この次に、彼は他の友人と会うことになるのだが、その前に、主にヨーロッパやオーストラリア等の大学院におけるコースの特徴について、少し書いてみたい。
ただ、彼は大学院教育の全般的な傾向について凄く詳しいわけではない。また、彼がある程度知っているのは医療関連のコースであり、他の分野の状況についてはよく分からない。したがって、あくまでも参考程度に捉えてほしい。
博士課程の基本的な捉え方について、海外も日本も基本的に同じようなものだと考えてよいと思う。研究をして、博士号を得るために論文を書く。簡単に書けば、研究者を目指す人のためのコースである。
修士課程について、日本の場合、例外もあるが、基本的には博士課程の前段階のようなイメージで、研究手法を学び、論文を書いてみることが中心になる。臨床に関係する知識を学ぶことがあっても、それが主ではない。あくまでも、研究手法や論文の書き方等を学ぶことが中心である。
しかし、海外の大学院の修士課程のコースは、日本とは異なる。主に二つの種類があり、researchとcourseworkとそれぞれ呼ばれている。
researchは研究が中心のコースなので、比較的イメージしやすいと思う。
それに対して、courseworkはシステムが異なる。学部で学ぶよりも高度な内容を学び、主に臨床系のスペシャリストまたはその分野のリーダーを養成するためのコースである。courseworkでも修士論文を書くことが多いが、その場合でも、研究よりも、高度な専門知識などを学ぶことが中心である(彼はcourseworkで学び、修士論文も書いた)。
courseworkのコースにはこのような特徴があるので、様々な試験が課される。試験に合格できなければ、単位を取得することができない。
このような特徴があるためか、courseworkのコースへの入学の条件として、一定以上の実務経験を要求しているコースが多い。学部でトップレベルの成績を取得していれば、実務経験は免除されることがあるが、courseworkのコースの性質を考えると、たとえ学部でトップレベルの成績を取っていたとしても、ある程度の実務を経験してから入学する方が、より深く学ぶことができると思う。
余談だが、海外における医療分野の卒後教育について、臨床系の講習会等では、講師は教える分野に関連した、大学院のcourseworkの学位を持っていることが多い。courseworkの学位が指導者の質の証明としても役に立っていると思われる。
海外の大学院で修士号を取得するのは大変なので、修士号の前段階のような資格もある。postgraduate (graduate) certificate、postgraduate diplomaが該当する。
これらの資格について、取得のための要件は大学院によって少し異なるが、基本的には修士号のコースを構成する単位の一部を取得することによって、資格が得られることが多い。postgraduate diplomaは、単位は全て取得して、修士論文は書かないという状態で得られることがある。
修士号におけるシステムの違いについて、海外では、大学院が学問のためだけではなく、社会人のための教育の場として広く認識されていることが大きい。医療分野以外では、MBA(経営学修士)が分かりやすい例だと思う。
研究者を目指しているわけではないが、特定の分野のスペシャリストになりたい、専門家としてもっと自分を高めたいという社会人にとって、海外では大学院がそうした人々の期待に応えている。厳しい基準を設けることで、学位や資格についての質の保証がされているので、社会人にとっても人気が高い。
長くなったが、海外の大学院の修士号の違いについて、まとめてみた。留学に興味がある方や、日本における大学院教育のシステムの改変について興味がある方には参考になった部分があるかもしれない。
次回からは、イギリス滞在時の話に戻る。
この時の滞在について、残り数日間である。この時の話について、もう少しだけお付き合いを願えれば幸いである。
(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp)