今回の記事は、痛みに関することについて書きます。

 

痛みの分野で、注目すべきテーマの一つとして、手術後の慢性痛(chronic postsurgical painまたはchronic postoperative pain)が挙げられます。

 

簡単に言うと、手術の後、身体組織の回復に必要と考えられる期間(組織によって異なるが、それではイメージが湧きにくいので、目安として3か月という期間が挙げられる)を超えて、手術と関連していると思われる痛みが発生している状態のことを指します。

 

言い換えると、手術の後、もう傷は治っているはずなのに、痛みがある状態のことを表しています。

 

このテーマが注目されるようになったのは、痛みの歴史の中でも、遅い方であるとされます。過去には、「手術をしたのだから、痛いのは仕方がない」という考えがあったのかもしれません。

 

しかし、長期化する手術後の痛みについて、今ではもっと注目されるようになり、例えばWHO(世界保健機関)のICD-11(国際疾病分類)にも、新しい分類としてchronic postsurgical or post traumatic pain(この中に、chronic postsurgical painが単独でも記載されている)が含まれています。

 

以前から、このテーマに関する研究は行われてきましたが、国際疾病分類に明記されたことで、今後は関連する研究がもっと増えていくと思われます。

 

手術後の慢性痛の発生について、手術によっても異なりますが、例えば切断で30~85%、人工膝関節置換術で13~44%と報告されています(Rosenberger et al. Chronic post-surgical pain – update on incidence, risk factors and preventive treatment options. BJA Education 2022; 22 (5): 190-196)。もっとも、全体としてみると、手術後の慢性痛の発生は20~30%くらいと考えられていますが、それでもこうした痛みは珍しい状態という訳ではないということが分かります。

 

こう書くと、医療従事者の中には、「自分はあまり、そうした痛みに接したことはない」という人がいるかもしれません。

 

しかし、それは、手術後の慢性痛についてのイメージが正しくない可能性があります。

 

例えば、手術後の慢性痛について、持続的な痛みであるとは限りません(具体例として、膝関節や股関節の人工関節置換術後の患者を対象とした調査では、痛みの頻度について、「Sometimes(時々)」という回答がもっとも多かった)。また、痛みの強さも様々です(例えば、痛みを0から10までの数字で表現すると、5以上の強い痛みの割合は少ない)。

 

こうした観点から改めて考えると、様々な痛みが、手術後の慢性痛に当てはまることに気づくと思います。

 

また、手術後の慢性痛について、これも手術によって異なりますが、全体として見ると、神経障害性疼痛の特徴を示す割合が比較的多いとされています。これは、痛みの長期化などと関連する可能性があります。

 

手術後の慢性痛や、関連する問題について、今後の更なる研究の積み重ねが必要な分野です。しかし、医療従事者にとって、現段階で明らかになっていることを知ることは、とても大切だと思います。

 

痛みの問題に詳しい医療従事者が増えることで、痛みに苦しむ患者さんの助けになることを期待しています。

 

(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp