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老化を抑え、20代のまま未来を迎えることができる? マウス実験がその可能性を示唆

老化を抑え、20代のまま未来を迎えることができる? マウス実験がその可能性を示唆© AERA dot. 提供

 「若いままで歳月を過ごしていける」「老いない人生」。

 

そんな未来の可能性を提示するのは、生命科学者の早野元詞氏だ。老いの制御に深く関わるエピゲノムの機能を研究で解明した。老化を加速させたマウスから見えてきた老化スイッチとは? 早野氏の新著『エイジング革命』(朝日新書)から、一部抜粋・再編集して紹介する。

■エピゲノムを押入れに喩えれば

 老化の抑制に重要な役割を果たす「エピゲノム」。

 押入れ全体をDNAだとします。そこには必要な道具がいろいろ揃っています。その中から、必要なときに必要な道具を必要に応じて使う。つまり、遺伝子を使って必要なタンパク質を体内で作る。

 

 ところが、長年使用しているうちに(=加齢に伴って)、最初は整理整頓されていた押入れの中が、ごちゃごちゃと乱れてくる。たとえば、掃除機を使いたくてもどこにあるのかわからない。その結果、掃除機で掃除をすることができない。

 

 それでは困るわけです。

 必要なのは、押入れを元通りに整頓してくれるハウスキーパーです。このハウスキーパーの役割を果たしているのが、どうやらサーチュイン遺伝子だとわかってきました。具体的には、サーチュイン遺伝子によって作られるタンパク質「サーチュイン」が、押入れを整理してくれる。つまりエピゲノムを修正してくれるのです。

 

 レシピ本の喩えでいえば、間違ったところに貼られてしまった付箋紙を、正しい位置に貼り直してくれるのがサーチュイン遺伝子です。ただし一つ問題がありました。

 

 サーチュイン遺伝子も、加齢と共に衰えていくのです。だから、押入れの整理を適当にしてしまったり、付箋紙を貼り直す場所を微妙に間違ったりする。

 

 ということは何らかの方法でサーチュイン、すなわちハウスキーパーを元気づけてあげられれば、またしっかりと押入れは整理整頓されるはずです。

 

 このサーチュイン遺伝子を活性化してくれる化合物が、「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」と呼ばれる酵素です。

 

もともと細胞内にNAD+はありますが、加齢に伴い減少していきます。そこで、それを補う化合物として、先述のNMNというサプリメントが注目されているのです。

 

 サプリメントとしてNMNを体内に取り込めば、それがNAD+に変換されて、サーチュイン遺伝子が活性化される。よって押入れが再びきれいに整理されて、必要なものを必要なときに使えるようになる。

 つまり、老化を制御できるわけです。

 

■老化スイッチが見えてきた

 私の老化研究のスタートは、「ICE(for Inducible Changes to the Epigenome:エピゲノムを変化させて老化状態にした)マウス」の作製からでした。ICEマウスは、遺伝子のDNAの一部を人工的に傷つけることによってエピゲノムを変化させた、いわば、老化を加速させたマウスです。

 

 研究方法は、初めに普通のマウスからICEマウスを作り、次にそのICEマウスの老化を治療する。要するにわざと押入れを揺らして、いったん中をごちゃごちゃにしてから元に戻す(=治療する)のです。

 

その際、押入れの中のものがすっかり壊れてしまっているのか、それともただ整理されていなかっただけなのか。後者ならば、整理されなくなっただけで本当に老化は加速するのか、それらのプロセスを10年以上かけて研究し続けました。

 

 この論文は、シンクレア博士のリーダーシップと、共同第一著者で友人でもあるヤン博士のぼう大なデータ、そして多くの共同研究者の支援によって2023年、アメリカの科学学術誌『セル(Cell)』に掲載されました。もちろんそれは学術論文なので、わかりやすく言い換えて説明したいと思います。

 

 シンクレア博士らの総説「The Information Theory of Aging」には、若いときのエピゲノム情報が失われることで老化することがまとめてありますが、ICEマウスを使った実験の目的は、まさにそれを実験的に証明することにありました。

 

 それぞれの細胞や臓器には、肝臓や脳といったアイデンティティを決めるエピゲノムがアナログ情報として記録されています。しかし、若いICEマウスに修復可能な弱い「揺らぎ」をDNA損傷ストレスという形で与えると、デジタル情報であるDNA配列ではなく、アナログ情報であるエピゲノムが変化してしまいます。

 

 その結果、若いICEマウスは、〝若気の至り〞では済まされずに老化が加速して、認知症、サルコペニア、骨粗鬆症といった症状が早く現れてきます。これはある意味、若いときのエピゲノム情報を正しく取得すれば、自分自身がどういう老化をたどるのかを予測できるということでもあります。

 

 ただし揺らぎによって、エピゲノム情報を失いやすい細胞や臓器と、情報を保持しやすい細胞や臓器に分かれることもわかっています。

 

 また、エピゲノム情報を消失させるストレスについても閾値があることがわかってきました。「我慢の限界」という言葉がありますが、実は我々の身体の中でもストレスが一定量を超えると、ドミノ倒しのようにエピゲノム情報が失われ、老化が進んでいってしまいます。

 

これはICEマウスを使った実験でも示されています。DNA損傷の期間が2週間ではなく、3週間を超えると老化のスイッチが入るのです。

 

 おそらく人間のエイジングにも同じような閾値があるはずです。一卵性双生児でも一方が歳を取って見えたり、ウェルナー症候群の患者さんが、30歳前後に急激に老化に似た症状が進行するのもエピゲノム情報の閾値が関係しているかもしれません。

 

 あるいは健常な人でも、だいたい65歳を過ぎたあたりから、急激にエイジングが加速します。〝老化スイッチ〞といえる加速起動装置、いわば〝ドミノ倒し〞の最初のドミノを押す指は、一体どのようなものなのか。これを科学的に突き止めることが、現在の私の研究課題の一つです。

 

■20代のまま生きる未来

 ICEマウスで発見された、DNA損傷を2週間続けた場合と3週間続けた場合の明らかな違い。これは、前者と後者の間のどこかで老化スイッチによるドミノ倒しが起きていることを示していました。

 

 最初のドミノが倒れると老化が一気に進み出す。だとすれば、先頭のドミノを倒れないように強化すれば、エイジングを止められるのではないか。

 

 すでに何らかのタンパク質が老化スイッチに影響を与えていることはわかってきており、具体的な候補物質もいくつか見つかっています。

 

いずれ研究が進めば、たとえば20代や30代の段階で、〝老化スイッチ・タンパク質〞の状態を自らチェックできるようになるかもしれません。そればかりか、20代のまま変わることなく、その後30年も40年も生きていく未来さえ可能になるでしょう。

 

 つまり「老化防止」「若返りのリジュビネーション」だけでなく、エイジングについての第三の道が見えてくる。それは次のような道です。

 

「若いままで歳月を過ごしていける」

 そんなバカな! という話ではなく、ハダカデバネズミやリクガメたちは実際に「老いない人生」を送っているのです。細胞老化を防ぐメカニズムを備えている、だからハダカデバネズミは老化しない。

 

 順天堂大学の南野徹教授が開発した「老化細胞除去ワクチン」も、老化した細胞だけが持っている標識を認識して、身体からそれを排除することで病気を防いだり治療するコンセプトです。

 

東京大学大学院の中西真教授(現・東京大学医科学研究所所長)らのチームも、老化した細胞を除去する薬の開発や抗体を使って、老化を制御する試みを発表しています。

 

細胞が老化する仕組みにもエピゲノムが大きく関わっているわけです。こうしたさまざまな方法によって、老化を「止める」なんていう日が近々実現するかもしれません。押入れをきれいに保つ方法—すなわち老化を加速させない研究は、科学の最前線のテーマであるということです。

 

 実際、年齢不相応に若い人々は、すでに世の中にたくさんいます。彼らの押入れは、なぜだかはわからないにせよ、常にきちんと整頓されている。もちろん、整理するために日々努力している人もいれば、特に何もしていない人もいるでしょう。

 

 けれども体内では、つまりDNAレベルでは何らかのメカニズムが必ず働いているはずであり、それは、エピゲノムであるはずです。エピゲノムを解析してその実態を突き止めることで、エイジングが飛躍的に革新するのは間違いありません。