「韓国人の発症率はトップクラス」「日本人はなぜかアメリカ人より発症率が高い」…「大腸がん」に関する「驚くべき事実」
日本人には、日本人のための病気予防法がある! 同じ人間でも外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。
欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を徹底解説!
*本記事は『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
肉の摂取量だけでは決まらない
では、食物繊維が少なく、脂肪と蛋白質が多い食事は本当に大腸がんを招くのでしょうか? 食物繊維の摂取不足は、以前から大腸がんの発生を促すと考えられており、日本でも約10万人を対象に大規模な調査がおこなわれました。
この調査では、食物繊維の摂取量をもとに参加者を5つのグループに分けたうえで、その後の10年間に大腸がんを発症した人の割合を比較しました。ところが食物繊維を多く取っても、大腸がんの発症率が下がる傾向は認められなかったのです。
ただし、食物繊維の摂取量が最も少ない女性のグループを、さらに3段階に分けて分析し直したところ、摂取量が本当に少ないグループは、女性全体のなかで最も摂取量が多いグループとくらべて大腸がんに2倍以上なりやすいことがわかりました。
この結果が示しているのは、食物繊維の摂取量が非常に少ない人をのぞくと、大部分の日本人は大腸がんを予防できるだけの食物繊維を摂取できていて、それ以上取っても効果は変わらないということです。
もう一つ、大腸がん発症との関連が疑われているのが、脂肪と蛋白質を多く含む食品、具体的には肉の摂取です。第7章で見たように肉の蛋白質は発がん性物質の材料になると考えられていますが、脂肪も負けてはいません。
図8-3に示したように、脂肪を摂取すると、肝臓から胆汁という消化液が分泌されて脂肪を分解しやすくします。
「韓国人の発症率はトップクラス」「日本人はなぜかアメリカ人より発症率が高い」…「大腸がん」に関する「驚くべき事実」© 現代ビジネス
役目を終えた胆汁は大部分が小腸から吸収されますが、脂肪をたくさん摂取すると胆汁も大量に分泌され、こうなると小腸で吸収しきれずに、一部が大腸まで流れ込みます。米国人は、平均的な日本人の3倍も胆汁を分泌するという報告があるほどです。
これだけなら良いのですが、このとき大腸に悪玉菌がいると、入ってきた胆汁が分解されて、発がんと関連する物質ができるのです。発がん性物質まではいきませんが、発がんを手助けする物質です。
つまり、脂肪を多く摂取して胆汁の分泌が増えれば増えるほど、大腸がんが発生しやすくなるということです。
肉の脂やラード、牛乳、乳製品に含まれる動物性脂肪は体に悪いけれど、オリーブ油、ごま油などの植物性脂肪は心配ないという人がいますが、これは間違いです。
どんな脂肪も体内で分解される経路は同じなので、胆汁の増加による発がんには動物性脂肪も植物性脂肪もありません。取り過ぎれば同じように大腸がんの発症率が上がります。
図8-4は各国の食肉摂取量と大腸がんの発症率をグラフにしたものです。発症率が高い順に、ニュージーランド、米国、カナダ、デンマーク、英国となっていて、たしかに1人あたりの食肉摂取量が多い国ほど、大腸がんの発症率が高い傾向が見られます。
1970年代の調査にもとづくデータと思われますが、日本はまだ肉の摂取量が少なく、大腸がんになる人も少なかったのがわかります。
その後、日本人8万人を対象に2006年まで実施された調査からは、男性は鶏肉を含むすべての肉、女性は鶏肉をのぞく牛、豚、羊などの肉を多く食べると、どちらも結腸がんの発症率がおよそ1・5倍上がるというデータが得られました。
肉の大量摂取により大腸がんの発症率が高まることを示す研究結果が集まってきたことから、国際がん研究機関は、2015年に、牛、豚、羊などの肉は「おそらく発がん性がある」、ハム、ソーセージなどの加工肉は「発がん性がある」と発表しました。
この発表を受けて、じゃあ、どのくらいなら食べても問題ないのか、鶏肉は大丈夫か、と、ちょっとした騒ぎになったのをおぼえている人もいるでしょう。肉は日常的に口にするものなので、心配になるのも当然です。
答えを先に言ってしまうと、食べる量が増えると大腸がんの発症率が上がるのは確かなものの、ここまでなら大丈夫、と線を引くことはできていません。また、鶏肉については研究が不十分で、安全かどうかもはっきりしていないのが実情です。
