大荷物を乗せたバスは
夜明けと共に、石巻市へと到着した。

しとしとと冷たい雨が降る。
私たちは事前に練習しておいたテントを、素早く組み立てた。

HELLO ENDING
(テントを持っていない人も泊まれるようにと、持っていた2つのテントを持参した)

私たちの指揮を取ってくれたのは apbank Fund for Japan のみなさまである。

私たちを含む100名以上の人たちが続々と集まる中
指揮官がメガホン片手に
今被災地が必要としていることは…と話し始めた。

「被災地では需要が毎日変わっていきます。
ライフラインをつないでいく緊急支援は、自衛隊の方々が主にされてきました。」

ウンウン。テレビでたくさん見ましたと、みんなでうなずく。

「しかし震災から一ヶ月が経とうとしている今、必要なものは【人手】です。
津波の被害が大きい今回の震災では、ここ石巻市も街が【泥】に覆われています。
みなさんにはその泥をかき出して欲しい。これにはたくさんの【人手】が必要です。」


力持ちのラブや、体力自慢のなかじん、
最近ジムでムキムキと鍛えている深瀬と比べて
女性の力では役に立つだろうか、いやいや 負けないぜ と
心を奮い立たせていた私。

しかし到着してすぐに、【人手が必要だ】というコトバの意味を実感した。



—復興への第一歩として、街から泥をかき出して欲しい。—




それはとてもシンプルな願いだった。

誰にでも 出来ること。

私たちはレインコートと長靴、ゴム手袋を装備して街へと向かった。

HELLO ENDING
泥に覆われた駐車場。
「うおー!!やるぜー!!」なかじんが雄叫びをあげて作業に入った。


HELLO ENDING
スコップを使って、泥を土のう袋に詰めていく。

(土のう袋とは、布袋の中に水気のある土砂なども詰められる袋のこと)
ラブは恐ろしく重い、幾つもの土のう袋を運んでいた。


HELLO ENDING
一つの場所を10人~50人体制で片付けていく。
私は袋から泥が漏れない様に、しっかりと縛る技を身につけた。


HELLO ENDING
スコップ係、袋を持つ係、袋を結ぶ係、運ぶ係と
自然と役割分担をして活動する。中には61歳だという女性もいた。


HELLO ENDING
30人体制で2時間かかって片付けた小さな駐車場の泥。
深瀬はスタッフと2人で1つ20kgの袋を「おりゃー!!」と積み上げ続けた。
全部で2t以上。これが何千家屋と続いているのだから、人手は本当に足りていない。


HELLO ENDING
3月11日の地震発生直後から動いていない時計。
何も言わずにみんなで見上げた。


HELLO ENDING
着物屋さんだった家屋。
店主さんは泳げない母とダウンが水を吸って動けない父を両脇に抱えたまま、
泳いで2階に逃げたのだと教えてくれた。


HELLO ENDING
地下に溜まった30cmほどの泥水をバケツでくみ上げる作業。
男性陣はひたすらバケツリレーで運搬し、
私はそれを「ねこ」と呼ばれる一輪車に乗せて外まで運んだ。

しかし私がねこを使って
真っ黒な水をたぷたぷと揺らしながら運搬していると、

「何かいる!!」という声が地下から聞こえた。

「えっ…何がいるの?」

地下はヘッドライトをつけないと何も見えない程真っ暗だ。

その上3週間放置された地下室には ヘドロの匂いが充満しているので、
「ナニカイル」の ナニカ は相当な強者であることは間違いない。




「ナニカ」の正体は、小さなハゼだった。
地下にいた深瀬は、泥水から4匹のハゼを救い出した。

「これが本当のハゼすくい」

生きている、という事実にテンションがあがって
上手いことを言う深瀬。

店主のおじいさんも
「えらいこっちゃ!!天ぷらにしちゃうぞ!!」と
嬉しそうにハゼを覗き込んでいた。

ハゼは無事、元にいた川へと帰された。

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テントで眠る夜。
真っ暗なキャンプエリアでは、息だけが真っ白だった。

気温0度。
シャキっと凍ったおにぎりを、カップラーメンに入れて朝ご飯を食べた。