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今回は、最近のテーマとは異なる内容について書きます。痛みと理学療法です。

 

私が開催している講習会の一つに、「痛みの理学療法」という内容があります。

 

痛みのモデルの変遷に伴い、痛みに対する理学療法の考え方についても、変化が生じてきました。

 

過去には、痛みに関する、生物医学モデルに基づく考え方が知られていました。このモデルでは、損傷や病気などによる身体組織の異変と、そこから生じる侵害刺激を重視して、痛みについて考えます。そのため、身体的な要素を重視しています。

 

このモデルに基づき、身体的な要素を重視した、痛みに対する理学療法が過去に考案されてきました。例えば、筋や椎間板、関節など、様々な身体組織へのアプローチが含まれます。こうした時代が、過去に長く続きました。

 

しかし、痛み関連の研究が蓄積されていくことで、痛みのモデルに変化が起こりました。

 

痛みの現代的な概念(生物心理社会モデル、あるいはその発展形)では、痛みは身体的な要素のみならず、心理、社会、行動、睡眠の問題など、様々な要素から影響を受けると考えます(より正確に言うと、痛みはこれらの要素と相互に影響を及ぼし合います)。

 

分かりやすい例が、痛みの定義の変化です。

 

痛みの分野における最大規模の国際学会であるInternational Association for the Study of Pain(国際疼痛学会)による、痛みの定義(日本疼痛学会が日本語訳を紹介しているので、英語が苦手な方はそちらを読むとよいと思います)を例として挙げます。

 

IASPの痛みの定義にはいくつかの付記があり、「痛みと侵害受容は異なる現象です。感覚ニューロンの活動だけから痛みの存在を推測することはできません」ということが書かれています。

 

痛みについて、侵害刺激は重要な要素の一つですが、それが全てではありません。痛みは様々な要素から影響を受けます。このことからも、痛みの古いモデルである、生物医学モデルの限界が理解できます。

 

そして、痛みは様々な要素から影響を受けるので、治療についても、そうした様々な要素が対象となります。

 

これは、理学療法についても、同じです。特に、長期化した痛みに対応するためには、このことを意識する必要があります。

 

このような考え方に基づき、痛みに対する理学療法にも、変化が起きています。

 

例えば、国際オリンピック委員会(IOC)と関連する、エリート・アスリートにおける痛みのマネジメントの声明には、優れた理学療法士は、筋力や持久性などの従来型の要素に加えて、痛みの不正確な概念化や心理社会的な要素にも対応することができると記載されています。また、心理的な要素を考慮した理学療法は、期待できるアプローチとして書かれています。

 

痛みの現代的な概念は、海外の理学療法士の間で広がっています。理学療法士を対象とした、痛みの概念に関する、海外の国々でのアンケート調査の結果を見ても、このことははっきりと表れています。

 

痛みの理学療法について、痛みと関わる多様な要素を考慮したアプローチが、今後は国際的に主流になると思われます。身体的な要素だけでなく、他の様々な要素も含めて、理学療法士としてどのように対応していくのか。これが、痛みの理学療法における、今後の鍵になるでしょう。

 

こうした流れに、日本の理学療法士も、対応できるようにしていくべきだと思います。

 

(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp