急停車します おつかまり下さい


HELLO ENDING-densha




ゆっくりと間の抜けたアナウンスが車内に鳴り響く

私はその日田園都市線の急行に乗ったから
溝の口駅から二子玉川駅までひとっとびのはずだった

それが各駅停車駅の高津で停車しようと
減速を始めている


急停車します--

無感情の音声はもう一度丁寧に話していたが
誰も気に止めていなかった


突然、騙されたかと思う程車体は急激に止まり
3両目に居た私の視界はぐらっと右側に弧をえがく


一瞬の、本当に一瞬息を飲むだけの時間があって
それから車内には勢いよく「騒然」が走った


「えっ、何で止まったの?」

「何、人身事故?」


大賑わいなのは3両目だけじゃないな、と思った

「騒然」は空気の中に人や物を閉じ込める
閉じ込められた世界の住人は、共犯めいた一体感の中で仲間となる
共に知りたがり、見たがり、好奇心を共感する


すぐにぷつっというマイクを入れる音が車内に聞こえて
騒然に閉じ込められた住人達は、いっせいに耳を傾ける



--はぁ、、ただいま、人身事故が、、発生致しました、、
お客さまの、、救助を行っております、、--









何度も同じ内容を繰り返すアナウンスに引き続いて
15分程経った頃、車内の蛍光灯と暖房が消えた
20分後には最後尾車輌のドアを手動で開けるから
帰りたい人は歩いて下さいという内容のアナウンスが入った

30分後に「復旧は2時間後!」といいながら
冷たくなった車内を走る駅員さんが来た

数人の住民が、牙を剥いた


「おめー、誰を乗せてると思ってんだ。」

「こっちは急いでるんだ」

「対応が適当すぎるじゃないか。説明をしろ」

「こんな寒い中にいたら死んじまうよ」


駅員さんはとにかく謝っていた









電車を降りて高津から乗り換えの出来る駅まで行けるバスに乗った
その駅でも私が乗っていた電車が起こした人身事故で
人が溢れていた


私は閉じ込められた世界の住人を代表して
一生瞼の裏で蘇る記憶として

永遠にしようと 思う