今回の記事は、痛みと痒み(かゆみ)について書く。
痛みと痒みは、どちらも不快な感覚であり、似ている部分とそうではない部分がある。
例えば似ている部分について、痛みは神経系の感作(sensitization)によって「敏感」な状態になりうるが、痒みにも神経系の感作が起こりうることが示されている(Schmelz, et al. Itch. In: McMahon SB, Koltzenburg M, Tracey I, Turk DC, editors. Wall and Melzack’s textbook of pain: expert consult-online and print, Philadelphia: Saunders; 2013)。
こうした類似点の中で、一つのポイントについて書く。
痛みと痒みは、どちらも単なる感覚ではなく、自分自身に行動を促すという点で共通している。
まず、痒みについて、それを感じている人に特定の行動を促す。皮膚に異物などがあると痒みを感じるが、その部分をかくことにより、そうしたものを取り除くことに繋がる。
このように、痒みは単なる感覚ではなく、ある種の生体防御反応であり、痒みを感じている人に自分自身を守るための行動を促している。
そして、痛みも同様であり、それを感じる人に特定の行動(やはり、自分自身を守るための行動)を促す。
分かりやすい例として、捻挫や骨折に伴う痛みを挙げたい。
上記のような怪我に伴い、痛みやストレスが生じる。そして、その時に、他にも様々な反応が同時に発生する。
例えば、強い痛みを感じたり、腫れ上がった部分を見たりすると、恐怖や不安が生じる。これらの心理的な状態が発生すると、異常が生じた部位を保護するようになる。痛みがある部位をあまり動かさないようにすることに加えて、全身的な活動量も低下させる。そうすることで、怪我の更なる悪化を防ぎ、回復を促す。
このように、痒みも痛みも、特定の行動を引き起こすという点で共通している。
そして、このことを理解することが、効果的な治療を行うために役に立つ。
例えば、何らかの理由で、痛みが長引いている状況を想定する。このような状況では、痛みが引き起こす行動の変化も付随して長引くことになる。
短期的には回復のために役立つ行動の変化だが、それが長期間続けば、心身に悪影響を及ぼす。例えば活動量の低下が過度に長引けば、体力はどんどん低下していき、行動範囲の狭小化に伴ってストレスも増える。
このような状況では、痛みの軽減に加えて、行動の変化に対してもアプローチする必要がある。
そして、行動の変化を促すためには、人間の心理について詳しくなる必要がある。加えて、睡眠の改善なども行い、全体的にコンディションを改善していく必要がある。
痛みの治療を考える際に、痛みは単なる感覚ではなく、行動の変化を含めた様々な反応も同時に発生するということを覚えておく必要がある。そして、このことを意識すれば、身体的な要素だけではなく、他の様々な要素についても学ぶ必要があるということが理解できる。
医療従事者は、身体的な要素に特化した古い概念(生物医学モデル)ではなく、様々な要素を対象とする現代的な概念(生物心理社会モデル)に基づいて痛みを捉えることで、より効果的な治療を行うことができるようになる。このことを、多くの医療従事者に知ってほしい。
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