大学の図書館は基本的にいつも人が多いが、ある時期には空席を探すのが困難なほど人で埋め尽くされる。多少波はあるが、院生は年間を通して忙しいことが多いので、もしかしたら学部生が一挙に図書館に集まっているのかもしれない。試験の時期である。
この時期は本当に空いている席が少ない。勉強を始める前に、まず席を探すことに時間がかかる。やっと空いている席を見つけても、これだけ人が多いと中には友人と会話をしている人もいる。図書館のスタッフが巡回して注意をしているが、やはり少々集中しにくい環境だ。
それでは寮の部屋で勉強をすればよいかというと、なかなかそうはいかない。論文はオンラインやPDFなどで読めることが多いが、書籍は基本的に手にとって読む必要がある。彼はずっとパソコンの画面を見ていると目が疲れてくるので、そもそも紙媒体の資料を好んでいる。加えて、文献があるのは共用スペースということもあり、多少騒がしい時期でも人で混雑している場所の方が資料を利用しやすかった。そのため、混雑していても、それを我慢しながら図書館を訪れる必要があった。
こういう時には、いつも以上に気分転換が必要になる。彼は勉強の合間に、図書館の近くにある公園の散策をよくしていたのだが、この時期は寒かったので、図書館の中を散策した。美術の本がある場所で、ミレーやルノワールの本などを眺めていたことを思い出す。
このような状況が一定期間続き、やがて試験期間の最終日が来た。彼はこの日の夜もいつもと同様に図書館に来ていたが、あれだけ混雑していた館内に、ほとんど人を見かけなかった。それだけ皆が試験勉強に専念していたということだと思うが、オンオフの切り替えがはっきりとしている。
広い空間にポツンと一人いると、さすがに寂しくなってくる。もう帰ろうかなと思いながらも勉強を続けていると、他の学生がやってきた。その女性は時々見かける顔だが、大勢の人の中では交流が生まれるようなきっかけはまずなかった。しかし、この時は周囲に人がいなかったこともあり、お互いに目があった。図書館の中なので、話すことはしなかったが、彼はジェスチャーで今日は人がいないねということを伝えた。その女性も同意をしてきた。静かで、心温まるやり取りだった。
やがて彼の親しい友人の一人となり、イギリスで博士課程の勉強をして、今でも彼と交流が続いている女性との最初のやり取りだった。
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