あれは、いつの頃だったろう。もしかしたら、イギリスにいた時だったかもしれない。

 

はっきりとは覚えていないが、インターネットのニュース(日本のウエブサイト)で、線維筋痛症か、あるいは他の痛みと関連する状態で、痛みがある人に認知機能の低下が見られるということが書かれていたと思う。

 

そのことについて、日本の専門家も不思議に思っているという内容だったと思うが、そのニュースを見た時、「この人たちは、fibrofogを知らないのかな」と思った。

 

fibrofogとは、線維筋痛症(fibromyalgia)と関連する認知機能の機能不全であり、専門誌の論文だけでなく、医療従事者以外の方々に向けたウエブサイト(英語)でも使われている用語である。

 

線維筋痛症に限らず、痛みは認知機能に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。

 

痛みがあると、そこに注意が向く。痛み(急性痛)は自分の身を守るための反応の一つであり、体のどこかに怪我などの異常が発生した場合、痛みが発生することでその部位に注意を惹きつけて、そこを保護する行動を促すという役割がある。

 

短期間であれば、このような特徴は回復のために役に立つ。

 

しかし、痛みがある状態が長期間続くと、認知機能に悪影響が現れる可能性がある。人間が一度に注意を向けることができる対象の範囲には限りがあり、痛みがあるとそちらに多くの注意が向いてしまうので、他の対象に向けることができる注意の量が減る。そうすると、勉強や仕事に集中しにくい、ぼうっとしてしまうといった状態が発生する可能性がある。

 

そして、痛みによる認知機能への悪影響について、認知症との関連についても示唆されている。

 

例えば、痛みと認知機能の関係について、高齢者を対象とした縦断研究により、長期化している痛み(中等度以上の痛みを頻繁に感じる状況)が認知機能の低下の加速化や認知症を示唆する確率の増加と関連していたことが示されている(Whitlock EL, et al. Association between persistent pain and memory decline and dementia in a longitudinal cohort of elders. JAMA Intern Med 2017; 177(8): 1146-1153)。

 

痛みと認知機能の低下との関係については、今後更なる研究が求められるが、このような関係について、多くの医療従事者に知ってほしいと思う。

 

例えば、高齢者のケアに関わっている人々は、痛みと認知機能の低下の関係について、知っておくべきだと思う。痛みを改善することは生活の質の改善等に繋がるだけでなく、認知機能にも良い影響を及ぼす可能性がある。痛みのマネジメントの重要性がもっと広まってほしいと思う。

 

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