「私立は高くて、国公立は安い」。そうしたイメージは根強いものの、今はそうとは言い切れない背景があります。
子育て世代のお金の悩みに、ファイナンシャルプランナーでお子さんをもつ坂本綾子さんがお答えします。
話を伺った人 坂本綾子さん ファイナンシャルプランナー《CFP(R)認定者》
(さかもと・あやこ)坂本綾子事務所(http://www.fpsakamoto.jp/)代表。20年を超える取材記者経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナーを行っている。
著書に「今さら聞けないお金の超基本」(朝日新聞出版)、「まだ間に合う! 50歳からのお金の基本」(エムディエヌコーポレーション)など。
進学先によっては、国公立と私立の費用面に大きな差がないことも
親世代が学生だったころは「国公立=安い」ものでした。でも、今はそうとは言い切れず、条件によっては、私立との教育費の差が縮まっているんです。
高校は2020年4月から「私立高等学校授業料の実質無償化」が始まりました。私立高校に通う生徒への支援額の上限が引き上げられ、年収目安が約590万円未満の世帯(※)は「授業料が実質無償化」となりました。
※両親・高校生・中学生の4人家族で、両親の一方が会社員として働いている場合の年収の目安。実際には住民税を元に判定されます。
また、東京都では、国の助成制度とは別に独自の授業料軽減助成金があります。年収の目安が約910万円未満の世帯に、国の制度との合計で年間46万1000円(実際に支払った授業料が上限)の授業料軽減が行われます。
たとえば、都立高校で大学進学を見据えて塾や予備校に通うのと、私立高校で塾に通わない場合だと、教育費の総額があまり変わらないケースもあります。
特に中堅の私立高校ですと、大学への進学を視野に入れた授業を行い、お子さんの学力によっては、塾に通わなくて済むこともあるようです。
実際、きょうだいで上の子は公立高校に進学したものの、教育費を調べたらあまり変わらないことに気付き、下の子は私立高校に進んだという話も聞きました。 大学の場合も見てみましょう。
<参考>国公私立大学の授業料等の推移(文科省) https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/__icsFiles/afieldfile/2017/12/26/1399613_03.pdf 10歳前後のお子さんがいる今38歳(1981年生まれ)の人が18歳で大学に入学していたと仮定し、2000年度の額を確認してみましょう。
国立大学の授業料は47万8800円で入学料は27万7000円。2019年度の国立大学の授業料は53万5800円で入学料は28万2000円です。
上記リンク先のPDFにある国立大学の授業料は文部科学省が省令で定める標準額ですが、各大学は2割を上限に引き上げることができます。
最近では、東京工業大学と東京芸術大学は2019年4月の入学者から、一橋大学や千葉大学、東京医科歯科大学が2020年4月の入学者から授業料を値上げしました。
現在、東工大の授業料は63万5400円、ほか4大学は64万2960円となっています。国立大学の授業料の自由化といった話も出ているので、国立大学を取り巻く環境の変化に目を向けておきましょう。
私立大学は学部によって金額が大きく変わるため、学部別のデータを確認しましょう。
<参考>平成30年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金 平均額(定員1人当たり)の調査結果について(文科省) https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_sigakujo-000003337_1.pdf もしお子さんが理系に進むとしたら、国立大学の金額は学部によって違いがないため、国立大学の方が格段に安くなります。
文系も私立の方が総額は高くなりますが、選ぶ大学によっては、授業料が国立大学と大きく変わらないこともあります。 この私立大学のデータはあくまで平均のため、お子さんの進学希望先が決まったら、必ず個々の大学の費用を確認してくださいね。
教育費以外にも知っておきたいお金のハナシ
教育費をためるにあたって、現在はさまざまな面で負担が増えていることも知っておきましょう。 たとえば、消費税は1989年に導入されましたが、当時は3%。現在は10%と、導入から約30年で3倍以上です。
社会保険料の負担も増え続けていて、医療・介護・年金の保険料の総額が給与に占める比率は30 %に迫っています。会社員が給与から支払うのはその2分の1ですが、それでも負担は大きいと言えます。
さらに、満40歳を迎えたら「介護保険料」が徴収されることになります。そのため、手取り収入が減ってしまいます。 お子さんが中学校を卒業するまでは児童手当があるので、それを貯金したり、手取り収入を増やせるよう共働きで備えたりするなど、大学進学を見据えた教育費の準備を行いましょう。
公立? 私立? お子さんの進学先を考える
お子さんの教育について考えるとき、自分が子どもの頃と「今」では事情が大きく異なることを認識することが前提です。 特に教育に対する価値観は、それぞれの育ってきた環境の影響を受けやすいもの。
東京などの首都圏は、私立学校の数が多いですし、中学受験も当たり前の環境です。一方、地方の場合は公立が中心。中学受験を選ぶ人は少数派で、高校受験は成績が上位であれば公立高校に進学し、滑り止めで私立高校を選ぶ、といった感覚があります。
保護者それぞれの出身エリアが異なる場合、「高校までは公立に行くもの」「中学から私立の方がのびのびと勉強できる」など、「当たり前」と感じる進学先が異なるケースも考えられます。
一番大切なのは、子どもが楽しく過ごせるかどうか。保護者の価値観ではなく、子どもの主体性を伸ばせる選択をしましょう。 (編集:阿部 綾奈/ノオト)