いつもこのブログの記事をお読みいただき、誠にありがとうございます。
一年を振り返ると、今年も、様々なことがありました。
思い出深いのは、執筆に関与した、慢性痛のガイドラインが出版されたことです。多くの時間をかけて取り組んでいたので、完成してホッとしました。
講習会については、英語の講習会に加えて、痛みの医療に関する講習会を今年からスタートさせました。本来であれば、対面型の講習会を検討していたのですが、昨年から続く新型コロナウイルスの流行の影響により、現在に至るまでオンライン形式で開催しています。もっとも、遠隔にお住まいの方でも気軽に参加できるという利点もあり、オンライン形式の長所もだいぶ分かりました。
痛みのマネジメントについて、現代的な痛みの概念に基づき、様々な要素を複合的に捉えて対応するアプローチの考え方が海外では広まっています。
例えば、国際オリンピック委員会のconsensus statementとして2017年に発表された、エリート・アスリートの痛みのマネジメント(1)では、治療の戦略として、心理社会的な要素も含めた、痛みと関連する全ての要素を扱うべきだと書かれています。スポーツ系のアプローチについて、旧来型の痛みの概念である生物医学モデルに基づく治療戦略が中心となって書かれている文献が多いのですが、今後はこのstatementのように様々な要素を扱うべきという文献がもっと増えてくると思います。
痛みの臨床的な専門家を育成するpain managementの学位を提供するコースも様々な国で提供されていて、このようなアプローチは広く知られています。現代的な痛みの概念に基づく知識を、体系的なカリキュラムに従って学んだ専門家が増えていることはとても良いことだと思います。
しかし、残念ながら、日本ではこのような知識の広がりはまだ不十分です。旧来型の痛みの考え方である、生物医学モデルの影響力がいまだに強く、これでは、一部の痛みに対応することができても、幅広いタイプの痛みに効果的に対応することは難しいと思います。
例えば書店を訪れた際に、痛みに関する専門書(日本語で書かれた本)を何冊か手にとってみても、いまだに生物医学モデルの影響が強い本が多いことは、残念だと思います。痛みと関連がある心理社会的な要素や、行動面、不眠の影響などが含まれている本であっても、そうした内容はあっさりと書かれているだけのことが多いです。
痛みに関する様々な要素がバランス良く含まれていて、それらの結び付きが分かりやすく説明されている、日本語で書かれた本が非常に少ないことについて、pain managementの学位を提供している大学院のコースが現時点で存在しない、日本の欠点が現れているように感じます。
このような状況を変えて、痛みに悩む人が少しでも良い状況に向かえるように、これからも活動を続けて、現代的な痛みの概念と、それに基づくアプローチの考え方を広めていきたいと思います。
来年も、宜しくお願い致します。
文献
(1)Hainline B, et al. International Olympic Committee consensus statement on pain management in elite athletes. Br J Sports Med 2017; 51: 1245-1258.
(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp)