を追記すべきと思いますが、ご見解をお答えください。

 

◇答弁:松戸市

 

まず、令和 2 年度の生活保護新規申請数は 1,183 世帯であり、そのうち、扶養照会を実施した世帯の数は 733世帯であります。なお、 1 世帯につき複数の扶養義務者へ照会を行うため、人数ベースでは 1,859 人となります。照会の結果、援助可能と回答のあった世帯は 299 世帯495 人です。このうち、訪問や電話等による精神的援助が 293 世帯 484 人であり、金銭的援助については30世帯34人となっております。

次に、「生活保護のしおり」への追記についてですが、今回の厚生労働省からの事務連絡は扶養義務が期待できない者の判断基準を改めて示したものであり、扶養は保護の要件ではないものの、保護に優先して行われるものという原則は変わっておりません。

この事務連絡では、扶養義務の履行を期待できるか否かの判断にあたり、個別に慎重な検討を行った上で、扶養義務者に直接照会することが真に適当でない場合や扶養の可能性が期待できない場合は、扶養照会を行わないものとして差し支えないものとしております。

生活保護受給者にとって、生活保護から自立していく上では、親族の支援の有無は非常に大切な要素と考えております。

その上で、本市では扶養照会の趣旨を丁寧に説明し、その方の生活歴などを聞き取りながら、長年の音信不通により交流が断絶している場合や扶養義務者からの暴力や虐待を受けていた場合などは、照会を行わない場合もあります。

また、「生活保護のしおり」については、他市の状況なども確認しながら、見直しについて検討してまいります。

以上、ご答弁といたします

 

◇要望:関根ジロー

 

答弁では、扶養照会をした1859人のうち、親族からの金銭的な扶養に結びついたのは34人と、2%にも満たない、とのお答えがありました。職員にとって大きな負担となる扶養照会を行っても、結果的に扶養に結びつくケースは松戸市においても「稀である」ことが明らかになりました。

 

このように扶養に結びつくケースが少ないわりに、質問のなかでも述べましたが「申請者と親族との関係を悪化させる」や「扶養照会が大きな障壁になり、申請をためらわせる」といった指摘がされている扶養照会は、今回の厚労省の通知をきっかけに、扶養照会の範囲を限定的にし、扶養照会をかける件数自体を減らしていく必要があると思います。

 

この点、答弁では、「例外なく扶養調査が行われるという誤解を申請希望者に与えかねない表現」となっている既存の松戸市の「生活保護のしおり」の見直しを検討すると、お答え頂きましたので、期待したいと思います。「生活保護のしおり」に厚労省の問答集や足立区などの扶養照会に関する記述を追記することで、申請者が望まない扶養照会の防止につながり、ひいては福祉事務所の事務負担の軽減・効率化につながると思いますので、ぜひよろしくお願いします。