大腸がんの発症率が極端に違う例
そして、それ以上に問題を難しくしているのが、肉の摂取量が同じくらいでも、大腸がんの発症率が極端に違う例があることです。
まず、図8-5の上のグラフを見てください。これは、2007年の、女性1人あたりの年間の食肉摂取量を国ごとにくらべたものです。ここで女性に限定したのは、女性は喫煙や飲酒などの、発がんと関連するおそれのある生活習慣を持つ人が少ないため、肉の摂取と大腸がんの関係をより正確に判断できるからです。
これらの国の中では、日本は最も肉の摂取量が少ないことがわかります。先の図8-4の統計から約40年たち、日本で食の欧米化が進んでいますが、こうやって見ると日本人の肉の摂取量は欧米とはくらべものになりません。
では、各国の大腸がんの発症率はどうでしょう。
それを示したのが下のグラフで、こちらは2012年のデータです。驚いたことに、肉の摂取量が日本とそれほど変わらない韓国は世界トップクラス、日本はそれより低いのですが、グラフのほぼ右端にあるモンゴルに注目してください。
なんと、こんなに低いのです。ご存知のようにモンゴルは牧畜が盛んで、肉と乳製品をしっかり摂取します。それなのに大腸がんになる人の割合が非常に低い。
ひょっとして、モンゴル人がよく食べる羊肉が体に良いのかと思いそうになりますが、世界保健機関(WHO)は、大腸がんの発症率をあげる食肉として、牛肉、豚肉に加えて、羊、馬、山羊の肉をあげています。
遺伝的素因が似ているはずのアジアの国々で、肉の摂取量と大腸がん発症率の関係がここまで違うとなると、肉の摂取以外の影響を考えるしかありません。さらに、最も多く肉を摂取している米国女性の大腸がんの発症率が、日本女性より、ほんの少し低くなっています。
これは、ちょっとショックですね。日本人は米国白人より大腸がんになりやすい遺伝的素因を持っていますが、それに加えて、米国は1970年代から政府主導で大腸がん対策を続けています。
健康的な生活をすすめるキャンペーンにより、牛肉に代わって豚肉、鶏肉、魚の消費が伸び、運動する習慣を持つ人が増え、大腸がんになる人の割合が次第に下がり始めました。生活習慣全体の変化が効果を上げているようです。
肉は発がん性物質の材料になるものの、胃がんでは、野菜と果物に含まれるビタミンCが発がん性物質の合成を強力におさえて、がんの発症を防いでいました。では、野菜と果物には、大腸がんの発生を防ぐ効果もあるのでしょうか?
残念ながら、これまたはっきりしないのです。世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究機構は、野菜摂取は大腸がん予防に「確実に」効果があると発表していましたが、2007年に表現をやわらげて、効果がある「可能性がある」と修正しました。
そのため、日本で大規模な調査をおこなったところ、野菜をどれだけ食べても、大腸がんの発症率はまったく変わらなかったのです。
これは、日本人は野菜を食べても意味がないということではありません。研究者らは、日本人はもともと欧米人とくらべて野菜の摂取量が多いので、あまり食べていない人と、より多く食べている人を比較しても、発症率に差が見られなかったのではないかと述べています。
それなら魚はどうでしょう。魚には、悪玉LDLが増えても動脈硬化になりにくくするほどの威力があります。動脈硬化と同じく、欧米で多い大腸がんも防いでくれそうな気がしませんか?
はい、そのとおりです。動物実験や、実験室でおこなわれた研究から、魚に含まれるEPAとDHAが大腸がんを予防するという報告が寄せられています。
また、米国で2万人以上の男性を対象に実施された調査からは、週に5回以上魚を食べる人は、週にせいぜい1回しか食べない人とくらべて、大腸がんの発症率が40%も低いという結果が得られました。
日本では約9万人を対象にもっとくわしい調査がおこなわれ、魚からEPA、DHAを多く摂取しているグループは、結腸の入り口付近にできる大腸がんの発症率が、やはり40%下がることが明らかになりました。半分近くになるということです。
先に見たように、大腸はいくつかの部位に分かれています。大腸がん全体に対する魚の効果については、さらに研究が必要ですが、少なくとも結腸がんの一部には有効です。
さらに連載記事<「胃がん」や「大腸がん」を追い抜き、いま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」>では、日本人とがんの関係について、詳しく解説しています。