彼はシャーロックホームズの像を眺めていた。もう何度も見ているのだが、ロンドンに戻ってきて、改めて新鮮な気持ちでこの像を見ることができた。

 

その時、彼はBaker Street(ベイカーストリート)駅の前にいた。ハイドパークから、この駅まで歩いてきたのか、地下鉄に乗ったのかは覚えていない。しかし、ハイドパークの次に、この場所に来ていた。

 

この駅から少し歩くと、Regent’s Park(リージェンツパーク)がある。これまでに何度も訪れてきた、ロンドンの公園の中で彼が最も気に入っている公園だ。イギリスから日本に戻る前にも、この公園を訪れていた。ロンドンに戻ってきたということを改めて実感させてくれる、彼にとっての思い出の場所である。

 

ベイカーストリート駅から北の方に歩いていって、公園を目指した。周囲には、白壁の家が並んでいる。イギリス人のスミス(以下敬称略)による「ダルメシアン 100と1ぴきの犬の物語」では、この公園の近くにワンちゃんたちが住む家があるらしい。もしかしたら、こうした白壁の家を参考にしたのかもしれないと思った。

 

水路の上の橋を渡って公園内に入った。リージェンツパークも変わらなかった。冬の午前中なので、まだ人の数は多くないが、それでもあちこちに散歩を楽しむ人がいた。

 

公園内をゆっくりと歩いた。まだ、植物たちの多くは冬の寒さの中、眠っているように見えた。しかし、常緑樹の緑は冬でも残っている。そうした緑を眺めながら、彼は歩みを続けていた。

 

やがて東の方に行ってから、南北に連なる花壇が続く道を通って北の方に移動した。途中にはトイレやカフェもある。更に北の方に歩くと、芝生がある、運動場に出た。

 

リージェンツパークの北側には、サッカー(イギリス英語でfootball)のフィールドがたくさんある場所がある。この場所は彼のお気に入りだ。ロンドンの都心で、広大な芝生が広がっている、貴重な場所である。ここでは犬を連れた人々を頻繁に見かける。この近くには動物園もあり、「シートン動物記」で有名なシートンはロンドン滞在中、この動物園の無料パスを授かっていたので、こちらにも通っていたのではないかと思われる。ホームズ、101匹の犬の物語、シートン動物記、この公園とその周囲には文学の香りが漂っている。

 

彼は広大な芝生を眺めた。何も変わらない。彼がよく知る風景をこの時も見ることができた。

 

時は移ろっていくが、自然はほとんどそのままである。この公園の風景も、変わらない。いや、変わってほしくない。このままずっと変わらずにいてほしい。そして、彼がまたこの公園を訪れる際には、変わらない風景とともに、それにまつわる数々の思い出を楽しみたい。

 

彼は公園を出て、地下鉄に乗り込んだ。この日は忙しかった。これから、彼の行きつけの複数の美術館を見て回る予定だった。その後はロンドンに住む、別の友人と会う予定だ。それから、彼が住んでいた街に移動する。目の回るような忙しさだったが、彼は可能な限り行動するつもりだった。この時点では次にイギリスを訪れることができるのはいつになるのか分からなかった。そのため、毎日を体力が尽きるまで動き回るつもりでいた。

 

 

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