頻発する地震や竜巻など近ごろ大災害の懸念が尽きない。災害時の被災者に注意が呼びかけられているのが、強烈な精神的ストレスによって誘発される「たこつぼ心筋症」と呼ばれる病気だ。
災害時以外でも起こる場合があるので注意しておこう。
■心臓の形がタコツボ
たこつぼ心筋症という病名は、心臓の動きが悪くなり、心臓の根元がくびれて「たこつぼ」のような形になることからつけられたものだ。
原因について、内科・循環器内科「さかい医院」(川崎市)の堺浩之院長は「突然、強いストレスがかかるとカテコールアミンなどの興奮に関係するホルモンの分泌が一気に増加する。
自律神経が極度に興奮することで心臓の筋肉の一部が動かなくなると考えられています」と説明する。
心臓が収縮しにくくなり、血液を送るポンプ機能が低下するために胸の痛みや圧迫感などの心筋梗塞に似た症状が現れるのだという。
■閉経後の女性に多い
この病気は、1990年に日本で初めて報告され、2004年の新潟中越地震の時、多く発症したことで注目された。東日本大震災でも発症例が報告されたが、まだ解明されていない部分が多いのが現状だ。
症例報告からみた発症しやすい人の傾向について、堺院長は「中高年女性に多い」と話す。
「年代は男女とも60歳代後半が多いが、全体の8割は閉経後の高齢女性が占めている。これもエストロゲンなど女性ホルモンの分泌と何らかの関係があるのではないかとみられています」
他にも発症は「夏、朝に多い」傾向の報告もあるという。
■災害時以外でも発症
ただし、発症は災害時ばかりとは限らない。通常の日常生活でも強烈なストレスを経験すれば誰でも起こる可能性があるから要注意だ。
例えば肉親や友人の死、交通事故、激しい議論や口論、慣れない人前での講演など。また、ダイビングや激しい運動、病気の検査や手術など身体的なストレスでも起こる場合があるという。
堺院長は「発症前48時間以内に約70%が大きなストレスを経験。女性は心因的、男性は身体的なストレスが引き金になりやすい」と指摘する。
発症しても、一般的には入院して治療することで1-2週間で心筋の機能が回復するケースが多い。だが、不整脈や心不全によって突然死を招く恐れもあるので自己診断は禁物だ。
堺院長は「特に持病がある人は、我慢しないで必ず受診することが重要です」と忠告する。
■「たこつぼ心筋症」の概要
【症状】胸の痛み、胸の強い圧迫感、呼吸困難
【きっかけ】災害時、肉親や友人の死、激しい口論など
【原因】突然の強烈なストレスにより、心臓の筋肉の一部が収縮しにくくなり、起こる
【治療】ストレス要因の除去と安静が重要
【予後】多くは2週間以内に改善するが、重症では不整脈や心不全などで死亡の恐れもある