彼はホテルを出て、ある場所に向かって移動を始めた。

 

この時の移動手段は記憶にない。地下鉄に乗った可能性もあるが、ホテルから上記の場所までの距離は近く、もしかしたら歩いたのかもしれない。ケンジントン・ガーデンを散策しながら、徒歩で移動することも十分可能である。

 

彼はホーランド・パーク(Holland Park)を訪れてみたいと考えていた。

 

この公園には、美しい庭園があり、ロンドンの人々にとって憩いの場の一つとなっている。

 

園内には、有名な邸宅である、ホーランド・ハウスの一部が残っており、かつては詩人のバイロン(以下、敬称略)や作家のディケンズらが訪れていたという。この時の旅ではこの施設は訪れなかったが、興味深い場所である。

 

なお、余談として、バイロンと言えば、個人的にはメアリー・シェリーが関連して思い浮かぶ。

 

メアリーがバイロンらとスイスの湖に滞在していた際、長雨による退屈を紛らわすため、そこにいた一人一人が怪奇物語を書くことになった。これがきっかけとなり、ホラー小説の代名詞の一つとも言える「フランケンシュタイン」がメアリーによって創作されたのである。

 

「フランケンシュタイン」を読んだことがない方は、是非この作品を手にとってみてほしい。個人的には、ホラー小説というよりも、人の愛憎を描いた文学の名作という印象を持っている。

 

科学者(この科学者の名字がフランケンシュタイン)によって、死体をつなぎ合わせて作られた怪物が、創造者である科学者から名前さえ与えられずに、避けられ、容貌の醜さから他の人間からも迫害され、絶望して科学者の周囲の人々を殺害して、復讐する。

 

しかし、怪物は科学者を憎みながらも、自分を作ってくれた科学者を心の底では慕う心があり、科学者が衰弱して亡くなると、その遺体の前に現れて、嘆き悲しんだ。そして、怪物は自らを焼いてこの世から消し去るために、姿を消した。深い悲しみに満ちた物語である。

 

フランケンシュタインを描いた映画はたくさんあるが、その中の一つのキャッチコピーとして、「愛もなく、なぜ造った」という内容が印象に残っている。親子の愛憎や、育児放棄などの問題にも通じる側面があり、現代の人々にとっても意義がある作品である。

 

彼は、ロンドンの街並みを歩き、ホーランド・パークに向かって移動を続けた。やがて、それらしい門が目の前に現れた。この場所が公園かと、彼は目の前の風景を眺めた。

 

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