認知症と痛みについて、評価(アセスメント)を中心に、過去に記事を書いた。

 

https://ameblo.jp/sekainokesiki/entry-12809065544.html

 

今回は、認知症を有する人々の痛みへのアプローチ(非薬物療法)について、少し書くことにする。

 

認知症を有する人々にとって、痛みは大きな問題の一つである。

 

例えば、認知症を有する人々の痛みの割合について調べた様々な研究があるが、それらを参考にすると、約50%の患者が普段から痛みを感じているという。更に、24時間の介護が必要ではない人よりも、介護施設でのケアを必要とする人の方に、痛みがある割合が多いとされる(<認知症と痛み:疼痛の評価とマネジメント>の講習会で説明)。

 

このように、認知症を有する多くの人々に痛みがあり、介護の必要度が増えると痛みに苦しむ人の数が増えるということが示されている。

 

こうしたことを考慮すると、認知症を有する人々の痛みへの対応は重要となる。

 

認知症を有する人々への痛みのアプローチについて、認知機能やコミュニケーションの能力がかなり保たれている段階であれば、高齢者の痛みへの一般的なアプローチと基本的には同様と考えられる。

 

しかし、認知症が進行して、認知機能やコミュニケーションの能力が低下してくると、実施が困難になるアプローチが出てくる。

 

例えば、様々なタイプの運動療法があるが、決められた動きを行う特定の形式の運動について、認知機能やコミュニケーション能力の低下が進行すると、運動の指示が上手く伝わらず、適切に行うことが難しくなってくる。

 

それでは、どうすればよいのか。医療従事者であっても、迷う人は多いと思う。

 

このことについて、痛みに影響を及ぼす要素は、身体的な要素以外にもたくさんあるという、痛みの現代的な概念に基づく知識が参考になる。

 

例えば、心理的な要素が痛みに影響を及ぼすということは、膨大な数の研究で示されており、痛みの専門分野では広く知られている。そして、心理的な要素を考慮したアプローチを行うことで、痛みが減少することを指摘した、様々な研究がある。

 

このことは、認知症を有する人々の痛みについても、同様であると考えられる。

 

例えば、認知症を有する患者を対象とした痛みへのアプローチについて、無作為化比較試験(一般的に、エビデンスと考えられている研究手法)で効果(鎮痛薬の減少も含める)が示されているアプローチには、心理的な要素が含まれるものが多い(<認知症と痛み:疼痛の評価とマネジメント>の講習会で説明)。このことからも、心理的な要素の重要性が理解できる。

 

痛みに有効な可能性があるアプローチには、どのようなものがあるのか。

 

運動療法を例として挙げると、ただ体を動かすだけではなく、心理的な効果(例えばリラクセーション)も得られると思われる方法が研究されている(<認知症と痛み:疼痛の評価とマネジメント>の講習会で説明)。

 

この方法はシンプルで、認知症が進行しても実施しやすいと考えられる(実際、過去に行われた研究では、認知症が進行している例も含めて実施可能だった)。

 

ストレスを含めた、ネガティブな心理的な要素について、他にも様々な対応がある。

 

例えば、音楽は分かりやすい手段の一つだろう。認知症を有する人々の、痛みや行動へのアプローチについて調べたシステマティック・レビューによると、痛みを減らす可能性があるアプローチに、音楽が含まれている(<認知症と痛み:疼痛の評価とマネジメント>の講習会で説明)。

 

こうしたシンプルな方法であれば、様々な状況で用いることが可能となる。

 

このように、認知症が進行しても、実施しやすいアプローチはある。このことについて知ることは、医療や介護の現場で働く人々にとって、重要だと思う。

 

他にも、認知症を有する人々の痛みを改善すると、ケアを行う職員の負担を減らすことにも繋がる可能性がある。

 

例えば、ノルウェーで行われた無作為化比較試験で、認知症を有する人々のケアを担当している職員について、通常のケアを受けていた入所者を担当していた職員のグループと比べて、専門家を交えた痛みの治療を行った入所者を担当していた職員のグループは、心理的な負担が有意に少なかったことが示されている(<認知症と痛み:疼痛の評価とマネジメント>の講習会で説明)。

 

職員の負担が減ることで、ケアの質の向上や、職員の離職率の低下などに繋がる可能性がある。これは、医療や介護の現場では、大切なことだと思う。

 

このように、認知症を有する人々の痛みについて学ぶことで、役に立つことはたくさんある。医療や介護の現場で働く多くの人々に、こうしたことを知ってほしいと思う。

 

(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp