いくら演じた経験があるからといって、
歌舞伎について発信することは、分不相応なことだとはわかっています。
が、そば屋のカレー日記を始めるにあたって、この場をきっかけに
歌舞伎やらバレエやらがポップな文化になれればと公言したので、
恐れながら書かせていただきます。
歌舞伎座さよなら公演 六月大歌舞伎(昼の部)を観劇しました。
今月の目玉は片岡仁左衛門さんが一世一代で勤める「『女殺油地獄』」
今まで文楽では観たことがあったものの、歌舞伎では初めて。
あの壮絶な油まみれでの阿鼻驚嘆シーンを人間がどうやって演じるのか、
楽しみにしておりました。ふふ。
あらすじを簡単に説明すると、どうしようもない放蕩息子が、
世話になった近所の人妻を殺してしまうという単純?なお話
(だいぶざっくりなので、詳細はぐぐってください)
普通、どんなに救いようのない人でもどこかしら、
共感できる部分だったり、感情移入出来る要素があったりするものです。
ところがどっこい、この主人公・与兵衛はニートだしDVだし、
借金苦で人殺しというどうしようもないキャラ。
彼から学ぶものは何もないな。誰しもがそう思うでしょう。
そこではたと思い出したのが、そもそも歌舞伎は必ずしも「勧善懲悪」ばかりではないし、主人公が正義のヒーローばかりではないということ。
とかく「敷居の高い伝統芸能」に思われがちですが、全くそんなことはありません。
江戸時代はその場を楽しむ庶民の娯楽だったし、むしろ反教育的な話も多いという(笑)
ただそれが400年以上の歳月を経ても尚、一般ピーポーに愛され続けるのは、
歌舞伎が美しくて、アバンギャルドで、奥が深いからなのだと私は思います。
故に、その魔力から抜け出せずに毎月の習慣のように観続けている者がここにおります。
この作品も、近松が民衆に「恩のある人を簡単に殺しちゃいけないよ」という
メッセージを伝えたかったのではもちろんないでしょう。(ですよね、近松っち)
もちろん、作品の端々に親子愛とか隣人愛みたいなものに
結び付けられる部分があったり、深いこともいえるけど、
私がいいたいこと、それは、、、仁左衛門丈、
あなたには殺されても良いわ~
(椎名林檎嬢の「シドと白昼夢風に」)
※この話題、次回へ持ち越し
御年65歳ながら、23、4歳の突っ張り青年を何の違和感もなく演じきってしまう。
時代も通説も超えたワンダーランドにいざなってくれるのは、
やはり役者の力だと、実感しました。
「私の中では、ある程度の若さが必要なお役だと思っています。」
そんなお考えから、さよなら公演ということもあり今回だけ
特別に勤められた仁左衛門さん。
彼の演技を生で観られる、同時代に生まれて来れたことを幸せに思います。