年金と失業保険の関係とは
退職したあと頼りになる給付といえば、真っ先に思い浮かぶのがこの「失業保険」かと思います。一般に「失業保険」といわれる給付は正式には雇用保険の「基本手当」といい、一定の条件を満たし、65歳未満で退職した人が受けられます。
窓口はハローワークが担っています。以下、単に「基本手当」といいます。一方、年金は一定の要件を満たした60歳以降の人に、これまでの納付状況に応じて支給されるものです。
受給開始の年齢は現在65歳まで段階的に引き上げられている最中ですが、近々定年退職を迎える人の中には65歳になる前から厚生年金部分(「特別支給の老齢厚生年金」)を受けられる人も多いと思います。
ここで気になるのが、年金と基本手当、「この2つの給付は同時にもらえるのか」ということですが、これは「同時に受けることはできない」と説明されることが多いです。
基本手当はこれから働く人のためのもの、年金はリタイアした人のためのもの、ということで制度の趣旨が違うから同時には受けられない、といわれています。
今から20年以上前には同時に受けられた時期もあったようですが、現在は同時受給不可、とされています。
具体的には、額の多少にかかわらず、求職申し込み(基本手当の申し込みのこと)をした場合、その翌月分から基本手当受給終了の月まで、厚生年金は受給することができません。
では、基本手当と年金は本当に、同時に受けられないものなのでしょうか。実はそうではありません。
例外的に年金と基本手当を同時に受けることができるケースもあるのです。
以下、どのようなケースに同時に受けられるのかご紹介します。
65歳以降は年金と基本手当を同時に受け取れる?
65歳以降は、現在のところ年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)と基本手当を含む雇用保険の給付の調整はありません。したがって、ハローワークから何らかの給付を受けるのが65歳になってからであれば、年金も雇用保険の給付も同時に受けることができます。
ただし、基本手当は、退職時の年齢が65歳未満の人が対象です。よって、65歳になってから退職した場合は基本手当は受けられません。
上で説明したことを踏まえて、例外的に、年金と基本手当を同時に受給できるのは以下の場合です。
・65歳になる前に退職する
・65歳になってから基本手当を申し込む
こうすれば、基本手当と年金は同時に受けることができます。
ただし、基本手当は原則として退職後1年以内に受け終わらなければ失効してしまうので、65歳直前に退職時期を調整しないとならなかったり、多少早期に退職することによってその分の給与が受けられないといったデメリットも考えられます。
老齢基礎年金は基本手当と同時に受け取れる
65歳から受けられる老齢基礎年金は、基本手当を含む雇用保険の給付との調整の仕組み自体がないので、基本手当と同時に受けることができます。原則通り65歳から受けるときはもちろん、65歳前に繰上げて老齢基礎年金を受給する場合も、基本手当と同時に受け取ることができます。
ただし、繰上げ受給による年金減額などのデメリットが伴う上、老齢厚生年金については原則通り調整対象となりますので要注意です。
なお、65歳になってから退職した場合は基本手当を受けることはできず、代わりに「高年齢求職者給付金」という一時金を受けることになりますが、こちらは年金との調整はありませんので、年金と同時に受けることができます。
年金と基本手当は同時に受けられる場合もあるが……
今までの話をまとめると以下のようになります。
・65歳より前に退職して、65歳過ぎてから基本手当を申請するのであれば、基本手当と年金は両方もらえる。
・老齢基礎年金については、65歳以降はもちろん、65歳前に繰上げ受給した場合でも基本手当との同時受給は可能だが、老齢厚生年金は原則通り65歳前は同時受給不可。
このように、年金と基本手当を同時に受けられるケースはありますが、いずれもごく限られたケースとなります。
また、基本手当を受けるためには「失業状態」にあることが前提です。
失業とは「労働の意思及び能力があるにもかかわらず職に就けない状態」のことなので、就職する意思がない場合は当然基本手当を受けることはできません。
上記のような事情を考慮しつつ、退職時期を個々人で探っていくことになりますが、基本手当(失業保険)と年金を同時にもらえる時期=ベストな退職時期とは限らないので、じっくりと検討したいところですね。
文:綱川 揚佐(ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士、年金アドバイザー)
金融機関在職中に1級FP技能士を取得後、社会保険労務士や年金アドバイザーも取得。年金記録確認第三者委員会勤務を経て、社会保険労務士・FP事務所を開業。法人向けの労働相談や、多数の年金相談業務等を行う。