今回の記事は、ストレスと痛みの関係について、書きます。
ストレス(この記事では、心理的なストレスが主な対象)は、現代の医学における大きなテーマであり、様々な状態と結びつけられて、ストレスが語られています。
痛みの分野も同様で、ストレスと痛みの関係は注目されています。
こう書くと、「痛みがあると、ストレスを感じるという話でしょ?」と思うかもしれません(痛み→ストレス)。
それもありますが、ストレスが痛みを悪化させる(ストレス→痛み)と書くと、驚く人がいるかもしれません。
ストレスと痛みの関係については、様々な視点から説明が行われています。しかし、個人的には、痛みに「敏感」な状態との関係から考えると、分かりやすいと思います。
痛みに「敏感」な状態とは、痛みを強く感じることや、通常よりも弱い刺激で痛みを感じる、あるいは通常では痛くない刺激(例えば、皮膚を軽くこする)で痛みが生じる等の状態のことを、まとめて表現しています。簡単に書くと、痛みを感じやすい状態です。
痛みに「敏感」な状態になると、痛みが発生しやすくなる等の問題により、痛みによる苦しみが悪化しやすくなります。
このような状態について、神経系が敏感になる状態(感作)との関係が指摘されています。そして、例えば長期にわたるストレスが、中枢神経系が敏感になる変化(中枢性感作)の形成や維持と関連している可能性があることが指摘されています(「痛みに「敏感」な状態への対応」の講習会で説明)。
このように、神経系が敏感になる変化や、それと関連する痛みの悪化と、ストレスが関係していることが考えられます。
しかし、ストレスには、興味深い側面があります。
ストレスに晒されると、痛みが増えることがある一方で、痛みが減る(stress-induced analgesia)こともあります。このように、一見すると矛盾しているかのように思える、反応が起こることがあります。
痛みが増える反応や、痛みが減る反応について、詳細なメカニズムは別にして、以下のように考えると分かりやすいと思います。
ストレスを感じる時、分かりやすい例としては危険が迫っている時に、痛みは不必要な反応です(痛みがあると、戦ったり、逃げたりする時に邪魔になる)。だから、ストレスへの一時的な反応として、痛み関連の反応が弱まることは、生体のシステムとして、理に適っています。
そして、通常であれば、ストレスがなくなれば、痛みへの反応も元に戻っていきます。
しかし、例えばストレスが長期的に続く等、生体のシステムが適応しにくい状態になると、神経系が敏感になる等の変化が起こって、痛みを感じやすくなるということが考えられます。
いろいろと書いてきましたが、簡単にまとめると、ストレスは痛みに悪影響を及ぼす可能性があります。
したがって、痛みがある人に対して、ストレスの緩和は重要なテーマの一つです。ストレスを緩和することで、痛みに良い影響を及ぼす可能性があります。
ストレスは、重要です。痛みに関しても、重要と考えられています。痛みに悩んでいる患者さんを担当する医療従事者は、このことを覚えておくべきだと思います。
(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp)