ストレスは老化の敵なのか?「100歳超の人たち」研究で判明した意外な事実 | ~たけし、タモリも…「1日1食」で熟睡&疲れナシ~

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ストレスは老化の大敵である。しかし、若い頃に受けた肉体的ストレスは、むしろ寿命を延ばす効果があるという。

 

プラスに作用するストレスについて老化研究の専門家である早野元詞氏が語る。※本稿は、早野元詞『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

マイペースな姿勢で不要なストレスから距離を置く

 ストレスとは何でしょう。

 実はこれは、とても難しい問いです。なぜなら同じようなプレッシャーを受けても、その受け止め方には個人差が作用します。つまり、プレッシャーをストレスと感じる人がいる一方で、自分にとっての成長の機会と捉える人もいる。その人次第なのです。

 

 先日見かけたYouTubeのプログラムでは、サッカーの元日本代表選手、本田圭佑さんが、次のような話をしていました。

 

「勝てるはずの試合で負けたりすると、大ブーイングに遭うじゃないですか。そんなとき、俺はダメだったと落ち込んだりしない。むしろ負けたという事実は、さらに上にステップアップするためのチャンスじゃないか、と考えるんです」

 

 一般的には「つらい」とされる出来事に遭遇しても、それをどう解釈するかは千差万別でいい。白か黒か、ではなく、その間のグレーゾーンは無限なのだ──本田さんの言葉は、そのような根本的なことを思い出させてくれます。

 

 現代のSNS社会は、二者択一に陥りがちです。わかりやすいリアクションが求められるからです。ですが、落ち着いて考えてみれば、他人の評価によるストレスで自分の老化が進んでしまうのはつまらないことです。

 

「他人と自分を比較しない」

 他人は他人の遺伝子、自分は自分の遺伝子を大事にすればいい。そう一線を画すことで、不要なストレス(=不要な老化)は抑えられる。そう考え、他人と大いに交わりながらも、1人ひとりがマイペースで生きていく。そのような姿勢も、老化抑止につながります。

ストレスで寿命が延びる?老化予防に繋がるホルミシス効果

 朗報もあります。一定レベルのストレスには、細胞を生まれ変わらせるプラスの働きがあります。これは「ホルミシス(hormesis)」と呼ばれる現象で、有害性物質が微量に作用することで、有益性がもたらされる効果のことです。一定のカロリー制限や、運動もこれに当たります。

 

 ストレスと寿命の関係については、線虫を使った研究でも興味深い結果が報告されています。線虫の子どもにストレスを与えると、明らかに寿命が延びるのです。

 

これはストレスにより、エピジェネティックな変化(編集部注/「エピゲノム」とも言う。遺伝子の変化ではなく、遺伝子の発現の仕方の変化を表す)が生じた結果と考えられています。

 

線虫は生後早期に飢餓、無酸素、浸透圧などの環境ストレスにさらされると、「耐性幼虫(Dauerlarva)」と呼ばれる状態に移行してストレスが去るまでジッと待ちます。耐性幼虫を経た線虫は、ストレスを記憶して遺伝子発現が変化する。

 

 それによって繁殖能力が低下する代わりに、寿命が延伸するのです。成体初期でも、温度を20°Cから25°Cに1日シフトするだけでもストレス抵抗性が改善されて寿命が延伸するから不思議です。

 

こういった実験と検証はヒトでは容易ではありません。ですがこれらを踏まえれば、子どもの頃に適度なストレスを受ければ、エピジェネティックな変化により身体機能を高めて長生きできる可能性が考えられます。

 

 実際に、マウスを使った実験では、幼少期の運動によって長期記憶が促進されることも示されました。記憶に重要な「海馬」と呼ばれる大脳辺縁系の一部において、「プライミング効果」と呼ばれる経験が認知に影響を及ぼす現象が観察されています。

 

同じくマウスを使った実験では、若いときの筋トレが長期的に筋肉で記憶され、高齢になったときの筋トレ効果を促進することが明らかになっています。

 

 ヒトの場合も、高齢者になってから運動するよりも、中学・高校時期に運動した経験のある高齢者のほうがサルコペニア(編集部注/筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態)のリスクが低いようです。

 

 これは「マッスルメモリー」ともいわれ、運動だけでなく「TNF-α」と呼ばれる炎症性サイトカインなど多様なストレスを筋肉細胞が記憶するといった長期的な影響から生じる現象です。

