今回の記事は、最近のテーマとは異なる内容について書きます。

 

私は、卒後研修や大学院を含めて、日本と海外の両方で、痛みと関連する教育を受けてきました。

 

そうした日々の中で、多くの有名な先生方と出会いましたが、一つ印象に残っていることがあります。

 

それは、海外の優れた先生のほとんどが、卓越したユーモアのセンスを持っていたことです。

 

例えば、オーストラリア出身で、有名な理学療法士のDavid Butler氏の講義を受けた際には、頻繁に冗談が挟み込まれるので、冗談と真面目な部分の内容を聞き分けようと、英語の聞き取りが大変だったことを覚えています。

 

また、海外の大学院への推薦状を書いていただいた、外国の恩師の一人は、普段は真面目な性格なのに、教育の場では面白いジョークを披露、会場は笑いの渦に包まれていました。

 

また、大学院に進学してから出会った先生の中で、取り分け面白かった先生は、ユーモアのセンスも最高でした。爆笑と言うよりも、クスクスと笑ったり、苦笑いが出たりするような、笑いのセンスを披露してくださいました。

 

海外の先生と比べると、日本の専門家は「真面目な」人が多いです。ちょっとしたジョークを言うこともありますが、ほとんどの場合は、固い雰囲気で説明を行います。

 

私は、海外の先生方に影響を受けて(もっとも、笑いは元々好き)、自身の講習会でも「笑い」を取り入れるようにしています。時間の都合上、笑いの要素を挟み込む機会は限られますが、それでも、どこかで笑いを発生させようと毎回試みています。

 

笑いは、重要です。研修の際には、受講者を飽きさせないといった効果も期待できますが、そもそも痛みの専門家であれば、笑いは大切な要素です。

 

感情的な要素と、痛みは関係があります。

 

例えば、恐怖や不安のようなネガティブな心理状態(自分の痛みと関連する場合)について、これらは痛みへの注意に結びつき、痛みの増加に繋がります(痛みは、注意を向けると、より強く感じるようになります)。

 

また、恐怖や不安が強い人は、痛みだけでなく、痛みを引き起こす可能性のある行動を避けようとするので、活動量の低下や外出の制限に繋がり、体力の低下や他者との交流の減少などが起こりやすくなります。

 

しかし、笑いを含めたポジティブな心理状態は、痛みや、痛みがきっかけとなる他の問題にも、良い影響を及ぼします。

 

例えば、笑いについては、楽しい映像などを見ることで、痛みから注意をそらし、痛みへの耐性を高めることが研究で示されています。

 

もっとも、笑いの効果についてはまだ分からないことも多く、例えば、笑いに効果があるのか、あるいは楽しい感情自体に効果があるのか(笑い以外でも同様の効果があるのか)、そして痛みの耐性の向上についてはホラー映画などのような「楽しくはない」映像でも起こりうるので(ただし、これは他者に関する内容であることに注意。自分に関する恐怖や不安ではない)、注意をそらすことであれば何でもよいのか、他にも様々な疑問について解き明かしていく必要があるとされています。

 

しかし、笑いを含めたポジティブな感情について、全体としての有効性は、明らかだと思います。笑いについても、今後の研究で、その有効性について、更に明らかになっていくと思います。

 

患者さんを治療する医療従事者について、技術を問題にする人がよくいます。技術も重要ですが、患者さんをポジティブな心理状態にできることも、同じくらいに大切だと思います。

 

ちょっとした会話などで、多くの患者さんを、笑顔にできる人。そういう人は、優れた医療従事者になれる要素の一つを持っていると思います。実際、上記のように、海外の優れたセラピストの多くは、卓越したユーモアのセンスを持っています。

 

痛みを専門とする医療従事者であれば、このことを意識すべきだと思います。

 

(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp