差出人 深瀬慧
宛先 藤崎彩織
(件名なし)2:04

「逃げても良いけど、それが現実だから」

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朝起きてみると、こんなメールが入っていた。

確か昨晩は、スタッフさんたちが家に来てくれて、一緒にお酒を飲んでいた。

キラーゲーム という、会話をしながら出来る遊びを教えて貰って、

「ちょっとやってみよう」と言ってキラーゲームをしていた。

テキーラのショットグラスがどんどん空になっていくゲーム展開だった。

少し飲み過ぎたな、
そろそろ眠ろうかな。

そう思って眠ったつもりだった。

しかし、起きてみると深瀬から穏やかでないメールが入っている。

何が起きたのか。

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差出人 藤崎彩織
宛先 深瀬慧
Re: 14:14

「あの、これ、何だっけ…??」

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私は飲んだ勢いで記憶をなくしたりしないので、恐ろしくなった。

メールによると、
私は現実から逃げようとしているらしい。

そんなシビアな話を私は忘れてしまったのだろうか。

仕方が無い、正直に聞いてみるしかない。


暫くして返信があった。

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差出人 深瀬慧
宛先 藤崎彩織
Re:Re:14:57

「おれ、全く記憶にございません」

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え?君もないの?

私の現実逃避に対して、
リーダーからのお怒りのメールじゃないの?

でもじゃあ一体なんだったんだろう。

私も返信した。

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差出人 藤崎彩織
宛先 深瀬慧
Re:Re:Re: 15:00

「私も心当たりがございません」
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しかしここまでを考察すると、
これは、深瀬が酔っぱらって送ってきたに違いない、と確信する。

彼は幾ら酔っていても仕事の話は忘れないけれど、
仕事以外の話はほとんどと言ってもいいくらいに忘れてしまう。

明日には忘却の彼方にいってしまう彼の時間の中で、
星屑を遥かにしのぐ罵詈雑言を浴びせられ、

私は何度「いつかお前をぶっとばす!!!」と考えたか数えきれない。

しかし今回は、事なきを得て良かったかもしれない。

現実逃避をリーダーから怒られて、
それを「忘れた」じゃタイヘンな話だ。


ほどなくして、返信が来た。
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差出人 深瀬慧
宛先 藤崎彩織
Re:Re:Re:Re:

「歌詞……かな??目

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ふざけた顔文字がついていた。

「いつかお前をぶっとばす!!!」という想いは、
私の心の中で未だ静かに燃えています。