今回の記事は、図書館に限定するのではなく、大学院での勉強について、大変役に立ったと感じていることの中から、二つほど書いてみたい。

 

一つ目に、彼が学んでいたpain managementのコースでは、医師(例えばGPや麻酔科医)、薬剤師、看護師、理学療法士など、多様な職種が共に学んでいた。

 

こういうコースは、珍しいと思う。基礎医学系の内容なら日本の大学院でもありうるが、このコースのように臨床系の内容で、多様な専門職が一緒に勉強するというコースは、日本の大学院には恐らくないと思う。

 

例えば、痛み及び、関連する問題が複雑、そして長期化しているような場合は、多職種による本格的な連携が必要になることがある。そして、このような連携を成功させるためには、チームを構成する全ての医療スタッフに、共通の基礎となる知識とその理解が必要となる。このことは、多様な専門職が一緒に勉強する理由の一つである。

 

共通の理解のベースとなるものは、例えば現代的な概念に基づく、痛みや、痛みと関連する様々な要素、そしてエビデンスについての知識である。これらは、職種を問わず、全員の理解が必要である。それがないと、それぞれの職種がバラバラの知識や考え方に基づき、独自に対応することになってしまい、主要なポイントに対して共通してアプローチを行うことができず、効果的とは言いにくい。

 

例えば、ある患者さんに対して、理学療法士が身体的な要素、ここでは姿勢や筋力としておくが、そういうものが問題だと考えていて、心理系の専門職はネガティブな心理状態が問題だと考えていると仮定する。両者が治療に関われば、複数の専門職が関わることになるので、一見すると効果的であるように感じるかもしれない。

 

しかし、例に挙げたこのケースの場合、それぞれの考え方及びアプローチは異なっている。そのため、いろいろとアプローチはしているのだが、焦点が定まっておらず、効果も少し散漫になってしまう可能性がある。

 

例えば、この患者さんの主な改善すべきポイントとして、痛みに由来する、強い運動恐怖があると仮定する。この場合、理学療法士が、私は身体的な要素の専門家だからと考えて、心理的な要素を考慮せずに、姿勢や筋力に単純にこだわっていては、あまり効果的とは言いにくい。運動をすること自体は良いことなのだが、どうせなら理学療法士は工夫を加えて、例えば運動を通じてネガティブな心理状態(運動恐怖)も減らしていくようなアプローチ(そういう方法がある)を実施する方が、心身の両面で、より効果的であると思われる。

 

このように、痛みと関連する多様な要素を含めた知識について、現代的な概念に基づいて理解することは、チーム医療に関わる全てのスタッフにとって重要である。彼は理学療法士だが、理学療法の分野の知識だけにこだわっていたら、様々なタイプの痛みについて、深く理解することは難しかったと思う。痛みを専門とするコースで学んだ経験は、大変貴重なものであったと思う。

 

二つ目に、自身の専門分野の技術の効果などについて、エビデンスに基づき、客観的な視点から見直すことができたのも、大変有意義だった。

 

何かの治療法について学ぶ時、たいていの場合は、その治療法の「良い」部分を強調した内容を教わる。例えば、理論的にはこういう効果がある、これを支持するこんな研究がある、云々といった具合だ。

 

しかし、それは本当のことなのだろうか。その治療法の効果について、客観的に検証した様々な研究を集めて分析すると、どのような結果になるのか。

 

こういうことは、特定の専門性に限定された世界にいると、気づきにくい。その世界で、そのアプローチは正しいと多くの人々が信じている場合、それに疑問を持ちにくくなってしまうのである。

 

多職種が一緒に学ぶ世界では、特定の職種に特有の世界観は通用しにくい。そこで重視されるのは、客観的なデータであり、それに基づくエビデンスである。このような考え方に基づき、様々な治療法の効果を改めて検証すると、新たに見えてくるものがある。

 

彼は多様な専門職と一緒に学び、エビデンスに基づいて考えることで、例えば理学療法の効果についても、何が示されていて、何が微妙なのか、改めて考えることができた。これも、多様な職種と一緒に学んだことが、とても良い機会になった。

 

あの環境が、懐かしかった。そして、日本でも、多様な専門職が一緒に学ぶことができる場を作りたいと思った。彼は、この思いを、徐々に育てていくことになる。

 

(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp