医療について、様々な意見を持っている人たちと、筆者は過去に話をしてきた。
そうした中には、治療に関する自身の知識や技術に過剰な自信を持っていたり(医療従事者)、医療分野のエビデンスについて疑問を持っていたりする人もいた。
しかし、そうした人々は、医療に関する知識が不足していた。
例えば、痛みの治療に凄く詳しいと言い、経験のある指導者に教わっていて、英語で書かれた医学論文もたくさん読んでいるという医療従事者がいた。
その人と話していた時、基礎的な二つの用語(難しいものではなく、医療の情報を理解するためには必要な基本用語)の意味を、話の流れの中で質問してみたことがある。
その人は、二つとも答えられなかった。これでは、論文などに書かれている情報について、ただ読んでいるというだけで、その価値を判断することはできないだろうと思った。
それと、医療分野のエビデンスを疑っているという人と、話をしたことがある。
この人は、エビデンスについて理解したうえで批判しているのだろうか、それともよく知らないのに批判しているのだろうかと考えて、その人にシステマティック・レビュー(珍しい用語ではなく、根拠に基づく医療に関する基本的な知識)とは何かと質問をしたことがある。
その人は、システマティック・レビューについて、全く説明できなかった。この人はエビデンスのことを分かっていない、これではその批判に意味はないと思った。
批判的吟味(critical appraisal)という言葉がある。これは、科学的な研究論文を読み解くための技術とされる。論文を読む際には、とても大切な知識である。
批判的吟味も含めて、医学論文をしっかりと読むためには、blinding(またはmasking)やITT(intention-to-treat analysis)、power calculationなどの用語の意味や、なぜそうしたことが重要なのかということについて、理解することが大切である(これらについて、「痛みの知識とアプローチの基礎」の講習会で説明)。
こうしたポイントはたくさんある。しかし、そうした項目を絞りに絞って、まずは以下の内容について、医療従事者は説明できるように勉強をするべきだと思う。
①なぜ、比較試験は重要なのか。具体例を挙げて説明する。
②無作為化比較試験とは何か、簡単に説明する。その意義と、適切な無作為化の方法の例も含めて、説明することができる。blindingについても、説明できる。
③システマティック・レビューについて、簡単に説明する。その意義と、メタアナリシスとの違いも含める。
こうした内容について、研究に興味を持っているかどうかは関係なく、医療従事者の全員が知っているべきだと思う。これらは医療に関する情報を読み解く上で知っているべき内容であり、基礎的な知識である。
こうした知識を理解している医療従事者の数が増えることで、医療の全体的な質が高まると思う。そうすることで、日常の医療にも良い変化が起こるだろう。そのような変化が、患者さんへの医療に好ましい変化をもたらすことを期待している。
(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp)