平成24年11月16日に行われた野田内閣総理大臣記者会見における総理冒頭発言を転載します。



【野田総理冒頭発言】

 本日、衆議院を解散いたしました。
 この解散の理由は、私が政治生命をかけた社会保障と税の一体改革を実現する際に、実現をした暁には、近いうちに国民に信を問うと申し上げました。その約束を果たすためであります。

 政治は、筋を通すときには通さなければならないと思います。そのことによって、初めて国民の政治への信頼を回復することができると判断したからであります。
 予算が国会で通っても、その財源の裏付けがなく執行できない、あるいは身を切る改革は誰もが主張していても、国会議員の定数の1割の削減もままならない。そうした決められない政治が政局を理由に続いてまいりました。その悪弊を解散することによって断ち切りたい、そういう思いもございました。

 私が判断をすることによって、懸案であった解散のための環境整備と言ってきた特例公債法案、一票の格差是正と定数削減、その道を切り開くことができたと考えております。

 さて、今回の総選挙の争点を語る前に、少し私が昨年の秋に総理に就任して以来の約440日間を振り返ってみたいと思います。
 一心不乱に国難とも言えるさまざまな課題にぶれずに、逃げずに、真正面から同志の皆さんとともに立ち向かってまいりました。ねじれ国会である中で、動かない政治を動かすために、全身全霊を傾けてまいりました。政治を前へ進めようと思いました。大変険しい山でありましたが、その道を一歩一歩進もうとしました。

 険しい山だった理由はいろいろあります。何よりも、膨大な借金の山、長引くデフレ、いずれも自民党の政権からの負の遺産です。これはとても大きいものがありました。加えて、欧州の債務危機、あるいはさまざまな災害等々の困難もありました。そういう問題を一つ一つ現実的に政策を編み出し、推進をしてきたつもりであります。
 現実感のある解決策を見出して、国民の皆様に安心をしていただけるよう、最善を尽くしてまいりました。しかし、政権交代を通じて成し遂げようとした改革も、そして私の内閣の中で大きな命題としてとり上げた「福島の再生なくして日本の再生なし」と申し上げましたが、震災からの復旧・復興、原発事故との戦い、日本経済の再生、まだ道半ばであります。

 こうしたまだ道半ばのテーマを更に前へ進めていけるのかどうか。そうではなくて、従来の古い政治に戻るのかどうか。これが問われる選挙だと思います。
 かつて郵政選挙のように、ワンポイントのイシューで選挙を戦ったこともありました。今回の総選挙の意義は、2013年以降の日本のかじ取りをどの方向感で進めていくのかということです。前へ進めるのか、政権交代の前に時計の針を戻して古い政治に戻るのか。前へ進むか、後ろに戻るか。これが問われる選挙だと思います。
 前へ進むか、後ろに戻るのか。5つの政策分野で応対をさせていただきたいと思います。

 第1は、社会保障であります。私たちは、国民の皆様が将来に不安を感じている大きな要因である社会保障を安心できる、持続可能なものにするために一体改革を成し遂げました。この一体改革は、これまた道半ばです。国民会議を通じて、医療、年金、介護あるいは子育て支援、更に社会保障に対する、将来に対する揺るぎない安心をつくるためにやり遂げなければならないと思います。
 一方で、この議論を、丁寧にやってきた議論でありますけれども、振り出しに戻そうという残念な動きもあります。
 私たちは、この社会保障を安定させ、強化をするため、充実するための、そしてその財源として消費税を充てるというこの改革をやり抜くこと。この一線は決して譲ることはできません。

 2つ目は、経済政策の軸足をどう置くかという選択であります。
 自民党は国土強靭化計画、こうした方針のもとでこれからの経済を語ってくると思います。でも、積算根拠もなく総額ありきで、従来のように公共事業をばらまく、そういう政策で日本が再生するとは思いません。私たちはグリーンエネルギー革命、ライフイノベーションの実現、農林漁業・中小企業を伸ばす。コンクリートへの投資ではなく、人への投資を重視して、民の力を育む。そして、雇用をつくり出していく。働くことを軸として、安心できる社会をつくっていく。さらに、狭い国内にとどまらず世界とともに成長をする、世界の需要をとり込む。そのために、国益を守るということを大前提として、守るべきものは守り抜きながら、TPP、日中韓FTA、あるいはRCEP、こうした経済連携を同時に追求し、推進をしていきたいと考えています。こうした経済政策の軸足をどう置くかも問われる選挙になると思います。

 3つ目は、エネルギー政策のあり方であります。
 昨年の原発事故を受けまして、私たちは2030年代に原発をゼロにする、原発に依存しない社会をつくる、そのための政策資源を総動員をすること、この方向性を決めて、この方針のもとで着実にさまざまな施策を推進していきたいと考えています。一方で、自由民主党はどうか。大きな方向性は10年間かけて決めると言っています。10年も立ち止まっているならば、旧来のエネルギー政策を惰性で行う、それしかないではありませんか。
 3番目の争点は、脱原発依存。原発に依存しない社会をつくる、原発をゼロにしていく、その方向感を持つ政党が勝つのか、そうではない、従来のエネルギー政策を進める政党が勝つのか、それが問われる選挙でもあると思います。

 4つ目は、外交・安全保障であります。
 私たちは大局観を持って、冷静に現実的な外交・安全保障政策を推進をしてまいりました。その姿勢を堅持していきたいと思います。一方で、強いことを言えばいい、強い言葉で外交・安全保障を語る、そういう風潮が残念ながら私は強まってきたように思えてなりません。極論の先には真の解決策はありません。健全なナショナリズムは必要です。でも、極端に走れば、それは排外主義につながります。そうした空気に影響される外交・安全保障政策では日本が危ういと私は思います。
 大局観を持って、冷静に現実的な外交・安全保障政策を推進をする、その覚悟を持って、異なる意見のある国があるならば、胆力と度量で相手の首脳と対峙していかなければなりません。強い外交と言葉だけ踊っても何の意味もありません。タフな相手とわたり合って、首脳外交を担っていけるのは一体誰なのか、それも問われる選挙だと思います。

 さらに5つ目、これは政治改革です。
 今回、一票の格差の是正、違憲状態、違法状態と言われて、なかなか正すことができなかった。定数削減は、3年前に多くの政党が公約をした。でも、実現できなかった。その行き詰まりを打開をするために、おととい、私は党首討論で私の提案をさせていただきました。後ろを決めて結論を得る、それがあって、今回、一票の格差是正と、そして、定数削減に道筋をつけること、定数削減ができるまでの間は議員歳費を2割カットすること、こういう結論を得ることができました。民主党が主導した結果だと思います。どの政党が定数削減に後ろ向きだったのか、どの政党が一番懸命になし遂げようと努力したかは、国民の皆様は御理解いただけるものと思います。
 これからも間違いなく定数削減を実現をするために、そして、脱世襲政治を推進するために、私たちは政治改革の先頭に立っていく決意です。世襲政治家が跳梁跋扈する古い政治に戻す、そんなことはあってはならないと考えております。

 ただいま、5つの政策分野における方向感、前へ進むのか、後ろに戻るのか、そうしたお話をさせていただきました。こうした議論を大いにこの1か月間やって、国民の皆様の正当なる審判を得たいと思っています。


 私たち民主党から公認をされる候補者は、次の選挙よりも次の世代を考えた、そうした候補者がそろうことになると思います。誰がこの国を憂い、真剣にこの国の将来を思い、胆力と覚悟を持って切り開こうとしているか。どういう政治家がそういう思いを持っているのか、どの政党がそういう思いを一番強く持っているのか、ぜひ国民の皆様に御判断を賜りたいと思います。

 私たちは、前へ進むか、後ろに戻るかという政治選択の中で、国民のために、明日の安心をつくるために、明日の責任を果たすために、前へ政治を進めるために、全力で戦い抜き、これからの4年間、この国のかじ取りを民主党が担えるように全力を尽くしていく決意であるということを申し上げさせていただきたいと思います。

 なお、この解散をした後に、政治空白はつくってはなりません。震災からの復旧・復興は引き続き万全を期してまいります。切れ目のない経済対策もしっかり講じてまいります。外交・安全保障政策、危機管理も万全を期してまいりますことを改めて国民の皆様にお訴えをさせていただき、ぜひこの点については御安心をいただきたいと思います。
 私からは以上でございます。