5年前、10年前の自分と比べてなんとなくゆるんだボディのシルエット。体力的に無理がきかなくなってきたし、健康診断ではお医者さんに「運動しなさい」と指導を受けてしまった。
たしかに「運動しなきゃ!」とは思うものの、つい「時間がない」「キツいのはイヤ」「どうせ続かない」と後回しになってしまう……。
そんな人たちのために、運動のハードルを限りなく下げる研究を重ね、科学的効果が実証された運動ーーそれが「3秒筋トレ」です。
あの「ニューヨーク・タイムズ」紙も驚いたというその効果を実証して世界的に話題を呼んだのは、西九州大学の中村雅俊先生。
中村先生の著書『たった3秒筋トレ』からの一部抜粋・編集により、人生100年時代を生きるすべての人に筋トレが必要な理由と、3秒筋トレのメソッドをお伝えします。
人生100年時代、筋トレがマストな理由
「筋トレしてくださいね」とオススメすると、「先生、筋トレなんかしませんよ〜。ムキムキになりたくないんで」とおっしゃる女性もいます。けれど筋トレ=筋肉ムキムキというのは大いなる誤解。
ここでいう「筋トレ」の目的は、ボディビルダーのような筋肉ムキムキを目指すものではなく、あくまでも「筋力アップ」を目指すものだからです。
筋肉の機能 (筋機能)のピークは、普通の人で20〜30代。運動をしない限り、それ以降は減少を続けます。「筋機能」とは、筋肉が発揮できる力、「筋力」とほぼほぼイコールだと思ってください。
筋機能は、運動不足だと30代以降では年1%、50代以降になると2%の割合で、減り続けることが明らかになっています。その結果、20〜30代のピーク時と比べると、80代までに筋機能はおよそ30〜40%も低下すると言われています。
20〜30代の頃と比べて、筋機能≒筋力が多少低下するくらいなら、気に病むほどではありません。
ただ、その落ち込みは、最低限に留めることが重要。筋機能≒筋力が必要以上に低下すると、自立した健康的な生活が送れなくなり、要支援・要介護になる可能性が出てくるからです。自立できなくなると、かかる医療費も増えてきます。
縦軸に筋機能≒筋力、横軸に年齢を取ると、20〜30代をピークとして加齢とともに筋機能は右肩下がりになっていく。けれど、早めに筋トレなどの運動を行うことにより、要支援・要介護が求められるレベル以下まで落ち込むことを防ぐことができる。
出典:WHO/HPS,Geneva 2000
この筋機能≒筋力の落ち込みを防ぐために有効なのが、「3秒筋トレ」。ピーク時に比べると筋機能≒筋力が落ちているはずの60 代から80代の男女が10週間取り組んだ結果、 筋力がアップして筋肉量も増え、筋機能が高まることが証明されています。
1年に1〜2%の割合で低下すると言われている筋力が、仮に゙30%アップしたとするなら、 10週間で筋力年齢が30歳も若返ったことになります。10%でも10歳若返ったことに!
出典:中村雅俊、未発表データ
老後に備えた貯金は、少しずつ減っていきます。それは筋肉も同じ。貯金ならぬ“貯筋”で、筋肉が減らないように維持・増強を心がけること。何歳になっても自分の足で歩き、好きなところで好きなことをする筋力をキープすること。それが幸せな10年後、 20年後につながります。そのために役立つのが「3秒筋トレ」での筋肉への投資です。
しかも運動経験のないシニア層でさえ難なくできたのです。どうでしょう。さっそくやってみたくなりませんか?
運動不足だと筋力ダウン=老化する仕組み
筋機能≒筋力の低下のもっとも大きな要因は、筋肉が減ること。では、なぜ運動不足だと、筋肉は減るのでしょうか?
筋肉は、カラダのなかでも、いちばん「新陳代謝」が盛んな組織。新陳代謝とは、古い細胞や組織を壊し(分解し)、新しく作り直す(合成する)ことです。
筋肉は新陳代謝が活発であり、つねに分解されており、分解に見合う量が合成されています。それにより、筋肉のおよそ半分は約半年(180日)で入れ替わっています。分解と合成がちょうど釣り合っていれば、筋肉量は変わりません。
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ところが、運動の刺激が乏しいと、分解のほうが合成よりも活発になります。その結果、じわりじわりと筋肉が減っていくのです。
逆に運動で筋肉を適度に刺激すれば、合成のほうが分解より活発になります。それにより、筋肉量が増えて筋力もアップします。「3秒筋トレ」の最大の狙いはそこにあります。
筋力ダウンで「隠れ肥満」や生活習慣病リスクがアップ
加齢による筋肉の減少を「サルコペニア (加齢性筋肉減弱症 )」と呼びます。
歳を取っても適度な運動をしていれば、筋肉量は減るどころか、増やすことだって可能。ですから、厳密には、筋肉の減少は加齢+運動不足で起こります。
サルコペニアに陥ると、筋力不足で思うように動けなくなります。動けないと筋肉への刺激が減りますから、筋力減少に一層拍車がかかります。悪循環です。
高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病やメタボのリスクも上がります。その背景にあるのが、サルコペニアによる肥満。「隠れ肥満」と呼ばれることもあります。
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筋力不足がなぜ肥満や生活習慣病を引き起こすのでしょうか? 説明しましょう。
筋肉はもともと新陳代謝が活発であり、じっとしているときでも体温を保つために代謝活動を行なっているもの。安静時でも人間が生きるために行われている代謝活動を「基礎代謝」と呼びます。
それは1日に消費しているエネルギー(カロリー)のおよそ60〜70%を占めます。その基礎代謝の 20%ほどを担っているのが、筋肉による代謝活動です。
ですから、筋肉が減る→基礎代謝が落ちる→1日の消費エネルギーが減るという負のドミノ倒しが起こります。すると、食べすぎていなくても、無駄な贅肉(体脂肪)が増えて太ってくるのです。
そもそも太るとは、単に体重が増えることではなく、体脂肪が溜まりすぎた状態。男女ともに、30代以降、肥満の人は増える傾向があります。