 

いずれにしても、野球とバスケットボールのエリートアスリートの縦断的データからも、早期の運動能力が晩年の死亡率や老化の予測に重要なことが明らかになっています。若い頃から適切な負荷を身体に与えるのは効果的だということです。

アンチエイジングは中高年から始めるのでは遅い

 日頃から「アンチエイジングは中高年の専売特許で、若年層には関係がない」といった風潮がありますが、ここまで述べてきたように、若い頃からの老化抑制が非常に重要なのです。

 

 たとえば、タウリンが寿命の延伸や身体機能を維持するために重要だという報告もありますが、幼少期のタウリン欠乏は、骨格筋、視覚、中枢神経系の機能障害を引き起こすことも昔からよく知られています。

 

我々が開発したICEマウスでも、若いときのストレスがエピゲノムを変化させ老化を加速させることが示されていて、生物学的年齢を加速させないためにも幼少期や若年期からの適切な老化コントロールがとても大事であることがわかります。

 

 厚生労働省の発表によると、2023年度中に100歳を迎える人は、2023年9月1日時点で4万7107人(男性:6727人/女性:4万380人、見込み含む)、同時点で100歳以上の人の数は9万2139人でしたが、たった60年前の1963年は153人でした。

 

予測の範疇を超える出来事を「ブラック・スワン」と呼ぶことがありますが(古くから欧州で存在しないと思われていた黒い白鳥が17世紀末に西オーストラリアで発見されたことに因みます)、100歳以上の人口が60年で600倍以上になることを一体誰が予測できたでしょうか。

 

実際、彼らセンチネリアンたちは、どのような幼少期を経てきた人々なのでしょう。センチネリアンやスーパーセンチネリアンの研究においては、幼少期からの食事や運動、喫煙を含むライフスタイル、体重、さらに多くのセンチネリアンが寡婦であることなどが知られています。

 

 肉、卵、乳製品の代わりに穀物、魚、野菜を中心とした食生活、そして高齢になるまで積極的に働くことや思いやりのある地域社会との絆など、近年ますます重要視されている条件も彼ら一人ひとりが備えているようです。

 

他にも、「スーパーセンチネリアンの人たちは、衛生状態が決して良いとはいえない牧場の近くなどに住んでいて、幼少期に感染症に罹るなどストレスを受けた人も多い」といった説もテレビの放送などでは見受けられます。

センチネリアンが証明し続ける見えないストレスのチカラ

 実際には、日本の9万2000人ものセンチネリアンの人たちが皆、牧場暮らしということはありません。しかしながら、幼年環境と寿命が強く結びついていることは科学的見地からも知られています。

 

 たとえば、幼少期の重篤な栄養不足は疾患のリスクになり得ます。逆に先述の通り、軽度なストレスが細胞の中で記憶されれば、健康や寿命にポジティブな影響をもたらします。

 

日本でも流行になっているサウナは、心血管疾患のリスクを長期に予防しますし、断続的な絶食(ファスティング)が糖尿病、がん、心臓病、神経変性への予防効果があることも示されています。

 

要は、ストレスにもプラスとマイナス双方の効果があるということをセンチネリアンの人々も教えてくれているのです。ちなみに、同じストレスでも人によって受け止める度合いが異なるのも、先述の通りです。

 

「じゃあ、どれぐらいのストレスならば、プラス面の効果だけにできるんですか?」

 そんな質問を私も時折受けますが、残念ながら、ストレスの良し悪しを測る目安は今のところありません。

 

ただし、エイジング・クロック(編集部注/生物学的年齢の測定)が確立されれば、一定の指標が生まれてくると思われます。たとえば、

『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』 (早野元詞、朝日新聞出版)

『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』 (早野元詞、朝日新聞出版)© ダイヤモンド・オンライン

 

「あなたは55歳ですが、健康年齢は40歳前後なので、毎日30分ほどの筋トレを続けると効果的でしょう」

 

「あなたは55歳ですが、健康年齢は60歳を超えています。毎日6000~8000歩は歩くように心がけてください」

 

 などといったアドバイスを受けられるようになる。あるいは、近未来の社会では、「40歳の身体に戻るために、この薬を毎日服用してください」と、若返りの薬を処方されるようになるかもしれません。

 

 いずれも人体の細胞レベルで老化度が測れる未来においては、何歳になっても「理想の健康年齢」を主体的に維持できる社会になるでしょう。