大病院に勤務している医師は別として、多くの医師が出会う患者さんの多くは、病状的には安定している方がほとんどです。しかし、日常的な会話の中でも、がんの早期発見につながる情報が隠れていることがあります。医師が気をつけているがん発見のポイントをご紹介します。
医師ががんを疑うのはどんなとき?
私は現在、患者さんのご自宅や施設へ出向く訪問診療と、街のクリニックでの外来診療を行っています。大学病院や公立病院で外科医として勤務していた時と比べると、比較的高齢の患者さんが多く、また、病状も安定している方がほとんどです。
「先生の顔を見ると、元気が出ます」という、医者冥利に尽きるような一言を聞くことは、医師を志した私の原点に響くことでもあり、外科医時代とはまた違った喜びがあります。
薬の内容も、それほど特殊なものは多くなく、ちょっとした世間話をして、体調をお尋ねし、血圧測定や聴診を行います。そして、前回の処方をチェックして、お薬を新しく処方するという、比較的穏やかな診療風景です。
しかし、そんな穏やかな診療の中でも、「あれ?」と思うことがあります。詳しく調べてみて、がんが発見されたもあります。つまり、特別専門的な検査をしなくても、「がんでは?」と思う症状があるのです。今回は、医師である私たちが、どんな点を日常的にチェックしているのかを、お話ししましょう。
体重減少
がんを疑わせる症状の代表である、体重減少。もちろん、「最近、食事には気をつけています」「がんばって運動しているんです」「ダイエット中です」という場合は別です。
いつもと変わらない生活をしているのに体重が減っていく場合は、がんの可能性を考えたときに、少し気になる現象です。
特に、1~2ヶ月で10~15%以上の体重減少(60kgの方の場合、6~9kg)が見られる場合は、やはり注意が必要です。洋服のサイズが合わなくなったり、ズボンやスカートがぶかぶかになるなどの自覚があり、周囲の方も気づくような状態になります。
がんが体の中にあると、エネルギー消費の増加に加え、がんのできた部位によっては、食欲が低下することもあり、いつも通りの生活をしているつもりでも、体重が減少してしまうのです。
便の異常
日本では、消化器のがん、すなわち、胃がんや大腸がんが多いですが、これらのがんの症状の多くは、便の異常となって表れます。
■ 色調の異常
これは、がんからの出血によるものですが、胃や十二指腸のがんでは、便は黒色に、大腸のがんでは、暗赤色から暗紫色になってきます。肛門に近い直腸のがんでは、鮮血色の下血が見られる子ともありますが、これらは痔の症状として、見過ごされることもあります。
もちろん、頻度としては痔が多いのですが、前述の体重減少の傾向がある場合は、詳しく調べる必要があります。
■ 便通の異常
長引く下痢や、頑固な便秘といった、便通異常は、大腸のがんに関する注意信号です。もちろん、下痢や便秘も、一般的な症状です。しかし、通常の下痢止めや便秘薬が効かない、もしくは、下痢や便秘を繰り返す、といった症状の場合には、やはり、注意が必要です。
進行する貧血
何となくからだがだるい、息切れがする、めまい・ふらつきがある、といった症状は、通常の肉体疲労や、がん以外の疾患でも見られる症状です。
貧血の症状としても多いです。ただし女性の場合は、多かれ少なかれ、貧血があることがほとんどなので、一回だけの血液検査や健康診断の結果だけで判断することはできません。
重要なのは、進行する貧血です。例えば生活習慣病でかかっている医療機関の3ヶ月ごとの血液検査で、ヘモグロビン値が、13mg/dlから、10mg/dlに下がるなど、7~8割以上の低下が見られる場合は要注意。
出血の原因は、消化器系(胃がんや大腸がん)のこともあれば、泌尿器系(腎がんや膀胱がん)、婦人科系(子宮がんや卵巣がん)のこともあります。
進行する貧血は、自覚症状のみではわかりづらいので、医療機関での血液検査が必要です。もし、貧血かな?と思っても自己判断せず、やはり採血して調べておくのがよいでしょう。
虫の知らせも大切に…気になるときは健康診断・人間ドックを
最後に紹介するのは少し非科学的な内容になってしまうのですが、虫の知らせを大切にしている医師も多いと思います。
「何となく気になる……」というケースで、調べてみたら早期のがんが見つかったというケースは、医師の多くが経験していることではないかと思います。
これは患者さんも同じ。今回、ご説明したような症状に加え、ちょっと、心配だなぁと思われたときには、会社や自治体の健康診断をきちんと受ける、
また、場合によっては、人間ドックを受けてみるといった行動を起こすことも大切です。自己判断での心配しすぎもよくありませんが、何か気になることがあれば、まずは、お近くの内科の先生の診察をお受けになってみて下さいね。