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今回の記事は、ストレスによる、筋肉(以下、筋)への影響について書きます。

 

痛みがあると、様々な理由で、筋が萎縮や機能不全を起こすことがあります。

 

しかし、筋によって、その影響は異なります。そういう変化が発生しやすい筋や、そうではない筋があります。

 

例えば、腰痛が分かりやすい例ですが、強い力を発揮するのに役立つ、多関節筋などの「大きな」筋は比較的影響を受けにくいと考えられています。

 

その一方で、関節の周囲や体の奥の方にある、関節の安定性等に関係する筋(例えば、多裂筋。この記事では、「小さな」筋と書く)には、萎縮や機能の低下が起こりやすいことが知られています。

 

例えば、腰背部の筋群について、慢性腰痛がある人々のグループと、年齢などの要素を適合させた健康的な対照群を比較すると、脊柱起立筋(「大きな」筋)の筋量は両方のグループで差がなかったのですが、多裂筋の筋量については慢性腰痛がある人々のグループの方が少なかったことを示した研究があります(Beneck GJ et al. Multifidus atrophy is localized and bilateral in active persons with chronic unilateral low back pain. Arch Phys Med Rehabil 2012; 93: 300-306)。

 

どうして、このような違いが生じるのでしょうか。

 

ストレス(痛みも、ストレスの原因の一つ)があると、ストレスを引き起こしている状況に対応するために、様々な反応が起こります。その中の一つが、筋に関する反応です。

 

ストレスがある状況、分かりやすく言うと自分が危険な状況にあると感じられる場合、その状況を切り抜ける(例えば、戦ったり、逃げたりする:fight or flight)ために、力を発揮しやすい「大きな」筋が優先的に使われるようになります。

 

その一方で、関節の安定性に役立つような「小さな」筋は、緊急時にはあまり重要ではないので、後回しにされます。

 

このこと自体は、危機に対応するための、合理的なシステムです。短期的には、危機から逃れるために役に立ちます。

 

しかし、ストレスを感じる状況が長く続くと、上記のような筋の変化も長く続いてしまうので、「小さな」筋の萎縮や機能低下が目立つようになってきます。

 

更には、ストレスが続くと、筋の分解などを引き起こすコルチゾールの分泌にも影響が及び、回復が遅れる可能性があります。

 

筋の萎縮について、例えば頚部や腰部のリハビリテーションでは、「小さな」筋を対象としたアプローチがあります。

 

筋の萎縮や機能低下があるから、そうした筋を鍛える。そのような考えも悪くはないのですが、それは対症療法(痛みがあるから痛み止めを飲む)と同じような考え方であり、それだけでは不十分だと思います。

 

萎縮した筋を鍛えることに加えて、萎縮に影響を及ぼしている可能性がある要因(例えば、ストレスを含めた心理面)にもアプローチを行う方が、より効果的だと思います。

 

具体例として、患者教育の効果(ここでは、単に情報の伝達を目的とした患者教育ではなく、心理面に好ましい影響を及ぼす手段としての患者教育のことを指す)について、以下のような研究があります。

 

例えば、慢性腰痛がある人がお腹の運動(abdominal drawing)を行うと、脳の様々な部位(痛みと関連する部位も含む)が反応したのですが、患者教育を行った後には、そうした脳の反応が大きく改善したことがfunctional MRIを用いた研究で示されています(Moseley GL. Widespread brain activity during an abdominal task markedly reduced after pain physiology education: fMRI evaluation of a single patient with chronic low back pain. Australian Journal of Physiotherapy 2004; 51: 49-52)。

 

患者さんの心理面にポジティブな影響を及ぼす教育が、痛み関連の問題に有効であることを示した研究は、無作為化比較試験を含めて、たくさんあります。患者さんの心理的な要素にもアプローチを行うことで、痛み関連の問題に良い影響を及ぼす可能性があります。

 

痛みに苦しむ患者さんを治療する医療従事者は、身体的な要素だけでなく、他の要素にも目を向けるべきだと思います。そうすることで、効果的な治療を行うことができるようになると思います。

 

(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp