高校生の時、眠れない日が続いていた。

「眠れないと思うからダメなんだ、何かしてはどうだろうか」


一念発起して私がしたのは、模様替え。
草木も眠る丑三つ時に、である。
但し、私の場合は普通の模様替えではない。
私の部屋には部屋の3分1を占めているであろう、黒く巨大な物体があるのだ。





お分かりだろうか。







そう、グランドピアノである。





時計の秒針だけが動く世界、深夜三時を回った頃
汗だくになりながらグランドピアノを押す私。
下に丸いボールがついているので、実は女の力でも動くのである。
ごろごろ。ごろごろ。正気の沙汰とは思えない。


しかし学校が始まるまでかかってやっと動かした配置は
「THE 無理矢理」であった。

当たり前である。
どんな配置で置いても部屋のスペースが上手く使えるような小さな楽器ではないのだ。

追い討ちをかけるように
家族は私の孤独な奇行に対して「メリットが分からない」と素朴な疑問を打ち立てた。

なんだい、なんだい、
もう二度とするものかと思いながら、次なる不眠WORLDの中で
私は泣きながらグランドピアノを押した。元の位置に戻すために。
ごろごろ。ごろごろ。いったい何をやっているんだろう。

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ああもう四時だ、眠い、と思ったらそんな事を思い出していた。
九年も昔、私と団長が初めて合致した話題は「不眠」だったかもしれない。
眠れない人々は、「眠れない」という世界を持つのだ。

私は団長の不眠WORLDが好きだった。
彼は眠れない深夜、自転車で色んな所へ連れて行ってくれた。

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「白昼の夢」作詞作曲 深瀬慧

夕陽が僕を起こして深い海に沈んでいく
僕の好きな夜がきて暗い部屋で一人きり
花束持って出掛けても世界はいつも静かで
椅子に座り星を見ると1人で家に帰るんだ

朝 夜の繰り返し
寂しくで空を見上げてみる
朝 夜の繰り返し
朝に眠る夜と夢をみる

僕の中にいる悪魔 今夜は僕と遊ぼうよ
僕の中にいる天使 今夜は僕と遊ぼうよ
僕が「今」を起こして「過去」を眠りにつかせる
「未来」は部屋に来ないから僕が迎えに行かなくちゃ

*朝 夜の繰り返し
寂しくで空を見上げてみる
朝 夜の繰り返し
夜に眠る僕の夢を見る



もうすぐ僕の部屋に太陽が来る
もうすぐ僕の部屋に太陽が来る

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おやすみ。私の部屋にも、もう太陽が来るみたい。