痛みに関して、世の中には、様々な情報源がある。
医療に関する情報について、注意すべきこととして、たとえ専門職であっても、偏ることがよくある。
例えば、Aという治療法があるとする。そして、この治療法に夢中になり、関連する文献ばかり読んでいる状況を想定してほしい。
このような状況では、Aの欠点を知る機会は、かなり限られてしまうだろう。Aを実践している治療者や研究者による、いわば「身内」による論文では、Aの利点ばかりが強調されることが多い。こういう文献ばかり読んでいると、偏った知識が増え、思い込みが強くなり、冷静な判断を下すことが難しくなる。
このことは、医療に限らない。インターネットが発達した現代では、情報を調べることは昔よりも容易になっているが、自分が興味を持っている情報ばかりアクセスするようになるので、知識が偏りやすい。
こうした偏りを減らして、物事をバランスよく判断できるようにするためには、多様な視点から見ることが大切だと思う。医療でいえば、様々な専門職からの視点は、とても参考になる。
筆者は、海外の様々な国々で医療関連の研鑽を積んできた。そして、その度に、医療に関する「枠」を広げることができた。
例えば、オーストラリアで開催されたマニュアルセラピーの4週間のコースでは、日本という枠を超えた勉強をすることができた。しかし、この段階では、マニュアルセラピー、そして理学療法という枠の中での勉強だった。
その後、イギリスの大学院で、医師を含めて様々な専門職が集まったpain managementのコースで学ぶことにより、理学療法の枠を超えて、痛みについて学ぶことができた。
この経験は、本当に貴重だった。例えば、理学療法の一部の分野では当たり前のように思われていたことが、医師を含めた他の専門職からはどのように評価されるのか。質の高いエビデンスという観点から考えた時の、痛みに関する知識や技術の見直しなど、理学療法の枠内にとどまっていては分からなかったことがたくさんあった。
痛みについて、筆者が参考にすることが多い情報の一つとして、医師(麻酔科医や精神科医など、様々な領域の医師たちを含む)や看護師、理学療法士など、多様な職種が共同で作成した文献(ガイドライン等)が挙げられる。上記の経験から、こうした情報がとても参考になることを理解している。
資格の点から考えると、筆者は理学療法士という位置付けになるが、今では理学療法の視点にこだわっていない。医師を含めて、全ての職種で共有できる、質の高いエビデンスに支えられた知識にこだわっている。
痛みに限らないが、医療に関して、多様な専門職の視点から考えることは重要だと思う。そうすることで、「独りよがり」な状態になってしまうことを避けることができる。
また、各専門職の垣根を越えて議論をする時に「共通言語」となり得るのが、質の高いエビデンスである。医療従事者は、批判的吟味を含めた、根拠に基づく医学(EBM)と関連する知識を学ぶことで、他職種と実のある議論をすることが可能になる。
医療従事者は、エビデンスと関連する知識を学び、様々な職種と議論することで、自身の専門の枠を超えて、知識や技術を高めていくことができると思う。このことを促すために、筆者も貢献していきたいと思っている。
(ブログの記事に興味をお持ちの方は、宜しければ、こちらのウエブサイトもご覧ください。記事の執筆者が運営しています。https://www.tclassroom.jp)