彼を乗せて、イングランドの平原を走り続けていた電車は、やがてロンドンのセント・パンクラス駅に到着した。
駅はこの日も、大勢の乗客で溢れかえっていた。ヨーロッパ大陸からの鉄道の国際線である、ユーロスターの終着駅であるこちらの駅は、利用客が多い。
彼は、この駅で過ごす時間が好きだった。まるで美術館のようだと評される美しいこの駅には、誰もが演奏できるピアノが通路に設置されていて、通りがかりの人が演奏している様子を楽しんだり、確かベルギーの系列のお店だったと思うが、駅の構内にあるおしゃれなカフェ(Le Pain Quotidien)でパンと紅茶を楽しんだりと、ヨーロッパにいることを実感できるような、おしゃれな雰囲気を楽しむことができた。
この日、駅は通り過ぎるだけにして、地下鉄(tube)を利用して、西の方に移動することにした。パディントン駅の近くにホテルを予約していたので、そちらに移動して、先に荷物を置くつもりだったのである。
パディントン駅は、ヒースロー・エクスプレスと呼ばれる、ロンドンのヒースロー空港への特急列車が出発する駅なので、この駅の近くのホテルに滞在するのは、海外からの旅行客にとっては便利である。この時の旅行に限らず、彼はイギリスを訪れると、帰りの日が近くなってくるとこの駅の近くにある、どこかのホテルに宿泊するようにしている。
車両の中はそれほど混雑していなかったため、スーツケースを持った彼は座席に座ることができた。座った姿勢で、以前から見慣れていた、地下鉄(tube)の路線図をぼんやりと眺めていた。
ロンドンの地下鉄について、初めてロンドンを訪れた人にとっては戸惑うことがあるかもしれないが、慣れてくると、東京の電車の路線図の方が遥かに複雑で、分かりにくいことに気付くだろう。彼はパリやニューヨークには行ったことがないが、ウィーンやシドニーなどの海外の他の大きな都市における電車の路線も合わせて考えたとしても、やはり東京の電車の路線は分かりにくいと思う。
東京の鉄道のシステムについて、仕方がないことではあるのかもしれないが、路線図だけではなく、駅の構内も複雑で分かりにくいことが多い。例えば、上野駅や渋谷駅の構内について、外国から来た旅行客だけでなく、東京以外の国内から来た旅行者であっても、慣れていないと道に迷うと思う。
もし、日本を国際的な観光国として今後成長させていきたいのであれば、初めての人でも分かりやすいように、全体のシステムを見直す必要があるのかもしれない。そして、システム改変の際には、外国出身の方にも意見を聞いてみて、参考にするとよいと思う。
彼を乗せた電車は、パディントン駅に到着した。スーツケースを引きながら、彼は駅の外に向かって移動した。
なお、この駅には有名なパディントン・ベアのぬいぐるみ等のお土産が販売されている。彼はマーマレードを塗ったパンが好きなのだが、パディントン・ベアとは別人であることを書いておく(書かなくても分かる?)。
駅を出て、ガラガラと音を立ててスーツケースを引きながら、彼は予約しているホテルに向かって歩き始めた。
(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp)