先日、インターネットを見ていたら、府立高校に関連する記事を見つけた。
それは、府立高の学生を対象とした、短期留学の補助に関する内容であった。
以下、関連する内容を一部引用する(<すべての大阪府立高で「短期留学」制度を導入へ…私学人気に対抗、府が1人10万円補助>読売新聞、2025年1月10日配信)。
<大阪府は、高校生の英語力を高めるため、全府立高校に海外の高校と姉妹校提携させ、1校当たり20人程度を現地に短期留学させる方針を固めた。府教育委員会関係者への取材でわかった。2025年度から3年かけて導入予定で、留学費用の一部を補助し、25年度予算案に関連費用を盛り込む方向で最終調整している。都道府県による全公立高校を対象にした留学制度は異例>
なお、提携先について、日本から時差が少ない、オーストラリアやフィリピン等を考慮しているという。
この制度について、筆者は微妙な気持ちでいる。
今まで何度も記事に書いてきたように、外国語を学ぶことや異文化体験をすることについては、筆者は賛成である。筆者自身、オーストラリアとイギリスに留学したが、本当にたくさんのことを学ぶことができた。
しかし、記事の内容を読み進めていくと、疑問に思える箇所がいくつかあった。今回の記事では、そうした疑問の一部について書いていく。
まず、制度の細かい部分について、気になった点を一つ挙げる。それは、援助の金額である。
記事によると、援助の金額は、1人あたり10万円になるらしい。残りは、自己負担になるという。
滞在国にもよるが、この金額について、少なすぎではないだろうか。
例えば航空券の予約サイトを使って、3月(日にちは適当に入力)にシドニーへ往復するチケット(滞在は10日間)を検索してみたところ、最安値で直行便が14万円程度、経由便が約9万円だった。
つまり、10万円では、直行便の場合、航空券の値段にもならない可能性がある。経由便でもギリギリだが、日程によっては、不足するかもしれない。
他にも、費用はいろいろとかかる。例えば生活費について、フィリピンの物価については知らないが、オーストラリアでは他の先進国と同様に物価の上昇傾向があるという。滞在国によっては、生活費も大きな負担になることが予想される。
すると、金銭的に余裕のない家庭の子供は、この制度を使っても留学に行くことは難しい可能性がある。一方で、補助がなくても留学をサポートできる、経済的に余裕のある家庭がこの制度による援助を受けるということになる可能性があると思う。
これは、格差の助長や、公平性の問題に繋がる可能性があるのではないか。
そして、最大の問題は、留学の期間である。
記事によると、留学は10日間程度を想定しているという。
留学の経験者として、はっきり言いたい。この程度の期間では、英語力は変わらない。また、10日間では、現地の人々と本当の意味で仲良くなることも難しいだろう。
自分自身の経験や、過去に出会った他の留学生のことを考えても、英語力の明らかな変化を実感できるようになるには、少なくとも数か月の期間が必要であると思う。10日間では、あまりにも短い。
そして英語力と同様に、異文化体験もあまり期待できないだろう。
観光施設等を訪れても、異文化の理解は難しい。本当の異文化体験は、現地の人々との交流を通じて得られる。しかし、10日間という期間は短く、十分なコミュニケーションを取ることは難しいと思う。
個人的な意見として、新しい制度をある程度機能させたいのであれば、10日間ではなく、最低でも1ヶ月(これでも不十分だと思うが、もし春や夏の休暇期間を利用するのであれば、このくらいが限界だと思われる)は現地にいることが必要になると思う。
もし、期間を伸ばすことで、援助の金額が上がり、財源の不足が生じるのであれば、制度の対象となる生徒の数を減らしてもよいと思う。その代わり、十分な金額の援助をして、家庭の経済的な状況にかかわらず、本当に行きたい人が留学に行けるようにすべきだと思う。
このように、制度の趣旨には頷ける部分もあるが、詳細については疑問に思うことがいくつかある。
大阪府は、例えば大阪に住む、留学の経験者(特に長期留学)に協力してもらい、制度の見直しを行うとよいかもしれない。せっかく予算を費やすのであれば、もっと有効性が期待できる制度になってほしいと思う。
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