以前、British Journal of Sports Medicineの論文(Lewis J, O’Sullivan P. Is it time to reframe how we care for people with non-traumatic musculoskeletal pain? Br J Sports Med 2018; 52 (24): 1543-1544)を読んで、感慨深い気持ちになったことがあります。

 

その論文は、筋骨格系の痛みの治療について、医療従事者の意識の変化を促す内容です。

 

論文の概要として、慢性痛(長期化している痛み)では、他の慢性的なコンディション(例えば糖尿病)と同様に、患者教育や運動、睡眠の問題の改善、ストレスの管理などの多様なアプローチを行うことを勧めています(その一方で、受け身の治療、例えば徒手療法は、行うのであれば、補助的なものとして考えるべきだとしています)。そして、患者が自身の健康をコントロールしているという気持ちを持てるようになり、自己管理を重視することの大切さについて書かれています。

 

著者の一人は、Peter O’Sullivan氏。オーストラリア出身で、臨床と研究の双方に理解が深い、国際的に有名な理学療法士の一人です。

 

O’Sullivan氏について、実際に教えを受けたことがあります。私が過去に参加した、西オーストラリアのパースで開催された4週間のマニュアルセラピーのコースで、教えていた先生たちの一人でした(個人的な思いから、以降の文章では「先生」と書きます)。

 

日本に帰国後も、O’Sullivan先生のことは気になっていました。なぜかというと、痛みに関する、先生の関心が、時間の経過と共に変化していることが、論文等から伺えたからです。

 

例えば、先生は、多裂筋へのアプローチの効果に関する研究を過去にしました。これは、ローカルマッスル(インナーマッスル)に関する研究です。すなわち、筋に注目する考え方です。

 

そして、時が経ち、私が参加したマニュアルセラピーのコースで教わったのは、腰痛に関して、運動パターンの変化に着目する考え方でした。

 

その後、上記の論文では、痛みを専門とする分野(pain management)で重視されている、多様な要素を考慮した内容について書いています。近年のインタビューでは、痛みへの考え方や恐怖等の心理的な要素への配慮を含めたアプローチの考え方について語っていました。

 

このように、数十年間の活動の中で、先生が注目している内容は変化しているように見えます。恐らくは、自身や他者の研究等から得られた様々な知識を参考にして、ご自身の考えを柔軟に変えているのだと思います。

 

これは、驚くべきことです。

 

人は、努力して何かを得ると、多くの場合、そこから変わろうとはしません。自分自身を更新していくのは、大変な苦労を伴います。時には、過去の自分自身を否定する必要さえ出てきます。そんな面倒なことをするよりも、変わらない方が楽だと考える人は多いと思います。

 

しかし、先生は変化を続けているように見えます。これは、見習うべき姿勢だと思います。

 

日本人で、変化を厭わなかった人について、福沢諭吉(歴史上の人物は、敬称略します)を思い出します。

 

福沢は、大阪の適塾で、常人には真似のできないような努力の後、オランダ語を習得しました。しかし、英語が世界の趨勢であることを知ると、あれだけ苦労して習得したオランダ語から離れて、英語の猛勉強を始めました。そして、英語を習得した後、幕府の船に乗って海外を見て回り、日本の発展に大きな影響を及ぼしました。

 

変化を恐れない人物は、尊敬に値します。私も、変化を恐れないようにしていきたいと考えています。常に自分自身を更新していくために、今後も努力を重ねていきたいです。

 

(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp